第1章 生命の起源と細胞の進化

生命の起源
─ 化学進化から最初の細胞へ

約46億年前に誕生した地球に、生命はまだ存在していませんでした。
煮えたぎるマグマの海、有毒ガスに満ちた大気──そんな過酷な世界から、どのようにして「生きもの」が生まれたのでしょうか。
生命誕生の謎に、現代の科学が迫ります。

1原始地球 ─ 生命が生まれる前の世界

地球は約46億年前に誕生しました。 しかし、誕生直後の地球は現在とはまるで異なる姿をしていました。 表面はドロドロに溶けたマグマの海に覆われ、気温は数千度に達していました。

原始大気の組成

やがて地球が少しずつ冷えると、岩石の表面が固まって地殻が形成されました。 このころの大気(原始大気)は、現在の大気とはまったく異なる組成でした。

原始大気には水蒸気(H2O)二酸化炭素(CO2窒素(N2が多く含まれていましたが、酸素(O2)はほとんど存在しませんでした。 酸素は後に光合成生物が登場して初めて大量に放出されるようになります。

原始海洋の形成

地球がさらに冷えると、大気中の大量の水蒸気が凝結して激しい雨となり、低いところにたまって原始海洋が形成されました。 この海こそが、生命誕生の舞台となります。 原始海洋には大気中の二酸化炭素が溶け込み、さまざまな無機物が含まれていたと考えられています。

ポイント:原始地球の環境
  • 地球は約46億年前に誕生
  • 原始大気:H2O、CO2、N2が主成分。O2はなかった
  • 地球が冷却 → 水蒸気が凝結 → 原始海洋が形成
  • この海が生命誕生の舞台となった

2化学進化 ─ 無機物から有機物へ

生物の体はタンパク質や核酸などの有機物でできています。 しかし、生命が誕生する前の地球には生物がいないのですから、有機物を「つくってくれる存在」もいません。 では、最初の有機物はどうやって生まれたのでしょうか。

生命が誕生する以前に、無機物から有機物が非生物的に合成された過程を化学進化といいます。 「進化」という言葉がついていますが、これは生物の進化ではなく、分子の複雑化のプロセスです。

ミラーの実験(1953年)

化学進化が実際に起こりうることを実験で示したのが、アメリカのミラーです。 ミラーは原始大気の成分と考えられていた気体(メタン CH4、アンモニア NH3、水素 H2、水蒸気 H2O)を密閉したフラスコに入れ、雷に見立てた放電を繰り返しました。

すると1週間後、フラスコの中にはアミノ酸をはじめとするさまざまな有機物が生成されていました。 この実験は、原始地球の環境で有機物が自然に合成されうることを初めて実証した画期的な成果でした。

発展:原始大気の組成をめぐる論争

ミラーの時代には、原始大気はメタン・アンモニアなどを含む還元的大気だったと考えられていました。しかし現在では、原始大気はCO2とN2が主成分の弱酸化的大気だったとする説が有力です。ただし、CO2とN2を使った実験でもアミノ酸が生成されることが確認されており、化学進化そのものの考え方は否定されていません。

有機物が生まれた場所

化学進化が起こった場所として、現在は複数の候補が考えられています。

①大気中 ── 雷や紫外線のエネルギー

ミラーの実験が示したように、大気中で放電(雷)や紫外線のエネルギーによって有機物が合成された可能性があります。原始地球にはオゾン層がなかったため、太陽からの強力な紫外線が地表に降り注いでいました。

②海底の熱水噴出孔 ── 高温・高圧の化学工場

深海底には、高温の熱水が噴き出す熱水噴出孔があります。ここでは硫化水素(H2S)や水素(H2)が豊富で、高温・高圧の環境が有機物の合成を促します。紫外線による分解を受けないため、生成された有機物が蓄積しやすいという利点もあります。現在では、この熱水噴出孔が生命誕生の有力な候補地と考えられています。

③宇宙からの供給 ── 隕石に乗ってきた有機物

隕石の中にはアミノ酸などの有機物が含まれているものがあります。原始地球には大量の隕石が降り注いでいたため、宇宙由来の有機物も化学進化に寄与した可能性があります。

🔬深掘り:ミラーの実験の衝撃 ─ 生命は「つくれる」のか?

1953年、ミラーの実験結果は世界を驚かせました。「生命のない環境から、生命の材料であるアミノ酸が自然にできる」ことを示したからです。この実験は、生命の起源を科学的に研究できるテーマとして確立した点で、歴史的な意義をもっています。

ミラーが当時使った原始大気の組成は現在では正確でないとされていますが、2008年にミラーの研究室から見つかった未分析のサンプルを最新の技術で調べたところ、20種類以上のアミノ酸が検出されました。原始大気の組成が異なっていても、化学進化の基本的な原理は変わらないのです。

3生命への道 ─ 有機物から細胞へ

化学進化でアミノ酸や糖などの小さな有機物が生まれたとしても、それだけでは「生命」とは呼べません。 生命が誕生するには、これらの有機物が集まり、膜で囲まれた構造をつくり、自己複製の能力を獲得する必要がありました。

有機物の濃縮と高分子の形成

原始海洋に溶け込んだ有機物は、潮だまりや粘土の表面などで濃縮されたと考えられています。 アミノ酸が結合してポリペプチド(タンパク質の原型)が生じ、ヌクレオチドが結合して核酸の原型が生まれました。

膜構造の自発的形成

脂質分子は水中で自発的にリポソーム(脂質二重層の小胞)を形成します。 このリポソームの内部に高分子が閉じ込められることで、外部環境と区別された「原始的な細胞」のような構造が生まれた可能性があります。

ロシアのオパーリンは、有機物が水中で集合して膜状の構造をもつコアセルベートをつくることを示し、これが原始的な細胞の原型ではないかと提唱しました(1936年)。

ポイント:生命誕生に必要な3つの条件
  • 膜構造 ── 内部環境を外部から隔てる境界
  • 代謝 ── エネルギーを利用して化学反応を行う能力
  • 自己複製 ── 遺伝情報を次の世代に伝える能力

4RNAワールド ─ 最初の「生命分子」は何だったのか

現在の生物では、遺伝情報はDNAに保存され、タンパク質(酵素)が化学反応を触媒しています。 ところが、DNAは自力で複製できず、タンパク質の助けが必要です。 一方、タンパク質をつくるにはDNAの情報が必要です。 まるで「ニワトリが先か、卵が先か」──では、最初に登場したのはどちらでしょうか。

RNAの二面性

この問いに対する有力な答えがRNAワールド仮説です。 RNAには、他の核酸にはない特別な性質があります。

  • DNAと同じく、塩基配列として遺伝情報を保持できる
  • タンパク質と同じく、特定の化学反応を触媒できる(リボザイム

つまりRNAは、遺伝情報の保持と化学反応の触媒という2つの機能を1つの分子で兼ねることができるのです。 生命の初期段階では、RNAが遺伝子としても酵素としても働く「RNAワールド」が存在したと考えられています。

RNAワールドからDNAワールドへ

RNAワールドで生命が発展するうちに、やがてRNAよりも化学的に安定なDNAが遺伝情報の保存を担うようになり、触媒機能はより効率的なタンパク質に受け継がれていきました。 こうして、現在の「DNA → RNA → タンパク質」というセントラルドグマの仕組みが確立されたと考えられています。

🔬深掘り:リボザイムの発見 ─ RNAワールド仮説を支えた大発見

1982年、トーマス・チェックはテトラヒメナ(繊毛虫)のrRNA前駆体が、タンパク質の助けなしに自分自身を切断・再結合することを発見しました。同じころ、シドニー・アルトマンもRNAが触媒活性をもつことを見出しました。この「触媒活性をもつRNA」=リボザイムの発見は、RNAワールド仮説に強力な実験的根拠を与え、2人は1989年のノーベル化学賞を受賞しました。

さらに注目すべきは、現在の細胞でもリボソームの触媒中心はRNAで構成されているということです。つまり、タンパク質合成という生命の根幹の反応を触媒しているのは、実はRNAなのです。これはリボソームがRNAワールドの「生きた化石」であることを示唆しています。

5最初の生命と初期進化 ─ 独立栄養か従属栄養か

最初の生命は、約40億年前ごろに誕生したと推定されています。 西オーストラリアの約35億年前の地層からは、ストロマトライト(シアノバクテリアの活動によって形成された層状の岩石構造)の化石が見つかっており、少なくとも35億年前には生物が存在していたことがわかっています。

最初の生物は何を「食べて」いたか

最初の生物は、原始海洋中に蓄積された有機物をエネルギー源として利用する従属栄養生物であったと考えられています。 このとき酸素はほとんど存在しなかったため、エネルギーの獲得は酸素を使わない嫌気的な方法(発酵に近いしくみ)で行われていたはずです。

光合成の登場と大気の変革

やがて、光エネルギーを利用してCO2から有機物を合成できる光合成生物が出現しました。 とくに重要なのは、約27億年前に登場したシアノバクテリアです。 シアノバクテリアは水を分解して酸素を放出する酸素発生型光合成を行い、大気中に大量の酸素を放出しました。

この酸素の蓄積は地球環境を劇的に変えました。 酸素を利用して有機物を効率よく分解できる好気性生物が登場し、やがて酸素を使った呼吸(好気呼吸)が生命活動の主流になっていきます。

時期(約)できごと
46億年前地球の誕生
40億年前最初の生命の誕生(嫌気性の従属栄養生物)
35億年前ストロマトライトの化石(光合成生物の証拠)
27億年前シアノバクテリアの大繁殖 → 酸素の蓄積開始
20億年前真核生物の出現(細胞内共生)
10億年前多細胞生物の出現
5.4億年前カンブリア爆発(多様な動物門の出現)
🔬深掘り:大酸化イベント ─ 酸素が「毒」だった時代

現在の私たちにとって酸素は不可欠ですが、約27億年前にシアノバクテリアが酸素を放出し始めたとき、それは多くの生物にとって「猛毒」でした。酸素は反応性が高く、当時の嫌気性生物の酵素やDNAを酸化して損傷させたのです。

この大酸化イベント(約24〜22億年前)は、地球史上最大規模の環境変動の一つでした。嫌気性生物の多くは絶滅するか、酸素の少ない環境に追いやられました。一方で、酸素を利用してATPを大量に合成できる好気性生物が繁栄し始めます。毒であった酸素を逆手にとって「燃料」にした生物が、進化の勝者となったのです。

🔬深掘り:熱水噴出孔と生命の起源 ─ 最新の仮説

近年注目を集めているのが、深海のアルカリ性熱水噴出孔での生命誕生シナリオです。この環境では、噴出する熱水(アルカリ性)と海水(酸性)の間にpHの勾配が自然に形成されます。

現在の生物のミトコンドリアは、膜の内外のプロトン(H+)濃度勾配を利用してATPを合成しています。熱水噴出孔のpH勾配は、この仕組みの「原型」だった可能性があります。つまり、最初の生命は熱水噴出孔が提供する天然のエネルギー勾配を利用して代謝を始めたかもしれない──これが「アルカリ熱水噴出孔仮説」の骨子です。

6この章を俯瞰する ─ 生命誕生のシナリオ

ここまで、原始地球の環境から化学進化、RNAワールド、そして最初の生命の誕生までの道のりをたどってきました。 全体を振り返り、この壮大なストーリーの流れを整理しましょう。

生命誕生の大きな流れ

生命の誕生は、大きく以下のステップに分けることができます。

  1. 原始地球の形成 → 原始大気(O2なし)と原始海洋の形成
  2. 化学進化 → 無機物からアミノ酸・ヌクレオチドなどの有機物が非生物的に合成
  3. 高分子の形成 → 有機物が濃縮・結合してタンパク質・核酸の前駆体が生まれる
  4. 膜構造の形成 → 脂質二重層が自発的にリポソームを形成し、内部と外部が分離
  5. RNAワールド → 自己複製と触媒機能をもつRNAが生命の中心分子として機能
  6. 最初の細胞 → 膜に包まれたRNA(やがてDNA)をもつ、自己複製可能な最小のシステム

この章と他の章のつながり

生命の起源の知識は、進化の全体像を理解するうえでの出発点です。以下に主要なつながりを整理しておきましょう。

他の章へのつながりマップ

  • 細胞内共生説 → 1-2「細胞の進化」:好気性細菌を取り込んだ原始真核細胞がミトコンドリアを、シアノバクテリアを取り込んだ系統が葉緑体を獲得した。
  • 化学進化と有機物 → 4-3「生体物質と水」:化学進化で生まれたアミノ酸・糖・脂質・ヌクレオチドが、現在の生物の体をつくる有機物の基本となっている。
  • RNAワールド → 6-3「転写」/ 6-4「翻訳」:現在のセントラルドグマ(DNA→RNA→タンパク質)は、RNAワールドから段階的に進化した仕組みと考えられる。
  • 光合成の進化 → 5-5「光合成①」:シアノバクテリアが獲得した酸素発生型光合成のしくみを、分子レベルで詳しく学ぶ。
  • 嫌気的代謝 → 5-4「発酵」:最初の生命が行っていた嫌気的なエネルギー獲得のしくみは、現在の発酵と共通する原理で動いている。
  • 分子系統 → 3-1「生物の分類と系統樹」:rRNAの塩基配列比較などの分子的手法で、すべての生物が共通祖先をもつことが実証されている。

まとめ

  • 地球は約46億年前に誕生。原始大気に酸素はなかった
  • 化学進化:無機物からアミノ酸などの有機物が非生物的に合成された過程
  • ミラーの実験(1953年):原始大気を模した条件で放電し、アミノ酸の生成を実証
  • 有機物の生成場所として、大気中・熱水噴出孔・宇宙(隕石)が候補
  • RNAワールド仮説:遺伝情報の保持と触媒機能を兼ねるRNAが、最初の生命分子であった
  • リボザイム(触媒活性をもつRNA)の発見がRNAワールド仮説を支持
  • 最初の生命は嫌気性の従属栄養生物と考えられている
  • シアノバクテリアの酸素発生型光合成により、大気に酸素が蓄積した

確認クイズ

Q1. 「化学進化」とは何ですか?

▶ クリックして解答を表示生命が誕生する以前に、無機物からアミノ酸などの有機物が非生物的に合成された過程のことです。原始地球の雷・紫外線・熱水噴出孔のエネルギーなどによって起きたと考えられています。

Q2. ミラーの実験では、何を示すことに成功しましたか?

▶ クリックして解答を表示原始大気の成分と考えられていた気体に放電を加えることで、アミノ酸などの有機物が非生物的に合成されることを示しました。化学進化が実際に起こりうることを実験で実証した点が画期的でした。

Q3. RNAワールド仮説が支持される理由を1つ挙げてください。

▶ クリックして解答を表示RNAが遺伝情報の保持と化学反応の触媒(リボザイム)の両方の機能をもつことが発見されたからです。これにより、DNAもタンパク質もない段階でRNAだけで生命活動が可能だったと考えられるようになりました。

Q4. 原始大気に酸素がほとんど含まれていなかったのに、現在の大気に酸素が豊富に含まれている理由は?

▶ クリックして解答を表示シアノバクテリアなどの光合成生物が、水を分解して酸素を放出する酸素発生型光合成を行い、大気中に大量の酸素を蓄積させたためです。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

1-1-1 A 基礎 知識 穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( キ )に入る適切な語句を答えよ。

地球は約( ア )億年前に誕生した。原始大気には( イ )がほとんど含まれていなかった。 生命の誕生に先立ち、無機物からアミノ酸などの有機物が非生物的に合成された過程を( ウ )という。 1953年、( エ )は原始大気を模した気体に放電することでアミノ酸の合成に成功した。 生命の初期段階では、遺伝情報の保持と触媒機能の両方を担う( オ )が中心的な役割を果たしていたとする( カ )仮説が有力である。 触媒機能をもつRNAは( キ )と呼ばれる。

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解答

ア:46 イ:酸素(O2) ウ:化学進化 エ:ミラー オ:RNA カ:RNAワールド キ:リボザイム

解説

生命の起源に関する基本用語を問う問題です。原始大気に酸素がなかったことは頻出ポイントです。酸素が大気中に蓄積し始めたのは、シアノバクテリアの酸素発生型光合成が始まった約27億年前以降です。化学進化は「生物の進化」とは区別して理解しましょう。

1-1-2 A 基礎 選択

生命の起源と初期進化に関する記述として誤っているものを、次の①〜⑤から1つ選べ。

  • ① 原始大気には水蒸気・二酸化炭素・窒素が含まれていたが、酸素はほとんど含まれていなかった。
  • ② 化学進化とは、無機物からアミノ酸などの有機物が非生物的に合成された過程である。
  • ③ ミラーの実験では、原始大気を模した気体に放電して有機物の合成を実証した。
  • ④ 最初の生命は、光エネルギーを利用して有機物を合成する独立栄養生物であったと考えられている。
  • ⑤ 大気中の酸素濃度は、シアノバクテリアの光合成によって増加した。
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解答

解説

④が誤りです。最初の生命は、原始海洋中に蓄積された有機物をエネルギー源として利用する従属栄養生物であったと考えられています。光合成を行う独立栄養生物が出現したのは、その後のことです。

①〜③、⑤はいずれも正しい記述です。特に①の「原始大気に酸素がなかった」というポイントは、④の「最初の生物は嫌気性」という理解にもつながる重要な事実です。

B 標準レベル

1-1-3 B 標準 論述

生命の起源に関する次の問いに答えよ。

(1) 現在の生物はDNAに遺伝情報を保存し、タンパク質が触媒として機能する。生命の起源を考えるとき、「DNAが先か、タンパク質が先か」という問題が生じる理由を50字以内で述べよ。

(2) RNAワールド仮説が上記の問題に対する解答となりうる理由を、RNAの性質に着目して60字以内で述べよ。

(3) RNAワールド仮説を支持する科学的事実を2つ挙げよ。

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解答

(1) DNAの複製にはタンパク質(酵素)が必要であり、タンパク質の合成にはDNAの情報が必要だから。(44字)

(2) RNAは遺伝情報の保持と化学反応の触媒の両方の機能をもつため、RNAだけで自己複製が可能だったと考えられるから。(54字)

(3)

・触媒活性をもつRNA(リボザイム)が発見された。

・リボソームの触媒中心(ペプチド結合形成を触媒する部位)がRNAで構成されている。

解説

(1) 現在の生物では、DNAの複製にはDNAポリメラーゼなどの酵素(タンパク質)が必要です。一方、タンパク質の合成にはDNAにコードされた遺伝情報が必要です。両者が互いに依存しているため、どちらが先に存在したのかという「鶏と卵」の問題が生じます。

(2) RNAは1本鎖の核酸で、立体構造をとることで触媒活性(リボザイム)を発揮できます。同時に、塩基配列として遺伝情報を保持することもできます。この二面性により、DNAもタンパク質もない段階でRNAだけで自己複製と触媒の両方を担えたと考えられます。

(3) 他にも、生命に不可欠なATP・NAD+・コエンザイムAなどの補酵素にRNAの構成成分(リボースやアデニン)が含まれていることも、RNAワールドの名残とされています。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • RNAが遺伝情報を保持できることに言及(2点)
  • RNAが触媒活性をもつことに言及(2点)
  • 1つの分子で両方の機能を兼ねられることに言及(2点)

C 発展レベル

1-1-4 C 発展 実験考察 論述

ミラーの実験とその後の研究に関する次の文を読み、あとの問いに答えよ。

ミラー(1953年)は、原始大気の組成と考えられていた気体(メタン、アンモニア、水素、水蒸気)を密閉フラスコに封入し、水を加熱して水蒸気を循環させながら放電を行った。1週間後、フラスコ内の水溶液を分析したところ、複数の種類のアミノ酸が検出された。

しかし、現在では原始大気の主成分はメタンやアンモニアではなく、二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)であったとする説が有力となっている。

(1) ミラーの実験で、加熱した水とフラスコ上部の放電はそれぞれ原始地球の何に相当するか答えよ。

(2) この実験でフラスコ内に酸素を含む気体を入れなかった理由を30字以内で述べよ。

(3) 原始大気の組成がミラーの想定と異なっていたとしても、化学進化の考え方そのものは否定されないと考えられている。その根拠として適切な事実を1つ述べよ。

(4) 深海の熱水噴出孔が生命誕生の場として有力視される理由を、「紫外線」の語を用いて50字以内で述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 加熱した水:原始海洋 放電:原始地球での雷

(2) 原始大気に酸素はほとんど含まれていなかったから。(24字)

(3) CO2とN2を主成分とする気体を用いた実験でも、アミノ酸の合成が確認されている。

(4) 深海底では紫外線による有機物の分解を受けないため、合成された有機物が安定に蓄積できるから。(44字)

解説

(1) ミラーの実験装置は原始地球の環境を模したモデルです。加熱された水(→水蒸気)は原始海洋を、放電は雷を、フラスコ全体は原始地球の大気圏を模しています。生成された有機物は冷却器で液化されて「海」に蓄積されます。

(2) 原始大気に酸素が存在しなかったことは、生命の起源を考えるうえで極めて重要なポイントです。酸素が存在すると有機物が酸化分解されてしまい、化学進化で生成された有機物が蓄積できないからです。

(3) ミラーの実験では還元的大気(CH4, NH3を含む)を使いましたが、現在有力な弱酸化的大気(CO2, N2主体)でも有機物合成は確認されています。また、隕石中にもアミノ酸が見つかっており、複数の経路で化学進化が起こりうることが示されています。

(4) 原始地球にはオゾン層がなく、太陽からの強い紫外線が地表に直接降り注いでいました。紫外線は有機物を分解するため、地表や浅い海では有機物の蓄積が困難です。一方、深海底の熱水噴出孔は紫外線が届かないため、生成された有機物が安定に存在でき、さらに高温・高圧の環境が有機物の合成を促進する条件を提供します。

採点ポイント((4)の論述・6点満点の場合)
  • 紫外線による有機物の分解に言及(3点)
  • 深海底で有機物が蓄積できることに言及(3点)