第1章 生命の起源と細胞の進化

生物界の変遷と地球環境の変化
─ 46億年の「いのちの年表」

地球の歴史46億年を1年間のカレンダーに圧縮すると、最初の生命が誕生するのは2月、
多細胞生物が現れるのは10月、恐竜が絶滅するのは12月26日、ヒトが登場するのは大晦日の夜11時58分です。
この途方もなく長い歴史のなかで、生物と地球環境はどのように影響を与え合ってきたのでしょうか。

1地質時代の区分 ─ 地球の歴史を読む方法

地球の歴史を語るには、まず「時代の区切り方」を知る必要があります。 地質学者たちは、地層に残された化石と環境の変化に基づいて、地球の歴史を大きく区分してきました。 これを地質時代といいます。

最も大きな区分は、約5.4億年前を境にした先カンブリア時代と、それ以降(古生代中生代新生代)です。 先カンブリア時代は地球の歴史の約88%を占めますが、化石はごくわずかしか見つかっていません。 一方、古生代以降は多様な化石が残されており、生物の変遷をたどることができます。

時代期間おもなできごと
先カンブリア時代46億〜5.4億年前生命の誕生、シアノバクテリア、真核生物、多細胞生物の出現
古生代5.4億〜2.5億年前カンブリア爆発、魚類→両生類→爬虫類の出現、植物の陸上進出
中生代2.5億〜6500万年前恐竜の繁栄、被子植物・哺乳類・鳥類の出現、恐竜の絶滅
新生代6500万年前〜現在哺乳類の繁栄、被子植物の繁栄、ヒトの出現

2先カンブリア時代 ─ 生命の夜明けから多細胞化まで

先カンブリア時代は地球の歴史の大部分を占める、きわめて長い時代です。 この時代に、生命の誕生、光合成の開始、真核細胞の進化、多細胞生物の出現という、生物史における最も根本的な変化が起きました(詳しくは1-1、1-2参照)。

エディアカラ生物群

先カンブリア時代の終わり(約6億年前)になると、大型の多細胞生物の化石が見つかるようになります。 オーストラリアのエディアカラ丘陵で最初に発見されたエディアカラ生物群は、扁平で柔らかい体をもつ不思議な生物たちです。 現在の動物とはまったく異なる体のつくりをしており、その多くは子孫を残さずに絶滅したと考えられています。

3古生代 ─ 爆発的多様化と陸上への進出

カンブリア爆発

5.4億年前のカンブリア紀に入ると、現在知られている動物門の大部分が比較的短い期間に出現しました。 これをカンブリア爆発といいます。 三葉虫やアノマロカリスなど、硬い殻や複雑な体をもつ動物が一斉に現れたのです。

カナダのバージェス頁岩からは、この時代の多様な動物化石(バージェス動物群)が発見されています。

カンブリア爆発が起きたのか
大酸化イベント以降、大気中の酸素濃度が十分に上昇した
酸素を利用した呼吸により、大型で活発に動く動物が可能になった
捕食者の出現 → 食べられないための硬い殻や防御構造の進化(軍拡競争)
捕食と防御の「軍拡競争」が、体のつくりの爆発的な多様化を引き起こした

植物と動物の陸上進出

古生代のオルドビス紀〜シルル紀(約4.7億年前〜)には、植物が陸上に進出しました。 最初の陸上植物はコケに似た小さな植物で、やがてシダ植物が大森林をつくるようになりました。

植物が陸上に定着すると、それを追うように節足動物(昆虫の祖先など)が、次いでデボン紀(約3.7億年前)に両生類が陸上に進出しました。 さらに石炭紀〜ペルム紀には爬虫類が出現し、乾燥した陸上環境に完全に適応しました。

発展:陸上進出を可能にしたオゾン層 生物

生物が陸上に進出できたのは、シアノバクテリアが放出した酸素からオゾン層が形成され、有害な紫外線が遮られるようになったためです。オゾン層がなければ、陸上のDNAは紫外線で損傷を受け、生物は海の中でしか生きられませんでした。つまり、光合成 → 酸素の蓄積 → オゾン層 → 陸上進出という因果関係があります。

古生代末の大量絶滅

古生代の終わり(ペルム紀末、約2.5億年前)には、地球史上最大の大量絶滅が起きました。 海洋生物の約90%、陸上生物の約70%の種が絶滅したと推定されています。 三葉虫もこのとき完全に姿を消しました。 原因は大規模な火山活動とそれに伴う環境変動と考えられています。

4中生代と新生代 ─ 恐竜の時代からヒトの時代へ

中生代 ─ 恐竜の繁栄

中生代は「恐竜の時代」です。 ペルム紀末の大量絶滅を生き延びた爬虫類のなかから恐竜が出現し、約1.6億年もの間、陸上で繁栄しました。 この時代には哺乳類鳥類も出現しましたが、恐竜の陰で小さな体のまま暮らしていました。

植物界では、中生代前半は裸子植物(ソテツ、イチョウなど)が繁栄し、白亜紀の中頃(約1億年前〜)になると被子植物が出現して急速に広がりました。

恐竜の絶滅(白亜紀末)

6500万年前、巨大な隕石の衝突をきっかけに、恐竜を含む多くの生物が絶滅しました。 これが白亜紀末の大量絶滅です。

新生代 ─ 哺乳類と被子植物の繁栄

恐竜が姿を消した後、空いた生態的ニッチを埋めるように哺乳類が急速に多様化しました。 クジラ、コウモリ、ウマ、サルなど、現在見られるさまざまな哺乳類がこの時代に進化しています。

植物界では被子植物が繁栄し、花粉を運ぶ昆虫との共進化が進みました。 新生代の後期(約700万年前〜)には、アフリカでヒトの祖先(人類)が出現しました。

ポイント:大量絶滅が進化を加速させる
  • 大量絶滅は多くの種を消滅させるが、生き残った種に新たな進化の機会を与える
  • 古生代末の大量絶滅 → 恐竜の繁栄
  • 白亜紀末の大量絶滅 → 哺乳類の繁栄
  • 「破壊と創造」の繰り返しが、生物の多様性を生み出してきた

5進化の証拠 ─ 過去の生物をどうやって知るか

生物が長い時間をかけて変化してきたことは、さまざまな証拠から裏づけられています。 ここでは、進化を支持する代表的な証拠を整理します。

化石の証拠

化石は進化の最も直接的な証拠です。 地層中の化石のうち、特定の地質時代にのみ産出し、その時代を特定する指標となる化石を示準化石といいます。 一方、生物の生息環境を推定する手がかりとなる化石を示相化石といいます(例:サンゴの化石 → 温暖で浅い海)。

地層の重なりから時代の前後関係を決めるものを相対年代放射性同位体の崩壊を利用して実際の年数を測定するものを絶対年代放射性同位体年代測定)といいます。

化石から進化の途中段階を示す証拠も見つかっています。 たとえばウマの祖先の化石を時代順に並べると、体の大型化・趾(あしゆび)の数の減少・歯の変化が段階的に進んだことがわかります。 このように進化の経過を示す一連の化石を系統化石(ウマの進化の系列)といいます。

始祖鳥は、歯や翼の爪など爬虫類の特徴と、羽毛や翼など鳥類の特徴をあわせもつ化石であり、爬虫類と鳥類をつなぐ中間型化石として有名です。

また、古代にはたくさんの仲間がいたのに、ほぼ当時の姿のまま現在まで生き残っている生物を生きている化石といいます。 代表例としてシーラカンス(魚類)、カブトガニ(節足動物)、メタセコイア(裸子植物)などがあります。

形態学上の証拠

共通祖先に由来する同じ起源の構造を相同器官といいます。 脊椎動物の前肢は、ヒトの腕・コウモリの翼・クジラの胸びれ・ウマの前脚と、見かけや機能は異なりますが骨格の基本パターンは共通しており、共通祖先から受け継いだものです。

一方、起源が異なるのに似た環境への適応で似た形になった器官を相似器官といいます。 たとえばコウモリの翼(前肢が変化)とチョウの羽(体壁の突出物)は、飛ぶ機能は同じですが起源がまったく異なります。

かつて機能をもっていたが、現在はほとんど機能を失っている器官を痕跡器官といいます。 ヒトの虫垂(草食動物では大きなセルロース分解器官)や尾骨(尾の痕跡)が代表例です。 痕跡器官の存在は、祖先が異なる体のつくりをもっていたことの証拠です。

発生学上の証拠

ヘッケルは、脊椎動物の胚の発生初期がよく似ていることに注目し、発生反復説(「個体発生は系統発生を繰り返す」)を唱えました。 たとえば、ヒトの胚にも一時的にえら(鰓裂)や尾が見られます。 現在では反復説は厳密には成り立たないとされていますが、発生初期の類似は共通祖先の存在を強く示唆する証拠です。

全球凍結(スノーボールアース)

地球の歴史では、地表全体が氷に覆われた全球凍結スノーボールアース)が少なくとも2回起きたと考えられています。 約22億年前の凍結は大酸化イベントに関連し、約7億年前の凍結はエディアカラ生物群やカンブリア爆発に先立つ時期に起きました。 凍結の解除後に爆発的な生物進化が起きたとする仮説が注目されています。

パンゲアと大陸移動

古生代末から中生代初期にかけて、すべての大陸はパンゲアという1つの超大陸を形成していました。 中生代にパンゲアが分裂して各大陸が離れていくと、大陸ごとに生物が独自に進化しました。 オーストラリアの有袋類の多様化や、マダガスカルの固有種の多さは、大陸移動による地理的隔離適応放散の結果です。

6この章を俯瞰する ─ 生物と地球環境の共進化

この記事では、46億年にわたる地球と生物の歴史を駆け足でたどってきました。 その歴史を貫くテーマは、生物の進化と地球環境が互いに影響を与え合ってきたということです。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 進化のしくみ → 第2章「進化のしくみ」:カンブリア爆発や大量絶滅後の多様化は、自然選択・遺伝的浮動・種分化といった進化のメカニズムの結果。
  • 系統と分類 → 第3章「生物の系統と進化」:地質時代に出現した生物群の系統関係を、分子系統樹を使って整理する。
  • 光合成 → 5-5, 5-6「光合成のしくみ」:シアノバクテリアが獲得した酸素発生型光合成が、地球環境を根本的に変えた。
  • 生態系 → 13-3「生態系のバランスと人間生活」:大量絶滅と生態系の回復のパターンは、現在の環境問題を考える手がかりになる。
  • 人類の進化 → 3-4「人類の起源と進化」:新生代にアフリカで出現したヒトの祖先の進化をたどる。

7まとめ

  • 地球の歴史は先カンブリア時代古生代中生代新生代に区分される
  • 先カンブリア時代末にエディアカラ生物群(大型の軟体動物)が出現した
  • 古生代初期のカンブリア爆発で、現在の動物門の大部分が出そろった
  • 古生代に植物 → 節足動物 → 両生類 → 爬虫類の順で陸上に進出した
  • 古生代末(ペルム紀末)に地球史上最大の大量絶滅が起きた
  • 中生代は恐竜の時代。哺乳類・鳥類・被子植物もこの時代に出現
  • 約6500万年前の白亜紀末の大量絶滅後、哺乳類被子植物が繁栄した
  • 大量絶滅は「破壊」だが、生き残った種に新たな進化の機会を与える「創造」でもある
  • 進化の証拠:化石(示準化石・示相化石・中間型化石)、相同器官相似器官痕跡器官発生反復説
  • 始祖鳥は爬虫類と鳥類をつなぐ中間型化石。生きている化石=シーラカンス、カブトガニ、メタセコイア
  • 約22億年前・約7億年前に全球凍結(スノーボールアース)が起きた
  • 中生代に超大陸パンゲアが分裂し、大陸ごとに独自の生物進化が進んだ

8確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

地質時代を古い順に4つ答えよ。

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解答

先カンブリア時代 → 古生代 → 中生代 → 新生代。先カンブリア時代が最も長く、地球の歴史の約88%を占めます。

Q2

カンブリア爆発とは何か。簡潔に説明せよ。

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解答

約5.4億年前のカンブリア紀に、現在知られている動物門の大部分が比較的短い期間に出現した現象のことです。三葉虫など硬い殻をもつ動物が一斉に現れました。

Q3

恐竜の絶滅後に哺乳類が繁栄した理由を、「生態的ニッチ」の語を用いて説明せよ。

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解答

恐竜が絶滅したことで、恐竜が占めていた生態的ニッチ(環境や資源)が空いたため、それを埋めるように哺乳類が急速に多様化・大型化して繁栄しました。

9入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

1-3-1 A 基礎 知識 穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

約5.4億年前のカンブリア紀に、現在の動物門の大部分が短い期間に出現した現象を( ア )という。古生代には( イ )が最初に陸上に進出し、次いで動物では( ウ )、( エ )の順に陸上に進出した。古生代末には地球史上最大の( オ )が起き、三葉虫などが絶滅した。中生代には( カ )が繁栄し、約1.6億年にわたって陸上を支配した。

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解答

ア:カンブリア爆発 イ:植物 ウ:両生類 エ:爬虫類 オ:大量絶滅 カ:恐竜

解説

陸上進出の順序は「植物 → 節足動物 → 両生類 → 爬虫類」と覚えましょう。植物が先に陸上に定着して食物となり、それを追って動物が上陸したと考えると理解しやすくなります。古生代末(ペルム紀末)の大量絶滅は海洋生物の約90%が絶滅したとされる最大規模のもので、その後の中生代に恐竜が繁栄する契機となりました。

B 標準レベル

1-3-2 B 標準 論述

生物界の変遷に関する次の問いに答えよ。

(1) 生物の陸上進出を可能にした大気の変化を、「シアノバクテリア」「オゾン層」の2語を用いて50字以内で述べよ。

(2) 大量絶滅が生物の多様化に果たした役割を、「生態的ニッチ」の語を用いて50字以内で述べよ。

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解答

(1) シアノバクテリアの光合成で蓄積した酸素からオゾン層が形成され、有害な紫外線が遮られたため。(44字)

(2) 大量絶滅で空いた生態的ニッチを生き残った種が埋めるように多様化し、新たな生物群が繁栄した。(45字)

解説

(1) 陸上進出とオゾン層の因果関係は頻出テーマです。「シアノバクテリア → 酸素 → オゾン層 → 紫外線遮断 → 陸上進出」の流れを押さえましょう。

(2) 大量絶滅は「破壊」の側面が強調されがちですが、「創造」の側面も重要です。白亜紀末の恐竜絶滅がなければ、哺乳類の多様化も起きず、ヒトも誕生しなかったかもしれません。

採点ポイント((1)の論述・6点満点の場合)
  • シアノバクテリアの光合成で酸素が蓄積したことに言及(2点)
  • オゾン層が形成されたことに言及(2点)
  • 紫外線が遮られ陸上進出が可能になったことに言及(2点)

C 発展レベル

1-3-3 C 発展 実験考察 論述

次の表は、地球の歴史における主要な出来事を時系列で示したものである。あとの問いに答えよ。

記号年代(約)出来事
A40億年前最初の生命の誕生
B27億年前( ア )の繁殖
C20億年前真核生物の出現
D5.4億年前( イ )
E2.5億年前ペルム紀末の大量絶滅
F6500万年前白亜紀末の大量絶滅

(1) 空欄( ア )と( イ )に入る語句を答えよ。

(2) 出来事BとCの間には因果関係がある。Bが起きたことでCが可能になった理由を、「酸素」「好気性細菌」「ATP」の3語を用いて80字以内で述べよ。

(3) 出来事EとFには、いずれも大量絶滅の後に特定の生物群が繁栄するという共通パターンが見られる。Eの後に繁栄した生物群とFの後に繁栄した生物群をそれぞれ答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) ア:シアノバクテリア イ:カンブリア爆発

(2) シアノバクテリアの光合成で蓄積した酸素を利用する好気性細菌が繁殖し、それを原核細胞が取り込むことで、酸素を用いて効率よくATPを合成できる真核細胞が誕生した。(79字)

(3) Eの後:恐竜(爬虫類) Fの後:哺乳類

解説

(1) シアノバクテリアは酸素発生型光合成を行う原核生物で、約27億年前に大繁殖して大気中の酸素濃度を上昇させました。カンブリア爆発は約5.4億年前に動物門が短期間で多様化した現象です。

(2) この問題は1-2の内容(細胞内共生説)と1-3の内容(大気の変化)を統合して答える必要があります。シアノバクテリアが酸素を放出 → 好気性細菌が繁殖 → 好気性細菌を取り込んだ原核細胞がミトコンドリアを獲得 → 効率的なATP合成が可能に → 真核細胞の誕生、という流れです。

(3) 大量絶滅は既存の支配的な生物群を消滅させますが、生き残った生物群に空いた生態的ニッチへの進出と急速な多様化の機会を与えます。ペルム紀末の絶滅後に恐竜が、白亜紀末の絶滅後に哺乳類が、それぞれ繁栄しました。

採点ポイント((2)の論述・8点満点の場合)
  • シアノバクテリアの光合成で酸素が蓄積したことに言及(2点)
  • 好気性細菌が繁殖したことに言及(2点)
  • 好気性細菌の取り込み(細胞内共生)に言及(2点)
  • 効率的なATP合成が可能になったことに言及(2点)