第10章 動物の行動

動物の行動
─ 生得的行動と学習行動

あなたは朝、目覚まし時計の音に慣れてしまったことはありませんか。これは「慣れ」という学習の一種です。
動物の行動には、生まれつきプログラムされた「生得的行動」と、経験によって変化する「学習行動」があります。
イトヨの攻撃行動からアメフラシの神経回路まで、行動のしくみを分子レベルで理解していきましょう。

1生得的行動 ─ 「プログラムされた行動」

動物は外部からの刺激に対してさまざまな行動を示します。そのうち、生まれつき備わっており、経験や学習がなくても起こる定型的な行動を生得的行動といいます。生得的行動は遺伝的なプログラムによって決まっており、同じ種の個体であれば同じパターンで現れます。

走性 ─ 刺激の方向へ向かう・逃げる

刺激に対して一定の方向に移動する行動走性といいます。刺激源に向かう場合を正の走性、遠ざかる場合を負の走性とよびます。

たとえば、ミドリムシは弱い光に向かって移動します(正の走光性)。一方、プラナリアやミミズは光から逃げます(負の走光性)。走性は刺激の種類によって分類されます。

走性の種類刺激源正の走性の例負の走性の例
光走性ミドリムシ(弱い光)、ガプラナリア、ミミズ
化学走性化学物質ハエ(アンモニア)
重力走性重力ゾウリムシ、マイマイ
電気走性電気ゾウリムシ(陰極へ)
音波走性音波コオロギ(雌)
流れ走性水流メダカ、アメンボ

本能行動 ─ 鍵刺激と固定的動作パターン

走性よりも複雑で、一連のまとまった行動パターンとして現れる生得的行動を本能行動といいます。本能行動を引き起こすきっかけとなる特定の刺激を鍵刺激(信号刺激)とよびます。

代表的な例がイトヨ(トゲウオの一種)の攻撃行動です。繁殖期の雄のイトヨは腹部が赤くなり、縄張りをつくります。この雄は、縄張りに入ってきた「腹が赤いもの」に対して激しい攻撃行動を示します。このとき、鍵刺激は「腹部の赤色」です。魚の形をしていなくても、下半分が赤く塗られた棒状の模型に対して攻撃します。逆に、魚の形をしていても腹部が赤くなければ攻撃しません。

鍵刺激によって引き起こされる定型的な行動パターンを固定的動作パターン(FAP: Fixed Action Pattern)とよびます。いったん始まると、途中で刺激がなくなっても最後まで実行される点が特徴です。

発展:超正常刺激 生物

鍵刺激を自然な状態よりも誇張した刺激を与えると、本物以上に強い反応が引き起こされることがあります。これを超正常刺激といいます。たとえば、ミヤコドリに自分の卵よりもはるかに大きな偽の卵を巣に置くと、本物の卵を無視して偽の卵を抱こうとします。イトヨの場合も、腹部がより鮮やかな赤色の模型に対して、実物の雄よりも激しく攻撃します。

イトヨの生殖行動 ─ 鍵刺激の連鎖

イトヨの繁殖行動では、雄と雌の間で鍵刺激が交互にやりとりされます。雄のジグザグダンスが雌の接近を引き起こし、雌の接近(膨らんだ腹部)が雄の巣への誘導行動を引き起こし、雄の誘導が雌の産卵を引き起こす――というように、一方の行動が次の行動の鍵刺激となって連鎖的に進みます。

2ミツバチの8の字ダンス ─ 方向と距離の伝達

ミツバチのコミュニケーションは、生得的行動の精巧さを示す代表例です。蜜を見つけた働きバチは、巣に戻ると巣板の垂直面で8の字ダンス(しり振りダンス)を行い、えさ場の方向と距離を仲間に伝えます。このしくみを発見したのはオーストリアの動物行動学者フォン・フリッシュです。

  • 方向の伝え方:8の字ダンスの中央直線部分を進む方向と、鉛直上方(重力と反対方向)がなす角度が、太陽の方向とえさ場の方向がなす角度と一致する
  • 距離の伝え方:えさ場が遠いほど、単位時間あたりのダンスの回数(中央直線部を通過する頻度)が少なくなる
  • 近距離の場合:えさ場が近い場合は円形ダンスを行う(方向の情報は含まない)
ミツバチは暗い巣の中で方向を伝えられるのか
巣板は垂直に立っており、ミツバチは重力の方向を感知できる
ダンスの中央直線部の方向を鉛直上方を基準とした角度で表現する
仲間のハチはこの角度を読み取り、太陽の方向を基準に変換してえさ場に向かう
つまり「太陽と巣とえさ場の角度」を「重力と巣板上のダンス方向の角度」に置き換えて伝えている

3学習行動 ─ 経験によって変わる行動

生まれてからの経験によって行動が変化することを学習といい、学習によって新たに現れる行動を学習行動(習得的行動)といいます。学習にはさまざまな段階があり、単純なものから高度なものまで幅広く存在します。

慣れと鋭敏化 ─ 最も単純な学習

同じ刺激がくり返されたとき、しだいに反応しなくなることを慣れ(馴化)といいます。慣れは最も単純な学習の一種です。

慣れのしくみは、アメフラシのえら引っ込め反射でよく研究されています。アメフラシの水管に触れると、えらを引っ込める反射が起きますが、同じ刺激をくり返すと反応しなくなります。これは水管の感覚ニューロンの神経終末からの神経伝達物質の放出量が減少し、運動ニューロンへの伝達効率が低下するためです。

慣れが生じた個体の尾などの別の部位に刺激を与えると、水管への刺激で再びえら引っ込め反射が起こるようになります。これを脱慣れといいます。

一方、尾に強い刺激を与えると、普通では反応しないような弱い刺激にまで過剰に反応するようになります。これを鋭敏化(感作)といいます。鋭敏化では、尾の感覚ニューロンと接続する介在ニューロンがセロトニンを水管の感覚ニューロンの神経終末に分泌し、カリウムチャネルが閉じることで活動電位の持続時間が長くなり、カルシウムイオンの流入量が増加して神経伝達物質の放出量が増加します。

ポイント:慣れと鋭敏化のしくみ
  • 慣れ:感覚ニューロンの神経伝達物質の放出量が減少 → 伝達効率が低下
  • 脱慣れ:別の刺激により慣れの状態が解消される
  • 鋭敏化:介在ニューロンからのセロトニンにより、神経伝達物質の放出量が増加 → 弱い刺激にも反応
  • いずれもシナプスでの伝達効率の変化がメカニズム

条件づけ ─ 刺激と行動を結びつける

動物の行動とある条件を結びつける学習を条件づけといいます。条件づけには2つの種類があります。

(1)古典的条件づけ:特定の生得的行動を引き起こす刺激(無条件刺激)と、本来は無関係な刺激(条件刺激)を同時にくり返し提示することで、条件刺激だけで反応が起きるようになる学習です。代表例はパブロフのイヌの実験です。食物(無条件刺激)を見せる直前にベルの音(条件刺激)を聞かせることをくり返すと、やがてベルの音だけで唾液を分泌するようになります。

(2)オペラント条件づけ:特定の鍵刺激がなくても、自発的な行動と報酬(または罰)を結びつけて学習することです。代表例はスキナーの実験で、箱に入れたネズミが偶然レバーを押すとえさが出る装置を用いると、しだいにネズミは自発的にレバーを押す頻度が上がります。

試行錯誤学習と洞察学習

さまざまな試みを通して、うまくいく行動パターンを獲得していく学習を試行錯誤学習といいます。ソーンダイクのネコの実験が有名で、箱に入れたネコがさまざまな動作を試すうちに、ペダルを踏むと脱出できることを学習し、脱出にかかる時間がしだいに短くなります。オペラント条件づけの一形態とも考えられます。

一方、過去の経験をもとに推理して、試行錯誤なしに問題を解決する学習を洞察学習(見通し学習)といいます。チンパンジーが箱を積み上げて高い場所のバナナをとったり、短い棒で長い棒を引き寄せてえさをとるような行動がその例です。洞察学習ができる動物は、脳の大脳皮質が発達した霊長類などに限られます。この行動を知能行動ともよびます。

4刷り込み ─ 生涯消えない特殊な学習

カモやガンなどの鳥類のヒナは、ふ化直後に目にした動く対象を「親」と認識し、追従行動を示します。このように、生後の限られた時期に特定の対象を強く記憶する学習刷り込みインプリンティング)といいます。

この現象を詳しく研究したのがオーストリアの動物行動学者ローレンツです。ローレンツはハイイロガンのヒナが、ふ化直後に最初に見た動く対象を親とみなすことを実験で示しました。

刷り込みには以下の重要な特徴があります。

  • 学習が成立する期間が限られている → この時期を臨界期(敏感期)とよぶ
  • 臨界期を過ぎると同じ学習はほとんど成立しない
  • 一度成立すると生涯にわたって消えにくい(通常の学習のように「消去」されにくい)
  • 報酬や罰がなくても成立する(試行錯誤を必要としない)
発展:小鳥のさえずり学習と臨界期 生物

ある種の小鳥は、幼い時期に親鳥のさえずりの音声パターンを脳に記憶する「感覚学習」と、記憶したパターンを練習してまねる「運動学習」の2段階でさえずりを習得します。感覚学習にも臨界期があり、この時期に親鳥のさえずりを聞かなかった個体は、成長しても正常なさえずりができません。

5この章を俯瞰する ─ 行動は「遺伝子と経験の共演」

動物の行動は「生得的か学習か」の二者択一ではなく、多くの行動は遺伝的な基盤の上に、経験による修正が加わって成り立っています。刷り込みは「臨界期」という遺伝的に決められた時間枠の中で経験による学習が起こる例であり、生得と学習の境界にある行動です。

動物の行動の分類マップ

分類行動の種類特徴代表例
生得的行動走性刺激に対して方向性のある移動ミドリムシの走光性
本能行動鍵刺激で引き起こされる定型パターンイトヨの攻撃行動
コミュニケーション同種個体間の情報伝達ミツバチの8の字ダンス
学習行動慣れ・鋭敏化シナプスの伝達効率の変化アメフラシのえら引っ込め反射
古典的条件づけ無条件刺激と条件刺激の連合パブロフのイヌ
オペラント条件づけ自発的行動と報酬の結びつきスキナーのネズミ
試行錯誤学習試みの反復で正解を獲得ソーンダイクのネコ
洞察学習(知能行動)推理による問題解決チンパンジーの箱積み
生得と学習の中間刷り込み臨界期に成立し消えにくいカモのヒナの追従行動

他の章とのつながりマップ

  • ニューロンとシナプス → 9-2:慣れ・鋭敏化のメカニズムはシナプスでの神経伝達物質の放出量の変化として理解される。
  • 効果器と中枢神経系 → 9-5:反射弓・中枢パターン発生器は生得的行動の神経基盤となる。
  • 個体群の構造 → 11-1:動物の行動(縄張り、コミュニケーション)は個体群の構造と動態に影響する。
  • 遺伝と進化 → 生得的行動は自然選択によって進化してきた適応的な行動パターンである。

6生物リズム・フェロモン・定位行動

概日リズムと生物時計

多くの生物は、外界の明暗条件がなくても約24時間の周期で生理機能や行動が変動します。この内因的なリズムを概日リズムサーカディアンリズム)といいます。概日リズムを生み出すしくみを生物時計(体内時計)と呼びます。

ヒトでは、脳の間脳にある視交叉上核(SCN)が概日リズムの中枢です。視交叉上核の時計細胞には、特定の遺伝子(時計遺伝子)の発現が約24時間周期で増減するしくみがあり、これが体内時計の実体です。生物時計は明暗周期(光環境)に同調して毎日リセットされるため、地球の自転周期と一致した正確なリズムが保たれます。

メラトニンと松果体

松果体は間脳の一部で、メラトニンというホルモンを分泌します。メラトニンは夜間に分泌量が増加し、睡眠・覚醒リズムの調節に関わります。光を受けるとメラトニンの分泌が抑制されるため、概日リズムと光環境を結びつける役割を果たしています。

日周性と年周性

概日リズムに基づいて、行動や生理機能が約1日の周期で変動することを日周性といいます。たとえば、昼行性の動物が昼に活動して夜に休むパターンがこれにあたります。

一方、季節の変化(日長の変化)に応じて年単位で変動する行動や生理機能を年周性といいます。渡り鳥の渡りや哺乳類の冬眠、繁殖期の到来などが年周性の例です。年周性は生物時計と日長の変化の組み合わせによって制御されています。

フェロモン ─ 同種個体間の化学的コミュニケーション

フェロモンとは、同種の他個体に対して特定の行動や生理変化を引き起こす化学物質です。体外に分泌されて空気中や水中を伝わり、他個体の受容器(嗅覚器など)で受容されます。フェロモンには以下のような種類があります。

  • 性フェロモン:異性を誘引する。カイコガの雌が分泌するボンビコールは性フェロモンの代表例で、雄はごく微量でも感知して雌のもとに飛来する
  • 集合フェロモン:同種個体を集合させる。ゴキブリやキクイムシなどが分泌する
  • 道しるべフェロモン:えさ場までの経路を示す。アリが地面に付けるフェロモンの跡を仲間がたどる
  • 警報フェロモン:危険を仲間に知らせる。アリやミツバチが外敵に対して放出する

渡りと定位行動

渡り鳥や回遊魚のように、長距離を移動する動物は目的地までの方角を知る手がかりを利用しています。このような方位決定のしくみを定位行動とよびます。

  • 太陽コンパス:太陽の位置と体内時計を利用して方角を決定する。ホシムクドリを用いたクラマーの実験が有名で、鏡で太陽の見かけの位置をずらすと、鳥の向きもずれることが示された
  • 星座コンパス:夜間に星座の配置を利用して方角を知る渡り鳥もいる
  • 磁場コンパス:地磁気を利用して方角を知る。一部の渡り鳥やウミガメで報告されている

コウモリの反響定位(エコロケーション)

コウモリは暗闇の中で超音波を発し、障害物や獲物に反射して戻ってくる音(エコー)の時間差や強度を分析して、物体の位置や距離を把握します。このしくみを反響定位エコロケーション)といいます。イルカも同様のしくみをもっています。

7まとめ

  • 生得的行動:遺伝的にプログラムされた行動。走性・本能行動などがある
  • 走性:刺激源に対して方向性のある移動。正の走性(近づく)と負の走性(遠ざかる)
  • 鍵刺激(信号刺激):特定の生得的行動を引き起こす刺激。例:イトヨの攻撃行動における腹部の赤色
  • 固定的動作パターン(FAP):鍵刺激で引き起こされる定型的な行動パターン
  • 8の字ダンス:ミツバチがえさ場の方向と距離を仲間に伝える行動(フォン・フリッシュ)
  • 慣れ:同じ刺激のくり返しで反応が弱くなる現象。シナプスでの伝達物質放出量の減少が原因
  • 鋭敏化:強い刺激により弱い刺激にも過敏に反応する現象。セロトニンによる伝達物質放出量の増加が原因
  • 古典的条件づけ:無条件刺激と条件刺激の連合学習(パブロフのイヌ)
  • オペラント条件づけ:自発的行動と報酬を結びつける学習(スキナーのネズミ)
  • 洞察学習:推理に基づく高度な問題解決(チンパンジー)
  • 刷り込み(インプリンティング):臨界期に成立し、生涯消えにくい特殊な学習(ローレンツ)
  • 概日リズム(サーカディアンリズム):約24時間の内因的リズム。視交叉上核の時計細胞が中枢。明暗周期に同調する
  • メラトニン:松果体から夜間に分泌され、睡眠・覚醒リズムを調節するホルモン
  • フェロモン:同種の他個体に特定の行動・生理変化を引き起こす化学物質(性フェロモン・道しるべフェロモン・警報フェロモンなど)
  • 定位行動:太陽コンパス(ホシムクドリ)、星座コンパス、磁場コンパスなどによる方位決定
  • 反響定位(エコロケーション):コウモリやイルカが超音波の反射で物体の位置を把握するしくみ
  • 日周性:約1日の周期で行動・生理が変動。年周性:季節に応じて年単位で変動(渡り・冬眠など)

8確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

走性とは何か。「刺激源」「方向」の語を用いて説明せよ。また、正の走性と負の走性の違いを述べよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

走性とは、刺激源に対して一定の方向に移動する行動である。刺激源に向かう場合を正の走性、刺激源から遠ざかる場合を負の走性という。

Q2

アメフラシのえら引っ込め反射において、「慣れ」が起こるしくみを、「感覚ニューロン」「神経伝達物質」の語を用いて説明せよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

水管からの刺激をくり返し受けると、感覚ニューロンの神経終末から放出される神経伝達物質の量が減少し、運動ニューロンへの伝達効率が低下するため、えら引っ込め反射が起こらなくなる。

Q3

刷り込み(インプリンティング)の特徴を3つ挙げよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

(1)学習が成立する期間(臨界期)が限られている。(2)一度成立すると生涯消えにくい。(3)報酬や罰がなくても成立する(試行錯誤を必要としない)。

Q4

古典的条件づけとオペラント条件づけの違いを、具体例を挙げて説明せよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

古典的条件づけは、無条件刺激と無関係な条件刺激を対にしてくり返し提示することで、条件刺激だけで反応が起こるようになる学習である(例:パブロフのイヌでベルの音と食物を対提示し、ベルの音だけで唾液が出るようになる)。オペラント条件づけは、動物の自発的な行動と報酬を結びつける学習である(例:スキナーのネズミがレバーを押すとえさが得られることを学習する)。

9入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

10-1-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

動物の行動のうち、遺伝的にプログラムされた行動を( ア )という。刺激に対して一定方向に移動する行動を( イ )といい、刺激源に向かう場合を正の( イ )、遠ざかる場合を負の( イ )という。特定の行動を引き起こす刺激を( ウ )という。同じ刺激をくり返すと反応しなくなる現象を( エ )といい、強い刺激で過敏になる現象を( オ )という。生後の限られた時期に特定の対象を記憶する学習を( カ )という。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

ア:生得的行動 イ:走性 ウ:鍵刺激(信号刺激) エ:慣れ オ:鋭敏化 カ:刷り込み(インプリンティング)

解説

動物の行動は、遺伝的に決まった生得的行動と、経験によって変化する学習行動に大別されます。走性・鍵刺激は生得的行動のキーワード、慣れ・鋭敏化・刷り込みは学習行動のキーワードです。

10-1-2A 基礎知識分類

次の(ア)〜(カ)の行動を、「生得的行動」「学習行動」「刷り込み」に分類せよ。

(ア)メダカが流れに向かって泳ぐ
(イ)パブロフのイヌがベルの音で唾液を分泌する
(ウ)カモのヒナがふ化直後に見たものについて歩く
(エ)イトヨの雄が腹の赤い模型を攻撃する
(オ)チンパンジーが箱を積んでバナナをとる
(カ)アメフラシの水管刺激をくり返すとえらを引っ込めなくなる

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

生得的行動:ア(流れ走性)、エ(鍵刺激による本能行動)
学習行動:イ(古典的条件づけ)、オ(洞察学習・知能行動)、カ(慣れ)
刷り込み:ウ(インプリンティング)

解説

メダカの正の流れ走性やイトヨの攻撃行動は遺伝的にプログラムされた生得的行動です。パブロフの条件反射やチンパンジーの知能行動は経験に基づく学習行動です。カモのヒナの追従行動は、臨界期に成立する刷り込みで、生得と学習の中間的な性質をもちます。

B 標準レベル

10-1-3B 標準論述実験考察

アメフラシのえら引っ込め反射について、次の問いに答えよ。

(1) 慣れが生じているとき、シナプスで起こっている変化を「感覚ニューロン」「神経伝達物質」「運動ニューロン」の語を用いて50字以内で述べよ。

(2) 鋭敏化のしくみを「介在ニューロン」「セロトニン」「カルシウムイオン」の語を用いて80字以内で述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 感覚ニューロンの神経終末から運動ニューロンへの神経伝達物質の放出量が減少し、伝達効率が低下する。(48字)

(2) 介在ニューロンが感覚ニューロンの終末にセロトニンを分泌しカリウムチャネルを閉じさせ、活動電位が延長しカルシウムイオン流入が増加し神経伝達物質の放出量が増える。(78字)

解説

(1) 慣れのメカニズムの核心は、感覚ニューロンと運動ニューロンの間のシナプスにおける伝達効率の低下です。

(2) 鋭敏化では、尾の刺激が介在ニューロンを介してセロトニンを放出させ、これが水管の感覚ニューロンに作用してK⁺チャネルを閉鎖 → 活動電位延長 → Ca²⁺流入増加 → 伝達物質放出増加、という連鎖で起こります。

採点ポイント((2)の論述・8点満点の場合)
  • 介在ニューロンからセロトニンの分泌に言及(2点)
  • カリウムチャネルの閉鎖に言及(2点)
  • カルシウムイオンの流入量増加に言及(2点)
  • 神経伝達物質の放出量増加に言及(2点)
10-1-4B 標準論述

(1) ミツバチの8の字ダンスにおいて、えさ場の方向はどのように伝えられるか。「鉛直上方」「太陽」の語を用いて60字以内で述べよ。

(2) 刷り込みと試行錯誤学習は、いずれも経験にもとづく行動であるが、異なる点がある。違いを1つ述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) ダンスの中央直線部の方向と鉛直上方がなす角度が、太陽の方向とえさ場の方向がなす角度と一致するように踊る。(51字)

(2) 試行錯誤学習はくり返しの経験によって徐々に獲得されるが、刷り込みは臨界期に1回の経験で成立し、消去されにくい。

解説

(1) ミツバチは暗い巣の中では太陽が見えないため、重力方向を基準に角度情報を置き換えて伝えます。

(2) 刷り込みは報酬・罰を必要としない点、臨界期がある点、一度成立すると消えにくい点などが試行錯誤学習との違いです。

C 発展レベル

10-1-5C 発展実験考察論述

ゾウリムシを試験管に入れて鉛直に立てて静置すると、やがてゾウリムシは水面近くに集まった。この現象が負の重力走性によるものであることを示すためには、正の化学走性(酸素走性)による移動であるという仮説を否定する必要がある。

(1) 正の酸素走性の仮説を否定するためにはどのような実験を行えばよいか。実験方法と予想される結果を60字以内で述べよ。

(2) ゾウリムシは陰極側に移動する性質がある。この走性は何とよばれるか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 試験管内を窒素で満たし酸素を除去して密栓し鉛直に立てる。上方に集まれば酸素走性でなく負の重力走性といえる。(52字)

(2) 負の電気走性

解説

(1) 酸素走性の仮説では「水面付近に溶存酸素が多いから上方に移動する」と説明されます。この仮説を否定するには酸素の影響を排除する対照実験が必要です。密閉して酸素を除去しても上方に集まるなら、酸素走性では説明できず、負の重力走性と結論できます。

(2) ゾウリムシは電場を与えると陰極側に集まります。陰極(−極)に向かうため、正の電気走性ではなく負の電気走性とよびます。

採点ポイント((1)の論述・6点満点の場合)
  • 酸素を除去する操作(窒素充填・密栓等)に言及(2点)
  • 鉛直に立てる(重力方向を確保する)に言及(2点)
  • 予想結果「酸素なしでも上方に集まる」に言及(2点)