第11章 個体群と生物群集

個体群とその変動
─ 個体群の特徴と成長

ある池にメダカは何匹いるのか。その数はこれから増えるのか、減るのか。
同じ種の個体が集まって暮らす「個体群」には、密度・年齢構成・成長パターンといった特徴があります。
個体群のふるまいを数量的にとらえる方法と、個体数が変動するしくみを学びましょう。

1個体群と個体群密度 ─ 「何匹いるか」を知る

ある地域に生息する同種の個体の集まり個体群といいます。シカの群れのように集団で生活するものも、クマのように単独で暮らすものも、同じ地域で交配し合う同種個体の集まりであれば個体群です。

個体群の大きさを表すには、単位面積(または単位体積)あたりの個体数である個体群密度を用います。たとえば「1 m2あたり15個体」のように表します。

区画法 ─ 動かない生物を数える

調査対象地にいくつかの区画(方形枠)を設け、区画内の個体数を数えて全体を推定する方法です。植物やフジツボなど、移動しない生物に適しています。

全個体数 = 区画内の平均個体数 × (調査対象地の面積 ÷ 1区画の面積)

標識再捕法 ─ 動き回る動物を数える

動き回る動物の個体数を推定するには標識再捕法を使います。手順は次の通りです。

  1. 1回目の捕獲で個体に標識をつけて放す(標識数 = M)
  2. 標識個体が十分に混ざり合う時間をおく
  3. 2回目に捕獲した個体(n)のうち、標識個体の数(m)を数える
  4. 全個体数 N を推定する:N = M × n ÷ m

たとえるなら、赤いビーズ100個を白いビーズの入った袋に混ぜ、よくかき混ぜてからすくい取ったとき、赤の割合から全体の数を逆算するのと同じ原理です。

ポイント:標識再捕法の前提条件
  • 標識個体が個体群全体に均一に混ざり合うこと
  • 調査期間中に個体群への出入り(出生・死亡・移入・移出)がないこと
  • 標識が個体の生存や行動に影響を与えないこと
標識再捕法で全個体数を推定できるのか
最初に捕獲した M 個体に標識をつけて放す
標識個体が個体群全体に均一に混ざると、個体群中の標識個体の割合は M/Nになる
2回目の捕獲でも同じ割合で標識個体が含まれるはず → m/n = M/N
式を変形すると N = M × n ÷ m で全個体数を推定できる

2年齢構成と生存曲線 ─ 「将来」を予測する

年齢構成(年齢ピラミッド)

個体群を年齢ごとに区分し、それぞれの個体数を積み上げて図示したものを年齢ピラミッド(齢構成)といいます。年齢ピラミッドの形から、個体群の今後の動向を予測できます。

別名形の特徴個体群の将来
ピラミッド型幼若型若齢層の割合が大きい個体数が増加する
つりがね型安定型各年齢層の割合がほぼ均等個体数が安定する
つぼ型老齢型若齢層の割合が小さい個体数が減少する

現在の日本の人口ピラミッドはつぼ型で、少子高齢化による人口減少が予測されています。

生命表と生存曲線

同時期に生まれた個体について、各年齢での生存個体数や死亡率をまとめた表を生命表といいます。生命表にもとづいて、生存個体数の変化をグラフにしたものが生存曲線です。縦軸に生存個体数(対数)、横軸に相対年齢をとります。

死亡パターン代表例特徴
I型(晩死型)高齢になるまで死亡率が低い大型哺乳類・ヒト少産で親が子を保護
II型(平均型)各年齢で死亡率がほぼ一定鳥類・小型哺乳類中程度の産子数
III型(早死型)発育初期の死亡率がきわめて高い魚類・無脊椎動物多産で親の保護なし
発展:r-戦略者とK-戦略者 生物

変動の激しい環境では、多産・高い分散力・速い成長といった特徴をもつr-戦略者(例:昆虫・一年生草本)が有利です。一方、安定した環境では、少産・大きな子・親による保護といった特徴をもつK-戦略者(例:大型哺乳類・樹木)が有利です。rは内的自然増加率、Kは環境収容力に由来する名称です。

3個体群の成長曲線 ─ 「S字カーブ」のひみつ

もし食物も空間も無限にあり、生まれた子がすべて生き残って次の親になれるとしたら、個体数はどうなるでしょうか。答えは「指数関数的に(ねずみ算式に)増え続ける」です。

指数関数的成長

資源に制限がない理想的な条件では、個体数は世代を重ねるたびに一定の倍率で増え続けます。これを指数関数的成長(J字型曲線)といいます。しかし、現実にはこのような増え方が長く続くことはありません。

ロジスティック曲線(S字型曲線)

現実の環境では食物や生活空間に限りがあるため、個体数が増えるにつれて1個体あたりの資源が減り、増殖率がしだいに低下します。その結果、成長曲線はS字型(ロジスティック曲線)を描き、ある上限値に収束します。この上限値を環境収容力(K)といいます。

ポイント:成長曲線の2つのパターン
  • J字型曲線(指数関数的成長):資源無制限のとき。個体数が際限なく増加
  • S字型曲線(ロジスティック曲線):資源に制限ありのとき。環境収容力Kに収束
  • S字型になる原因 = 個体群密度の上昇 → 1個体あたりの資源量の減少 → 出生率低下+死亡率上昇
成長曲線がS字型になるのか
個体数が少ないうちは資源が十分あり、指数関数的に増加する
個体数が増えると、食物・空間など1個体あたりの資源が減少する
種内競争が激化し、出生率が低下+死亡率が上昇する
出生数 ≒ 死亡数となり、個体数は環境収容力Kで頭打ちになる

4密度効果と種内競争 ─ 「密集」がもたらすもの

個体群密度の上昇が個体や個体群に影響を与える現象を密度効果といいます。密度効果は動物にも植物にも見られます。

動物の密度効果

アズキゾウムシをさまざまな密度で飼育すると、親虫の密度が高いほど1匹あたりの羽化個体数が減少します。密度が高いと卵が親に踏みつけられて破損することなどが原因です。

植物の密度効果と最終収量一定の法則

ダイズを高密度で栽培すると、1個体の重量は低密度より小さくなります。しかし、単位面積あたりの全体の収量(=個体の重量 × 個体数)は密度にかかわらずほぼ一定になります。これを最終収量一定の法則といいます。

種内競争

同種の個体間で食物・空間・配偶者などの資源をめぐって起こる競争を種内競争といいます。個体群密度が高いほど種内競争は激しくなり、個体群の成長を抑制する主な要因となります。

発展:相変異 生物

トノサマバッタでは、低密度で育つと緑色の孤独相(後脚が頑丈で跳躍に適する)になり、高密度で数世代飼育すると黒ずんだ体色の群生相(前翅が長く飛翔能力に優れ集合性が強い)になります。個体群密度の違いによって形態や行動に著しい変異が生じる現象を相変異といいます。群生相は環境の悪化した生息地を離れ、集団で長距離移動するのに適しています。

5なわばり行動と群れ ─ 空間をめぐる戦略

動物には、同種の他個体を排除する空間を確保するものがいます。この排他的な空間をなわばり(テリトリー)といいます。

なわばりが大きいほど得られる食物などの利益は大きくなりますが、維持する労力(パトロール・威嚇など)も大きくなります。最適ななわばりの大きさは、利益と維持コストの差が最大になるところです。

たとえばアユは、川底の藻類が豊富な場所になわばりを持ちます。しかし、密度が高くなりすぎると維持コストが利益を上回るため、なわばりを解消して群れアユになります。

シジュウカラのつがいの除去実験では、除去後に別のつがいが移入して縄張り数はほぼ変わらず、繁殖するつがいの数が安定しました。なわばりには個体群密度を安定させる効果があるのです。

ポイント:なわばりと群れの比較
  • なわばり:食物・配偶者を独占。個体群密度を安定化させる効果あり
  • 群れ:天敵の早期発見・効率的な採餌に有利。最適な大きさが存在する
  • 同じ種でも密度に応じてなわばりと群れを使い分ける場合がある(例:アユ)

6この節を俯瞰する ─ 個体群は「数」で動く

個体群は、密度・年齢構成・成長パターンといった数量的な特徴をもち、それらは環境条件や種内競争によって絶えず変動しています。個体群密度が上がれば密度効果で成長が抑制され、なわばりや群れの形成が個体群のふるまいに影響を与えます。

他の節とのつながり

つながりマップ

  • 11-2 種間関係 → 種内競争だけでなく、異なる種との種間競争・捕食-被食関係も個体群の変動に大きな影響を与える。
  • 11-3 生物群集と遷移 → 複数の個体群が集まった生物群集のレベルで、環境と種間関係がどう生態系を形づくるかを学ぶ。
  • 10-1 動物の行動 → なわばり行動・順位制・群れの形成は、動物の行動学(本能行動・学習)と深く結びつく。

7まとめ

  • 個体群:ある地域に生息する同種個体の集まり。個体群密度で大きさを表す
  • 区画法:移動しない生物の個体数推定法。標識再捕法:動き回る動物の推定法(N = Mn/m)
  • 年齢ピラミッド:ピラミッド型(増加)・つりがね型(安定)・つぼ型(減少)
  • 生存曲線:I型(晩死型・大型哺乳類)・II型(平均型・鳥類)・III型(早死型・魚類)
  • 成長曲線:J字型(資源無制限)・S字型(ロジスティック曲線、環境収容力Kに収束)
  • 密度効果:個体群密度の上昇が個体・個体群に影響を与える現象。最終収量一定の法則
  • 種内競争:同種個体間の資源をめぐる競争。密度上昇で激化し成長を抑制
  • なわばり:同種他個体を排除する空間。個体群密度の安定化に寄与

8確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

標識再捕法において、1回目に100個体を捕獲・標識して放し、2回目に150個体を捕獲したところ、そのうち10個体に標識があった。この個体群の推定個体数を求めよ。

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解答

N = 100 × 150 ÷ 10 = 1500個体

Q2

年齢ピラミッドの3つの型を挙げ、それぞれの個体群の将来を述べよ。

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解答

ピラミッド型(幼若型):若齢層が多く、個体数は今後増加する。つりがね型(安定型):各年齢層がほぼ均等で、個体数は安定する。つぼ型(老齢型):若齢層が少なく、個体数は今後減少する。

Q3

個体群の成長曲線がS字型になる理由を、「環境収容力」「種内競争」の語を用いて説明せよ。

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解答

個体数の増加に伴い食物や空間などの資源が不足し、種内競争が激化する。その結果、出生率が低下して死亡率が上昇し、個体数の増加速度がしだいに低下して環境収容力(K)で頭打ちとなるため。

Q4

生存曲線のI型・II型・III型それぞれの特徴と代表的な生物を述べよ。

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解答

I型(晩死型):高齢まで死亡率が低く、寿命が近づくと急速に死亡。大型哺乳類・ヒト。II型(平均型):各年齢で死亡率がほぼ一定。鳥類・小型哺乳類。III型(早死型):発育初期の死亡率が極めて高い。魚類・無脊椎動物。

9入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

11-1-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( キ )に入る適切な語句を答えよ。

ある地域に生息する同種の個体の集まりを( ア )といい、単位面積あたりの個体数を( イ )という。動き回る動物の( イ )を推定するには( ウ )を用いる。( ア )の年齢構成を図示したものを( エ )という。( エ )の形がピラミッド型のとき、個体数は今後( オ )すると予測できる。食物や空間に制限がない条件での成長曲線は( カ )字型となり、制限がある場合には上限値である( キ )に収束するS字型となる。

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解答

ア:個体群 イ:個体群密度 ウ:標識再捕法 エ:年齢ピラミッド オ:増加 カ:J キ:環境収容力(K)

解説

個体群の基本用語の確認問題です。ピラミッド型は若齢個体が多いため将来の増加が見込まれます。S字型曲線(ロジスティック曲線)では、環境収容力Kが個体数の上限となります。

B 標準レベル

11-1-2B 標準計算論述

(1) ある湖で魚を200個体捕獲し、すべてに標識をつけて放した。数日後に300個体を捕獲したところ、標識個体は12個体であった。この湖の推定個体数を求めよ。

(2) 上の推定で、2回目の捕獲までの間に標識個体が一部死亡していた場合、推定値は実際の個体数に比べて大きくなるか小さくなるか。理由とともに50字以内で述べよ。

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解答

(1) N = 200 × 300 ÷ 12 = 5000個体

(2) 大きくなる。標識個体の死亡で再捕獲数mが減るため、N = Mn/mのmが小さくなり推定値が実際より大きくなる。(48字)

解説

(1) 基本公式 N = Mn/m の適用です。

(2) 標識再捕法は「標識個体が均一に混在する」ことが前提です。標識個体の死亡は再捕獲数mを減らし、公式から推定値Nを過大にします。

採点ポイント((2)の論述・4点満点の場合)
  • 大きくなると正答(1点)
  • mの減少に言及(1点)
  • 式との関係を説明(2点)

C 発展レベル

11-1-3C 発展論述実験考察

ある研究者が、容器内でウキクサ(浮草)を培養した。以下のグラフは、ウキクサの葉状体数の経時変化を示している。

初期:48枚 → 4日後:94枚 → 8日後:175枚 → 12日後:310枚 → 16日後:480枚 → 20日後:620枚 → 24日後:650枚

(1) この実験における環境収容力はおよそ何枚と推定されるか。

(2) 16日目以降、増殖率が低下した要因として考えられることを2つ挙げよ。

(3) 液体肥料の濃度を2倍にして同様の実験を行った場合、環境収容力はどうなると予想されるか。理由を含めて60字以内で述べよ。

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解答

(1) 約650枚

(2) 水面が葉状体に覆われて光の獲得が困難になった。栄養塩類が消費されて不足した。

(3) 栄養塩類の供給量が増えるため環境収容力は大きくなるが、光や水面面積は変わらないため、上限はそれらの制約を受ける。(55字)

解説

(1) 20日目と24日目の個体数がほぼ変わらないことから、環境収容力に達したと判断できます。

(2) ウキクサは水面に浮かぶため、密度上昇による光の奪い合いと、培地中の栄養塩類の枯渇が主な制限要因です。

(3) 環境収容力は複数の要因で決まります。1つの要因(栄養)が緩和されても、別の要因(光・空間)が制限となるため、単純に2倍にはなりません。