第3章 生物の系統と進化

植物・菌類・動物の系統と進化
─ 真核生物の3つの「王国」

真核生物ドメインの中には、光合成で生きる植物、有機物を分解・吸収する菌類、食物を摂取する動物という、まったく異なる生き方をする3つの大きなグループがあります。
それぞれはどのような系統をたどって多様化してきたのでしょうか。

1植物の系統 ─ 海から陸へ

植物は、水中で生活していたシャジクモ類(緑藻の仲間)から進化し、約4.7億年前に陸上に進出しました。 陸上は海に比べて乾燥や紫外線にさらされる厳しい環境ですが、光と二酸化炭素が豊富という利点がありました。 植物の陸上進出の歴史は、乾燥への適応の歴史でもあります。

植物群維管束種子花・果実おもな特徴
コケ植物なしなしなし小型。受精に水が必要。胞子で繁殖
シダ植物ありなしなし維管束あり。受精に水が必要。胞子で繁殖
裸子植物ありありなし種子で繁殖。花粉管で受精(水不要)。胚珠が裸出
被子植物ありありあり花で虫を誘引。果実で種子を保護・散布。最も繁栄
被子植物が現在最も繁栄しているのか
被子植物はをもち、昆虫などの動物に花粉を運ばせる(動物媒花
効率的な受粉が可能になり、昆虫との共進化が多様化を加速した
果実が種子を保護し、動物に食べられることで広範囲に散布される
これらの利点により、被子植物は陸上植物の中で最も種数が多いグループとなった
ポイント:植物の陸上進出の進化的ステップ
  • コケ → シダ:維管束の獲得(水と養分の効率的な輸送)
  • シダ → 裸子:種子と花粉管の獲得(受精に水が不要に)
  • 裸子 → 被子:花と果実の獲得(動物との共進化で繁栄)

2菌類の系統 ─ 「分解者」としての生き方

菌類(キノコ・カビ・酵母)は、動物でも植物でもない独自のグループです。 光合成は行わず、体外に消化酵素を分泌して有機物を分解し、吸収するという独特の栄養様式をもっています。 まるで「体の外に胃をもっている」ような生物です。

菌類の細胞壁はキチンでできており(植物のセルロースとは異なる)、分子系統解析では植物よりも動物に近縁であることがわかっています。

発展:菌類が動物に近縁であることの根拠 生物

分子系統解析では、菌類は植物よりも動物に近い系統に位置づけられます。菌類と動物は共通してグリコーゲンをエネルギー貯蔵物質として使い(植物はデンプン)、ともに従属栄養です。この共通点は、菌類と動物の祖先が従属栄養の単細胞真核生物から分かれたことと整合します。

3動物の系統 ─ 体のつくりの多様化

動物は海の中で単細胞生物から進化し、多様な体のつくりを発達させてきました。 動物の系統を理解するポイントは、体のつくりの基本パターン(ボディプラン)の違いです。

体の対称性と胚葉

分類対称性胚葉
海綿動物不定形組織未分化カイメン
刺胞動物放射相称二胚葉クラゲ、イソギンチャク、サンゴ
その他の動物左右相称三胚葉扁形動物〜脊索動物

旧口動物と新口動物

三胚葉の左右相称動物は、発生初期の原口(原口)の運命によって2つに大別されます。

旧口動物新口動物
原口の運命口になる肛門になる
含まれる動物門扁形動物、環形動物、軟体動物、節足動物棘皮動物、脊索動物
代表例プラナリア、ミミズ、タコ、昆虫ウニ、ヒトデ、ヒト
ポイント:ヒトとウニは近縁、ヒトと昆虫は遠縁
  • ヒト(脊索動物)とウニ(棘皮動物)はともに新口動物 → 近縁
  • 昆虫(節足動物)やタコ(軟体動物)は旧口動物 → ヒトとは遠縁
  • 見た目の複雑さではなく、発生のしくみ(原口の運命)が系統を反映する

脊椎動物の系統

脊索動物門の中で、脊椎をもつグループが脊椎動物です。 魚類 → 両生類 → 爬虫類 → 鳥類・哺乳類の順に、水中から陸上へと進化してきました。

発展:鳥類は「恐竜の子孫」── 分子系統樹が明らかにした意外な近縁関係 生物

形態分類では「爬虫類」と「鳥類」は別のグループとされてきましたが、分子系統解析では鳥類は爬虫類(特にワニ)に最も近縁であることがわかっています。鳥類は恐竜の一系統から進化したとされ、現在では「鳥類は生き残った恐竜」ともいわれます。分類学的には、爬虫類を鳥類を含むグループ(竜弓類)として再定義する動きもあります。

4この章を俯瞰する ─ 真核生物の多様性の全体像

植物は光合成で、菌類は分解・吸収で、動物は摂食で有機物を得る──この3つの栄養様式の違いが、真核生物の多様性の骨格をつくっています。 分子系統解析は、菌類が植物よりも動物に近縁であることや、鳥類がワニに近縁であることなど、形態からは予想できなかった系統関係を明らかにしてきました。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 人類の進化 → 3-4「人類の起源と進化」:脊椎動物の中の霊長類、そしてヒトの進化をたどる。
  • 発生 → 第7章「発生と遺伝子発現」:旧口動物と新口動物の違いは発生の初期過程に由来する。
  • 生態系 → 第12・13章:植物(生産者)・動物(消費者)・菌類(分解者)の役割が生態系を支える。
  • 植物の環境応答 → 第11章:被子植物が獲得した花・果実のしくみと植物ホルモンの関係。

5まとめ

  • 植物は緑藻から進化。コケシダ裸子被子の順に陸上適応が進んだ
  • 進化のステップ:維管束(コケ→シダ)→種子・花粉管(シダ→裸子)→花・果実(裸子→被子)
  • 菌類はキチンの細胞壁をもち、体外消化で有機物を吸収。植物より動物に近縁
  • 動物は海綿動物(組織未分化)→刺胞動物(放射相称・二胚葉)→左右相称・三胚葉動物の順に複雑化
  • 三胚葉動物は旧口動物(原口→口。昆虫・タコなど)と新口動物(原口→肛門。ウニ・ヒトなど)に分かれる
  • 脊椎動物は魚類→両生類→爬虫類→鳥類・哺乳類の順に進化
  • 分子系統解析で鳥類はワニに最も近縁であることが判明

6確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

植物の陸上進出における3つの進化的ステップを、獲得した構造とともに述べよ。

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解答

①コケ→シダ:維管束の獲得(水と養分の効率的輸送)。②シダ→裸子:種子と花粉管の獲得(受精に水が不要に)。③裸子→被子:花と果実の獲得(動物との共進化で繁栄)。

Q2

旧口動物と新口動物の違いを、「原口」の語を用いて説明せよ。

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解答

旧口動物は発生初期の原口が口になり、新口動物は原口が肛門になります。ヒト(脊索動物)やウニ(棘皮動物)は新口動物、昆虫(節足動物)やタコ(軟体動物)は旧口動物です。

Q3

菌類の栄養様式を簡潔に説明し、菌類が植物よりも動物に近縁であることを示す特徴を1つ挙げよ。

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解答

菌類は体外に消化酵素を分泌して有機物を分解・吸収する従属栄養生物です。動物に近縁であることを示す特徴:エネルギー貯蔵物質としてグリコーゲンを使う(植物はデンプン)。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-3-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

植物の進化では、( ア )植物で維管束が獲得され、( イ )植物で種子が獲得された。被子植物は( ウ )と果実をもち、昆虫との( エ )により多様化した。菌類の細胞壁は( オ )でできており、植物のセルロースとは異なる。

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解答

ア:シダ イ:裸子(種子) ウ:花 エ:共進化 オ:キチン

解説

植物の進化の順序は「コケ→シダ→裸子→被子」です。各ステップで獲得された構造(維管束→種子→花・果実)を対応させて覚えましょう。菌類のキチンは昆虫の外骨格の成分としても知られています。

B 標準レベル

3-3-2B 標準論述

(1) コケ植物とシダ植物では受精に水が必要だが、種子植物では不要である。その理由を「花粉管」の語を用いて40字以内で述べよ。

(2) ヒトとウニがともに新口動物に分類される根拠を、「原口」の語を用いて30字以内で述べよ。

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解答

(1) 種子植物では花粉管が精細胞を卵細胞まで運ぶため、精子が泳ぐための水が不要になったから。(40字)

(2) どちらも発生初期の原口が肛門になるという共通の特徴をもつから。(30字)

解説

(1) コケ植物とシダ植物の精子は鞭毛をもち、水中を泳いで卵に到達します。種子植物では花粉管が精細胞を直接卵細胞に届けるため、受精に水が不要です。この適応が乾燥した陸上環境での繁栄を可能にしました。

(2) 見た目はまったく異なるヒトとウニですが、発生の基本パターン(原口の運命)が同じであることが、両者が共通祖先から分かれた近縁なグループであることを示しています。

採点ポイント((1)の論述・4点満点の場合)
  • 花粉管が精細胞を運ぶことに言及(2点)
  • 水が不要になったことに言及(2点)

C 発展レベル

3-3-3C 発展実験考察

5つの生物(カイメン、クラゲ、プラナリア、バッタ、ヒト)を以下の特徴に基づいて分類した。

組織の分化左右相称三胚葉新口動物
カイメン××××
クラゲ×××
プラナリア×
バッタ×
ヒト

(1) この表から、動物の進化において各特徴が獲得された順序を推定せよ。

(2) プラナリアとバッタはともに旧口動物であるのに対し、ヒトは新口動物である。ヒトに最も近縁な動物門として棘皮動物が挙げられる。棘皮動物の具体例を1つ挙げよ。

(3) この5つの生物のうち、系統的にヒトに最も遠い生物はどれか。理由とともに答えよ。

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解答

(1) 組織の分化 → 左右相称 → 三胚葉 → 新口動物の順。

(2) ウニ(またはヒトデ、ナマコ)。

(3) カイメン。組織の分化すら起きていない最も単純な体のつくりをもち、他のすべての動物と最も早く分岐したと考えられるため。

解説

(1) 表の○×パターンから、特徴が段階的に追加されていることがわかります。最も基本的な特徴(組織の分化)がまず獲得され、最後に旧口/新口の分化が起きました。

(2) 棘皮動物とヒト(脊索動物)はともに新口動物であり、旧口動物の昆虫やタコよりもヒトに近縁です。見た目は異なりますが、発生のしくみが共通しています。

(3) カイメン(海綿動物)は動物の中で最も初期に分岐した系統であり、組織の分化が見られない点で他のすべての動物と大きく異なります。