第7章 発生と遺伝子発現

初期発生
─ 卵割と胚葉の形成

たった1個の受精卵が、どのようにして複雑な体をもつ動物になるのでしょうか。
受精卵は猛烈な速さで細胞分裂を繰り返し、やがて3つの「胚葉」という基本的な細胞層をつくります。
この初期発生の過程を、カエルを例に見ていきましょう。

1卵割 ─ 受精卵を「分割」する

受精卵が最初に行う細胞分裂を卵割といいます。 卵割は通常の体細胞分裂と異なり、細胞が成長する間がなく、分裂だけが猛烈な速さで繰り返されます。 そのため、分裂を重ねるごとに1つ1つの細胞(割球)はどんどん小さくなります。 卵を「切り分ける」ようなものなので「卵割」と呼ばれるのです。

卵割の様式

卵割の仕方は、卵黄の量と分布によって異なります。

  • 全割(完全卵割):卵全体が割れる
    • 等割:割球がほぼ等しい大きさ(例:ウニ)
    • 不等割:植物極側の割球が大きい(例:カエル。卵黄が植物極に偏るため)
  • 部分割(不完全卵割):卵の一部だけが割れる
    • 盤割:卵黄が多い卵で、動物極付近の胚盤だけが割れる(例:鳥類・魚類)
    • 表割:卵の表面(表層)のみが割れる(例:昆虫。核だけが先に分裂し、のちに表層に移動して細胞化する)

発生の段階

段階特徴
桑実胚割球が集まってクワの実のような形になる
胞胚内部に空間(胞胚腔)ができたボール状の胚
原腸胚植物極側の細胞が陥入し、原口原腸ができる
神経胚外胚葉から神経管が形成される

2原腸形成 ─ 3つの「胚葉」が生まれる

胞胚の植物極側の細胞が内部にへこんで落ち込んでいく現象を陥入といいます。 陥入が始まった場所を原口、陥入してできた管状の構造を原腸といいます。 この過程を原腸形成(原腸陥入)といい、これが行われている胚を原腸胚といいます。

3つの胚葉

原腸形成によって、胚の細胞は3つの層に分かれます。

胚葉位置将来できるもの
外胚葉胚の外側表皮(皮膚)、神経系(脳・脊髄)、感覚器官
中胚葉外胚葉と内胚葉の間筋肉、骨格、心臓・血管、腎臓
内胚葉原腸の壁消化管、肝臓、膵臓、肺
ポイント:胚葉と器官の対応を覚えるコツ
  • 外胚葉 = 体の「外側」と「情報処理」(皮膚+神経)
  • 中胚葉 = 体の「骨組みと動力」(筋肉+骨+心臓+腎臓)
  • 内胚葉 = 体の「内側の管」(消化管+肝臓+肺)
  • 迷いやすいもの:神経系は外胚葉由来(中胚葉ではない)
カエルの原口が将来肛門になるのか(新口動物)
原腸形成で最初にできる開口部を原口という
カエルは新口動物(脊索動物)であり、原口は肛門になる
口は原口とは別の場所にあとからできる
これに対し、旧口動物(昆虫・タコなど)では原口が口になる(3-3参照)

3神経胚 ─ 神経系のつくられ方

原腸形成のあと、外胚葉の背側が平たくなって神経板をつくります。 神経板の両端が盛り上がって近づき、やがて閉じて神経管が形成されます。 この時期の胚を神経胚といいます。

神経管はのちに脳と脊髄に発達します。 神経管の腹側には中胚葉由来の脊索が形成されます。 脊索は脊椎動物の名前の由来でもあり、やがて脊椎に置き換わります。

ウニの発生 ─ プルテウス幼生

ウニの発生は、等割による卵割が特徴です。 受精卵 → 桑実胚 → 胞胚(均一な大きさの割球からなる中空の球)→ 原腸胚(植物極側から陥入)→ プリズム幼生プルテウス幼生と進みます。 プルテウス幼生は腕状の突起をもつ左右対称の幼生で、プランクトンとして海中を浮遊し、変態を経て成体のウニになります。 ウニはカエルと同じ新口動物(原口が肛門になる)であり、発生のモデル生物として広く研究されています。

発展:カエルの灰色三日月環と体軸の決定 生物

カエルの卵では、精子が進入した反対側に灰色三日月環と呼ばれる領域が現れます。灰色三日月環が現れた側が背側になります。つまり、体の背腹軸は精子の進入点によって決まるのです。灰色三日月環の領域には、のちに原口背唇部(形成体)が生じます(7-3参照)。

4この章を俯瞰する ─ 卵割から器官形成へ

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 器官形成と誘導 → 7-3:神経管の形成はなぜ起きるのか? シュペーマンの「形成体」実験で明らかになったしくみ。
  • 旧口/新口動物 → 3-3:原口が口になるか肛門になるかで、動物の大分類が分かれる。
  • 遺伝子発現調節 → 6-5:胚葉ごとに異なる遺伝子が発現することで、異なる組織・器官に分化する。

5まとめ

  • 卵割:受精卵の急速な細胞分裂。細胞は成長せず小さくなる。生じた細胞を割球という
  • 卵割の様式:全割(等割=ウニ、不等割=カエル)と部分割(盤割=鳥類、表割=昆虫)
  • 発生の段階:受精卵 → 桑実胚胞胚(胞胚腔あり)→ 原腸胚神経胚
  • 原腸形成:植物極側の細胞が陥入し、原口・原腸ができる
  • 3つの胚葉外胚葉(皮膚・神経)、中胚葉(筋肉・骨・心臓)、内胚葉(消化管・肝臓)
  • 神経胚:外胚葉から神経板→神経管が形成される。将来の脳・脊髄
  • 新口動物(カエル)では原口は肛門になる
  • ウニの発生:等割 → 胞胚 → 原腸胚 → プルテウス幼生(腕状突起をもつ浮遊幼生)

6確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

カエルの発生の順序を、受精卵から神経胚まで段階名で答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

受精卵 → 桑実胚 → 胞胚 → 原腸胚 → 神経胚。

Q2

3つの胚葉の名前と、それぞれから将来できる器官を1つずつ挙げよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

外胚葉(例:神経系・皮膚)、中胚葉(例:筋肉・骨格)、内胚葉(例:消化管・肝臓)。

Q3

「原腸形成」とは何か。「陥入」の語を用いて述べよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

胞胚の植物極側の細胞が陥入して原口と原腸ができ、外胚葉・中胚葉・内胚葉の3つの胚葉が形成される過程。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-2-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

受精卵が行う急速な細胞分裂を( ア )という。( ア )が進んだ胚の内部に空間(胞胚腔)ができた段階を( イ )という。植物極側の細胞が内部に( ウ )することで( エ )胚が形成され、外胚葉・中胚葉・内胚葉の3つの( オ )ができる。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

ア:卵割 イ:胞胚 ウ:陥入 エ:原腸 オ:胚葉

解説

卵割は通常の体細胞分裂と異なり、細胞の成長を伴わない急速な分裂です。原腸形成(陥入)によって3つの胚葉が形成されるのが初期発生の最大のイベントです。

B 標準レベル

7-2-2B 標準論述

(1) 卵割が通常の体細胞分裂と異なる点を1つ述べよ。

(2) 次の器官のうち、中胚葉由来のものをすべて選べ:脳、心臓、肝臓、筋肉、皮膚、腎臓

(3) カエルの原口は将来何になるか。またその理由を「新口動物」の語を用いて20字以内で述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 卵割では細胞が成長する間がなく、分裂のたびに割球が小さくなる。

(2) 心臓、筋肉、腎臓

(3) 肛門。カエルは新口動物であるから。(15字)

解説

(2) 脳は外胚葉、肝臓は内胚葉、皮膚は外胚葉由来です。「神経系は外胚葉」を覚えておくと間違いを防げます。