第7章 発生と遺伝子発現

発生と遺伝子発現
─ 細胞の運命を決めるしくみ

あなたの体は約37兆個の細胞でできていますが、すべてたった1個の受精卵から始まりました。
すべての細胞が同じDNAをもっているのに、なぜ神経になる細胞と筋肉になる細胞に分かれるのでしょうか。
その答えは「どの遺伝子を発現させるか」の違いにあります。本節では、卵に蓄えられた母性因子から、体の軸を決めるホメオティック遺伝子、そして幹細胞・iPS細胞まで、発生と遺伝子発現の関係を見ていきましょう。

1母性因子 ─ 卵に仕込まれた「設計図の起点」

受精卵が最初に分裂を始めるとき、まだ胚自身の遺伝子はほとんどはたらいていません。 では、発生の最初のステップを制御しているのは何でしょうか。

答えは、卵形成の過程で母親の体内で合成され、卵の細胞質にあらかじめ蓄えられた物質です。 このような物質(mRNAやタンパク質)を母性因子といい、母性因子をコードする遺伝子を母性効果遺伝子といいます。

母性因子が卵の中で均一に分布せず、偏って存在することが重要です。 この偏りが、胚の中の「位置情報」となり、どの領域がどの構造になるかを最初に決めるのです。

ショウジョウバエの前後軸の決定

ショウジョウバエの卵では、母性効果遺伝子のmRNAが特定の位置に局在しています。

  • ビコイド(bicoid)mRNA → 卵の前端に局在
  • ナノス(nanos)mRNA → 卵の後端に局在

受精後、これらのmRNAが翻訳されてタンパク質がつくられ、拡散によって濃度勾配が形成されます。 ビコイドタンパク質は前方で濃度が高く、後方に向かって低くなります。ナノスタンパク質はその逆です。

この濃度勾配が胚の各領域に「位置情報」を与え、それぞれの位置で異なる遺伝子が発現するよう調節されます。 つまり、母性因子の濃度勾配が前後軸(頭-尾の方向)を決定するのです。

ショウジョウバエではビコイドタンパク質が拡散で濃度勾配をつくれるのか
昆虫の初期発生では、核だけが先に分裂し、細胞質分裂は起きない(多核性胞胚を形成)
胚の内部に細胞膜の仕切りがないため、タンパク質が自由に拡散できる
前端で翻訳されたビコイドタンパク質が後方へ拡散し、濃度勾配が形成される
ポイント:母性因子と軸の形成
  • 母性因子 = 卵形成時に母体から卵に蓄えられたmRNAやタンパク質
  • 母性因子の偏った分布が胚の位置情報をつくる
  • ビコイドmRNA(前端)・ナノスmRNA(後端)の濃度勾配が前後軸を決定
  • ショウジョウバエの初期胚は多核性胞胚(細胞膜の仕切りなし)→ タンパク質が拡散可能
発展:ビコイド変異体の実験 生物

ビコイド遺伝子を欠失させた変異体(ビコイド突然変異体)では、頭部・胸部が形成されず、前方と後方の両方に尾部構造ができます。逆に、野生型の卵の後部にビコイドmRNAを注入すると、後部にも頭部構造が形成されます。このことから、ビコイドタンパク質が前方構造の形成に必要十分な「形態形成決定因子」であることがわかります。

2分節遺伝子とホメオティック遺伝子 ─ 体の「部品リスト」をつくる

母性因子による位置情報が与えられた後、胚自身の遺伝子が段階的に発現して、体の構造がつくられていきます。 ショウジョウバエでは、このしくみが詳しく解明されています。 まるで「大まかな設計図」から「詳細な設計図」へ、段階的に情報が細かくなっていくイメージです。

分節遺伝子 ─ 体節をつくる3段階

母性因子の濃度勾配をもとに、分節遺伝子が順に発現し、胚を体節(繰り返しの区画)に分けていきます。

  1. ギャップ遺伝子 ─ 胚をおおまかな領域(頭・胸・腹など)に分ける
  2. ペアルール遺伝子 ─ 7本のしま状に発現し、より細かい区画をつくる
  3. セグメントポラリティ遺伝子 ─ 14本のしま状に発現し、各体節内の前後を決める

重要なのは、前の段階の遺伝子が次の段階の遺伝子の発現を調節していることです。 母性因子 → ギャップ → ペアルール → セグメントポラリティと、情報が段階的に「細分化」されていきます。

ホメオティック遺伝子 ─ 各体節の「個性」を決める

分節遺伝子によって14の体節がつくられた後、それぞれの体節が「頭にするか」「胸にするか」「腹にするか」という体節固有の形態を決めるのがホメオティック遺伝子です。

体節ごとに異なる組み合わせのホメオティック遺伝子が発現し、それぞれの体節を特徴づける構造(触角、翅、脚など)をつくらせます。

ホメオティック遺伝子に突然変異が起きると、ある体節が別の体節の構造に置き換わるという劇的な変化が起きます。これをホメオティック突然変異といいます。

  • アンテナペディア突然変異体 ─ 触角が形成される位置にができる
  • バイソラックス突然変異体 ─ 平均棍(へいきんこん)が翅に変化し、翅が4枚になる
ポイント:遺伝子の段階的発現(ショウジョウバエ)
  • 母性因子(ビコイド・ナノス)→ 前後軸の位置情報
  • 分節遺伝子(ギャップ → ペアルール → セグメントポラリティ)→ 14の体節をつくる
  • ホメオティック遺伝子 → 各体節の「個性」(頭/胸/腹)を決定
  • ホメオティック突然変異 = 体の一部が別の部位に置き換わる突然変異
発展:Hox遺伝子 ─ 動物界に共通する「ボディプラン」の設計者 生物

ショウジョウバエのホメオティック遺伝子には、共通する約180塩基対の配列(ホメオボックス)があり、このDNA配列が翻訳されたアミノ酸配列をホメオドメインといいます。ホメオドメインは転写因子としてはたらき、他の遺伝子の発現を調節します。

ホメオボックスをもつ遺伝子群は脊椎動物を含む多くの動物で発見され、Hox(ホックス)遺伝子群と総称されます。注目すべきは、染色体上の遺伝子の並び順が、体の前後軸に沿った発現順序と一致する(共直線性)ことです。ショウジョウバエからヒトまで、体の前後パターンを決める遺伝子のしくみが進化的に保存されていることを示しています。

3細胞の分化と全能性 ─ 「すべてになれる力」は失われるのか

発生が進むにつれて、細胞は特定の形態や機能をもつようになります。これを細胞分化といいます。 分化した細胞(たとえば筋細胞や神経細胞)は、もはや他の種類の細胞にはなれないように見えます。 では、分化した細胞のDNAから「不要な遺伝子」が失われたのでしょうか。

核の全能性 ─ ガードンの実験

ガードン(1962年)は、アフリカツメガエルのオタマジャクシの小腸の上皮細胞の核を、紫外線で核を破壊した未受精卵に移植しました。 すると、その卵から正常なオタマジャクシが発生したのです。

この実験は、分化した細胞の核にもすべての遺伝情報が保持されていることを証明しました。 分化とは遺伝子が失われることではなく、遺伝子発現のパターンが変わる(どの遺伝子をON/OFFにするかが変わる)ことなのです。

受精卵がもつ、すべての細胞に分化できる能力を全能性といいます。

幹細胞 ─ 分化する能力を維持した細胞

体の中には、自己複製しながら複数の種類の細胞に分化できる能力を保った細胞があります。これを幹細胞といいます。

  • 造血幹細胞 ─ 骨髄にあり、赤血球・白血球・血小板など血液の全細胞に分化できる
  • 神経幹細胞 ─ 脳にあり、神経細胞やグリア細胞に分化できる
  • 小腸の幹細胞 ─ 陰窩(いんか)の底部にあり、吸収上皮細胞などに分化できる

幹細胞は「自分と同じ細胞をつくる自己複製能力」と「別の種類の細胞をつくる分化能力」の両方をもつ点が特徴です。 幹細胞が分化できる細胞の範囲には限りがあり、これを多分化能(multipotency)といいます。なお、ES細胞やiPS細胞のようにほぼすべての細胞に分化できる能力は多能性(pluripotency)と呼ばれ、多分化能とは区別されます。

4アポトーシスと再生

アポトーシス ─ プログラム細胞死

発生の過程では、細胞が増殖するだけでなく、不要になった細胞が計画的に死ぬことも重要です。 遺伝子のプログラムに従って細胞が自ら死ぬことをアポトーシス(プログラム細胞死)といいます。

代表的な例が手の形態形成です。 ヒトの胎児の手は、最初は指の間にも組織がある「水かき」のような形をしていますが、発生の過程で指の間の細胞がアポトーシスによって除去されることで、5本の指が分かれます。

アポトーシスは壊死(ネクローシス)とは異なります。 壊死は外傷や感染など外的要因で細胞が破裂して死ぬ現象で、内容物が漏出して周囲に炎症を引き起こします。 一方、アポトーシスでは細胞が自ら縮小し、断片化した後にマクロファージに食べられるため、炎症は起きません

動物の再生

一部の動物は、体の一部を失っても再び形成する再生能力をもっています。

  • プラナリア:体を切断しても、切断片のそれぞれから完全な個体が再生する。再生を担う未分化な幹細胞をネオブラスト(新生細胞)という。ネオブラストは全能性をもち、すべての細胞種に分化できる
  • イモリの水晶体再生:イモリは水晶体を除去すると、虹彩の背側の色素上皮細胞が脱分化して水晶体細胞に再分化し、新しい水晶体が再生される。これをウォルフ再生という。分化した細胞が別の種類の細胞に分化し直す現象は分化転換と呼ばれる
ポイント:アポトーシスと壊死の違い
  • アポトーシス:遺伝的プログラムによる細胞死。細胞が縮小・断片化し、炎症なし
  • 壊死(ネクローシス):外的要因で細胞が破裂。内容物が漏出し、炎症を伴う

5ES細胞とiPS細胞 ─ 再生医療への道

もし体外で幹細胞をつくり出し、必要な組織や臓器に分化させることができれば、損傷した組織を修復する「再生医療」が実現します。 この夢に近づく2つの重要な細胞があります。

ES細胞(胚性幹細胞)

ES細胞(Embryonic Stem cell:胚性幹細胞)は、哺乳類の胚盤胞(はいばんほう)の内部細胞塊から取り出した細胞です。 さまざまな細胞に分化できる多能性をもちながら、培養して増殖させることができます。

ただし、ES細胞を得るには胚(将来個体になるはずのもの)を壊す必要があり、倫理的な問題が指摘されています。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)

山中伸弥らは2006年、マウスの分化した体細胞(皮膚の線維芽細胞)に特定の4つの遺伝子を導入することで、ES細胞のような多能性をもつ細胞をつくり出すことに成功しました。 これがiPS細胞(induced Pluripotent Stem cell:人工多能性幹細胞)です。

分化した細胞を未分化な状態に戻すことを脱分化(リプログラミング)といいます。 iPS細胞は、本来は一方向に進むはずの分化を「巻き戻す」ことができることを示した画期的な発見です。

ES細胞iPS細胞
由来胚盤胞の内部細胞塊分化した体細胞に遺伝子導入
多能性ありあり
倫理的問題胚を壊す必要 → あり体細胞を使用 → 少ない
拒絶反応患者由来でない → リスクあり患者自身の細胞 → リスク低い
発見者エバンスら(1981年)山中伸弥ら(2006年)
ポイント:iPS細胞の2つの利点
  • 倫理的問題の回避 ─ 胚を壊さず、患者自身の体細胞から作製できる
  • 拒絶反応の回避 ─ 患者自身の細胞由来なので、移植時に免疫による拒絶が起きにくい
発展:クローン動物と核の全能性 生物

1997年、ウィルムットらは成体のヒツジの乳腺細胞の核を除核した未受精卵に移植し、クローンヒツジ「ドリー」を誕生させました。これは哺乳類においても分化した体細胞の核が全能性を保持していることを示しました。ガードンとともに山中伸弥が2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、核の全能性と細胞のリプログラミングに関する発見が評価されたためです。

6この節を俯瞰する ─ 「同じDNA、違う運命」

本節で学んだ内容を一言でまとめると、「発生とは遺伝子発現パターンの変化である」ということです。 母性因子の偏りが最初の位置情報をつくり、それを起点に分節遺伝子・ホメオティック遺伝子が段階的に発現して体の構造を決め、各細胞が固有の遺伝子発現パターンをもつことで分化が完成します。 そして、分化した細胞も全遺伝情報を保持しており、適切な条件を与えれば多能性を取り戻せること(iPS細胞)が証明されました。

他の章とのつながり

他の章へのつながりマップ

  • 器官形成と誘導 → 7-3:誘導も遺伝子発現パターンの変化として理解できる。形成体のシグナル分子が転写因子を活性化する。
  • 遺伝子発現調節 → 6-5:転写因子による選択的遺伝子発現が分化の本質。ホメオティック遺伝子も転写因子をコードしている。
  • 細胞間の情報伝達 → 4-7:母性因子の濃度勾配によるシグナル伝達は、受容体-シグナル分子系の原理と共通する。
  • DNAと遺伝情報 → 6-1〜6-3:すべての細胞が同じDNAをもつのに異なる運命をたどるのは、遺伝子の「使い分け」による。
  • 免疫 → 5-3:造血幹細胞からの分化は、幹細胞の概念を理解する好例。

7まとめ

  • 母性因子:卵形成時に蓄えられたmRNAやタンパク質。偏った分布が胚の位置情報をつくる
  • ビコイドナノス:ショウジョウバエの母性効果遺伝子。濃度勾配が前後軸を決定
  • 分節遺伝子:ギャップ → ペアルール → セグメントポラリティの3段階で体節を形成
  • ホメオティック遺伝子:各体節固有の形態を決める。突然変異で体の一部が別の部位に置き換わる
  • Hox遺伝子群:ホメオボックスをもつ遺伝子群。ショウジョウバエから脊椎動物まで保存されている
  • 全能性:受精卵がもつ、すべての細胞に分化できる能力。分化した核にも遺伝情報は保持される
  • 幹細胞:自己複製能と多分化能をもつ細胞(例:造血幹細胞)
  • ES細胞:胚盤胞の内部細胞塊由来。多能性があるが倫理的問題がある
  • iPS細胞:体細胞に遺伝子導入で多能性を獲得させた細胞(山中伸弥、2006年)。倫理的問題・拒絶反応を回避
  • アポトーシス:遺伝的プログラムによる細胞死。手の指の分離など形態形成に不可欠。壊死(炎症あり)とは異なる
  • 動物の再生:プラナリアネオブラスト=全能性の幹細胞)。イモリの水晶体再生(虹彩色素上皮からの分化転換)

8確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

ショウジョウバエの前後軸の形成に関与する母性効果遺伝子を2つ挙げ、それぞれのmRNAが卵のどこに局在するか答えよ。

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解答

ビコイド遺伝子のmRNAは卵の前端に、ナノス遺伝子のmRNAは卵の後端に局在する。

Q2

ショウジョウバエの体節形成に関わる3種類の分節遺伝子を、発現する順に答えよ。

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解答

ギャップ遺伝子 → ペアルール遺伝子 → セグメントポラリティ遺伝子

Q3

ホメオティック突然変異とは何か。具体例を1つ挙げて説明せよ。

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解答

ホメオティック遺伝子の突然変異により、体の一部が別の部位の構造に置き換わる現象。例:アンテナペディア突然変異体では、触角が形成される位置に脚ができる。

Q4

ES細胞とiPS細胞の違いを、「由来」と「倫理的問題」の2点から説明せよ。

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解答

ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊から得られるため胚を壊す必要があり倫理的問題がある。一方、iPS細胞は分化した体細胞に遺伝子を導入してつくるため、胚を必要とせず倫理的問題が少ない。

9入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-4-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

ショウジョウバエの卵には、母体で合成されて蓄えられた( ア )が存在する。前後軸の形成には、卵の前端に局在する( イ )mRNAと、後端に局在する( ウ )mRNAが重要である。受精後、これらのmRNAが翻訳されてタンパク質の( エ )が形成され、位置情報が生じる。その後、( オ )遺伝子が段階的に発現して体節がつくられ、各体節の形態は( カ )遺伝子によって決定される。

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解答

ア:母性因子 イ:ビコイド ウ:ナノス エ:濃度勾配 オ:分節 カ:ホメオティック

解説

ショウジョウバエの前後軸決定は「母性因子の偏り → 分節遺伝子 → ホメオティック遺伝子」の段階的な遺伝子発現で進みます。母性因子のmRNAが翻訳されてできるタンパク質の濃度勾配が、最初の位置情報となります。

7-4-2A 基礎知識正誤

次のア〜オの記述のうち、正しいものをすべて選べ。

ア.分化した細胞では、不要な遺伝子のDNAが失われている。

イ.ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から得られる多能性をもつ細胞である。

ウ.iPS細胞は、分化した体細胞に特定の遺伝子を導入することで作製される。

エ.ガードンの実験は、分化した細胞の核でも全能性を保持していることを示した。

オ.ホメオティック遺伝子はショウジョウバエにのみ存在し、脊椎動物にはない。

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解答

イ、ウ、エ

解説

ア:誤り。分化した細胞でもDNAは失われておらず、発現する遺伝子のパターンが異なるだけです(ガードンの実験で証明)。

オ:誤り。ホメオティック遺伝子と相同な遺伝子(Hox遺伝子群)は脊椎動物を含む多くの動物で見つかっています。

B 標準レベル

7-4-3B 標準論述

(1) ショウジョウバエの初期胚でビコイドタンパク質が拡散によって濃度勾配をつくれる理由を、昆虫の初期発生の特徴に関連づけて60字以内で説明せよ。

(2) iPS細胞がES細胞に比べて再生医療で有利な点を、「体細胞」「倫理」「拒絶反応」の語を用いて80字以内で述べよ。

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解答

(1) 昆虫の初期発生では核分裂のみが起きて細胞質分裂が起きず、細胞膜の仕切りがないためタンパク質が自由に拡散できるから。(56字)

(2) iPS細胞は患者自身の体細胞から作製できるため、胚を壊す倫理的問題がなく、自己の細胞由来なので移植時の拒絶反応も起きにくい。(62字)

解説

(1) ショウジョウバエの初期胚は「多核性胞胚」を形成します。核だけが分裂し細胞質分裂は起きないため、胚の内部は1つの大きな細胞のような状態です。

(2) ES細胞の2つの問題点(胚を壊す倫理的問題、患者と異なるHLAによる拒絶反応)をiPS細胞は解決できます。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • 体細胞から作製できることに言及(2点)
  • 胚を壊さないため倫理的問題がないことに言及(2点)
  • 自己の細胞由来で拒絶反応が起きにくいことに言及(2点)
7-4-4B 標準実験考察

ショウジョウバエのビコイド遺伝子について、次の実験結果をもとに各問いに答えよ。

実験A:ビコイド遺伝子を欠失した変異体を作製したところ、頭部と胸部が形成されず、前方と後方の両方に尾部構造ができた。

実験B:野生型の受精卵の後部にビコイドmRNAを注入したところ、後部にも頭部構造が形成された。

(1) 実験Aの結果から、ビコイドタンパク質の役割について何がわかるか。30字以内で述べよ。

(2) 実験A・Bの結果を総合して、ビコイドタンパク質が前方構造の形成にとってどのような因子であるといえるか。「必要」「十分」の語を用いて40字以内で述べよ。

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解答

(1) ビコイドタンパク質は前方構造の形成に必要なタンパク質である。(28字)

(2) ビコイドタンパク質は前方構造の形成に必要かつ十分な形態形成決定因子である。(37字)

解説

(1) 実験Aで「ビコイドがないと前方構造ができない」→ ビコイドは前方構造に「必要」。

(2) 実験Bで「ビコイドを後部に加えると前方構造ができる」→ ビコイドだけで前方構造の形成を引き起こせる(「十分」)。必要条件と十分条件の両方を満たします。

C 発展レベル

7-4-5C 発展実験考察論述

次の文章を読み、各問いに答えよ。

ショウジョウバエの卵巣内で、養育細胞から卵母細胞へ数種類のmRNAが送りこまれる。受精後はまず核だけが分裂し、その後、核が細胞膜の近くへ移動してから細胞質分裂が起こる。

赤眼の遺伝子型AAの胚から細胞群X(後端に出現する細胞群で、将来の生殖細胞になる)を取り出し、白眼の遺伝子型aaの胚の後部に移植した。成長したハエ(ハエI)の眼色は白色であった。ハエIの雌と遺伝子型aaの雄を交配すると、次世代の眼色は赤色と白色の両方が見られた。ただし、遺伝子Aはaに対して顕性とする。

(1) 通常、遺伝子型AAと遺伝子型aaの個体を交配すると、子の眼色はどうなるか。

(2) ハエI(遺伝子型aaの胚に、AAの細胞群Xを移植して成長した個体)の雌がつくる卵の遺伝子型を答えよ。理由とともに50字以内で述べよ。

(3) 実験結果から推測できることとして最も適切なものを次の中から1つ選べ。

a. 細胞群Xは別の胚に移植されると分化する能力を失う。

b. 精巣や卵巣は細胞群Xが分化したものではない。

c. 精巣や卵巣の分化には受精卵の後部の細胞質が必要である。

d. 移植した細胞群Xは宿主の体細胞に分化した。

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解答

(1) すべて赤色(赤眼のみ)

(2) Aとaの両方。移植されたAA由来の細胞群Xが生殖細胞に分化し、A遺伝子をもつ卵もつくられるため。(46字)

(3) b

解説

(1) AA × aa → 子はすべてAa(顕性のAをもつので赤眼)。

(2) ハエIの体細胞はaaですが、移植されたAA由来の細胞群Xが生殖細胞に分化します。そのため卵にはAをもつもの(細胞群X由来)とaをもつもの(宿主由来)の両方が存在します。次世代にaa(白眼)が現れたことから、宿主由来の生殖細胞もあることがわかります。

(3) ハエIの眼色は白(aa)なのに生殖細胞にはA遺伝子が含まれていたことから、生殖細胞は細胞群Xに由来し、精巣・卵巣の組織自体は体細胞(宿主のaa)に由来すると考えられます。つまり精巣・卵巣は細胞群X由来ではない(bが正解)。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • 卵の遺伝子型がAとaの両方であることを指摘(2点)
  • AA由来の細胞群Xが生殖細胞に分化する点に言及(2点)
  • 次世代に赤眼と白眼の両方が出る理由を説明(2点)