第9章 動物の刺激の受容と反応

受容器
─ 刺激を受け取るしくみ

私たちは光を見て、音を聞き、体の傾きを感じます。これらの感覚はすべて、専用の「受容器」が外界の物理的・化学的刺激を電気信号に変換することで生まれます。
カメラのように精密な「眼」と、マイクのように繊細な「耳」を中心に、受容器のしくみを見ていきましょう。

1受容器と適刺激 ─ 「専門の窓口」がある

外部からの刺激を受け取る器官を受容器といいます。受容器の中で、実際に刺激を受け取って電気信号に変換する細胞を感覚細胞(受容細胞)と呼びます。

それぞれの受容器には、最も効率よく受容できる刺激が決まっています。これを適刺激といいます。たとえば、眼の適刺激は光(可視光線)、耳の適刺激は音波です。眼を強く押すと光が見えることがありますが、これは「適刺激でない刺激」でも受容器が反応しうることを意味しています。

受容器適刺激感覚
眼(網膜)光(波長 400〜720 nm)視覚
耳(うずまき管)音波(20〜20000 Hz)聴覚
耳(前庭)体の傾き平衡覚
耳(半規管)体の回転平衡覚
鼻(嗅細胞)気体中の化学物質嗅覚
舌(味蕾)液体中の化学物質味覚
皮膚圧力・温度触覚・温度覚

2眼の構造 ─ 「生体カメラ」のしくみ

眼はカメラにたとえるとわかりやすい構造をしています。カメラのレンズが水晶体、フィルムが網膜、絞りが虹彩に相当します。

眼球の基本構造

眼球の最外側にある透明な膜が角膜です。角膜を通過した光は、虹彩の中央の瞳孔から眼球内に入ります。虹彩は瞳孔の大きさを調節して、眼に入る光の量をコントロールしています(カメラの「絞り」に相当)。

瞳孔を通った光は水晶体(レンズ)で屈折し、眼球の奥にある網膜上に像を結びます。水晶体は弾力のある透明な構造で、毛様体の筋肉とチン小帯(毛様体と水晶体をつなぐ繊維)によって厚みが調節されます。

遠近調節 ─ ピント合わせのしくみ

物体までの距離に応じて水晶体の厚みを変えることで、網膜上に鮮明な像を結ぶしくみを遠近調節といいます。

毛様体の筋肉チン小帯水晶体
遠くを見るとき弛緩する引っ張られる薄くなる
近くを見るとき収縮するゆるむ厚くなる(自らの弾性で)
近くを見るときに毛様体が「収縮」すると水晶体が「厚く」なるのか
毛様体の筋肉が収縮する(毛様体のリングが小さくなる)
チン小帯がゆるむ(引っ張る力が弱まる)
水晶体が自身の弾力で厚くなる(屈折力が増す)
近くの物体からの光が網膜上に正しく像を結ぶ
ポイント:眼の構造と遠近調節
  • 角膜水晶体で光を屈折させ、網膜上に像を結ぶ
  • 虹彩が瞳孔の大きさを変えて光量を調節(カメラの絞り)
  • 遠近調節=毛様体の収縮・弛緩でチン小帯の張りを変え、水晶体の厚みを変える
  • 遠く → 毛様体弛緩 → チン小帯張る → 水晶体薄い
  • 近く → 毛様体収縮 → チン小帯ゆるむ → 水晶体厚い

3視細胞 ─ 光を電気信号に変える

網膜には2種類の視細胞(光受容細胞)があります。

桿体細胞(かんたいさいぼう)

桿体細胞弱い光でも反応する高感度の視細胞です。薄暗い場所で明暗を識別しますが、色の識別はできません。網膜の黄斑(中心部)の周辺に多く分布しています。

桿体細胞にはロドプシンという視物質が含まれています。ロドプシンは、タンパク質のオプシンと、ビタミンA由来のレチナールからなります。

ロドプシンのはたらき

  1. ロドプシンに光が当たると、レチナールの立体構造が変化する
  2. 構造変化によりロドプシンはレチナールとオプシンに分離する
  3. この変化が桿体細胞の膜電位を変化させ、電気信号が発生する
  4. 暗所で、レチナールは元の構造に戻り、再びオプシンと結合してロドプシンが再合成される

錐体細胞(すいたいさいぼう)

錐体細胞明るい場所ではたらき、色を識別する視細胞です。黄斑に多く分布しています。ヒトには青錐体細胞・緑錐体細胞・赤錐体細胞の3種類があり、それぞれ異なる波長の光を最もよく吸収します。3種類の錐体細胞の興奮の組み合わせによって、さまざまな色が識別されます。

黄斑と盲斑

黄斑は網膜の中央部で、錐体細胞が密集しており、最も鮮明に像を認識できる場所です。一方、盲斑は視神経の束が網膜を貫いている部分で、視細胞が存在せず、光を感知できません。

明順応と暗順応

  • 明順応:暗所から急に明所に出ると、蓄積されたロドプシンが一度に分解されて桿体細胞が過度に反応し、まぶしく感じる。ロドプシンが減少すると桿体の感度が下がり、錐体細胞中心の視覚に切り替わる
  • 暗順応:明所から暗所に入ると、最初は見えにくいが、時間とともにロドプシンが蓄積されて桿体細胞の感度が上昇し、暗所でも見えるようになる
発展:視細胞の「逆向き」配置 生物

脊椎動物の網膜では、光は神経細胞の層を通過してから視細胞に到達します。つまり視細胞は網膜の最も奥に位置しています。これは発生学的に、網膜が脳(神経管)の一部から形成されることに由来します。一方、イカなどの軟体動物の眼では視細胞が光の入射側にあり、光を直接受け取れる構造になっています。

4耳の構造 ─ 音と平衡感覚の受容器

耳は「聴覚」と「平衡覚」という2つの感覚を担っています。ヘッドフォンのように音を受け取る機能だけでなく、体の傾きや回転を感じるセンサーの機能も備えているのです。

耳の3つの区画

  • 外耳:耳殻と外耳道からなる。音波を集めて鼓膜に伝える
  • 中耳:鼓膜と耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨の3つ)からなる。鼓膜の振動を増幅して内耳に伝える
  • 内耳:うずまき管・前庭・半規管からなる。聴覚と平衡覚の感覚細胞がある

うずまき管とコルチ器 ─ 音を感じるしくみ

うずまき管(蝸牛)は、名前のとおり渦巻き状の管で、内部はリンパ液で満たされています。うずまき管の内部にはコルチ器(コルチ器官)と呼ばれる聴覚の受容器があります。

コルチ器の感覚毛をもつ感覚細胞(有毛細胞)が、音の振動を受け取って電気信号に変換します。音波は、鼓膜 → 耳小骨 → うずまき管のリンパ液 → コルチ器の基底膜の振動 → 感覚毛の変形、という経路で伝わります。

半規管と前庭 ─ 体の動きを感じるしくみ

前庭は体の傾き(重力方向に対する頭の位置)を感知する器官です。内部にはリンパ液と耳石(炭酸カルシウムの小さな結晶)があり、体が傾くと耳石が動いて感覚毛を刺激します。

半規管は体の回転を感知する器官で、互いに直交する3つの管(三半規管)からなります。体が回転するとリンパ液の慣性で感覚毛が曲がり、回転の方向と速さが検出されます。

ポイント:耳の受容器まとめ
  • うずまき管コルチ器 → 聴覚(適刺激:音波)
  • 前庭 → 平衡覚・体の傾き(適刺激:重力加速度)
  • 半規管 → 平衡覚・体の回転(適刺激:回転加速度)
  • いずれも感覚毛の変形が刺激の受容メカニズム
発展:うずまき管の周波数分析 生物

うずまき管の基底膜は、入口付近では幅が狭く硬く、奥に向かうほど幅が広く柔らかくなっています。高い音(高周波)は入口付近の基底膜を、低い音(低周波)は奥の基底膜を大きく振動させます。この構造により、うずまき管は音の高さを場所の違いとして分析しています。

5その他の受容器 ─ 皮膚・嗅覚・味覚・筋紡錘

皮膚感覚の受容器

皮膚には、さまざまな刺激を受容する感覚点が分布しています。温点(温かさ)、冷点(冷たさ)、痛点(痛み)、圧点(圧力・触覚)の4種類があり、分布密度は場所によって異なります。痛点が最も多く、温点が最も少ない傾向にあります。

痛覚や温度覚は、自由神経末端(感覚神経の末端がむき出しになったもの)で受容されます。圧覚には特殊な構造をもつ受容器(パチニ小体など)が関わります。

嗅覚器 ─ 気体の化学物質を感知する

鼻腔の天井部に嗅上皮があり、そこに分布する嗅細胞が気体中の化学物質を受容して嗅覚が生じます。ヒトの嗅細胞には約400種類嗅覚受容体(嗅覚受容タンパク質)が存在し、それぞれ異なる化学物質に反応します。多種類の嗅覚受容体の組み合わせにより、数万種類ものにおいを識別できると考えられています。

味覚器 ─ 液体の化学物質を感知する

舌の表面にある味蕾(みらい)が味覚の受容器です。味蕾の中にある味細胞が、液体に溶けた化学物質を受容します。ヒトの味覚には甘味塩味酸味苦味うま味5基本味があります。

筋紡錘 ─ 筋肉の伸縮を感知する

筋紡錘は骨格筋の中に存在する紡錘形の受容器で、筋肉の伸縮状態(長さの変化)を感知します。筋紡錘からの情報は脊髄に伝えられ、膝蓋腱反射のような伸張反射の引き金となるほか、姿勢の維持や運動の微調整に不可欠です。

6この節を俯瞰する ─ 受容器は「変換装置」

受容器の本質は、光・音・圧力・化学物質といったさまざまな刺激を、神経が伝えられる「電気信号」に変換する装置です。眼ではロドプシンの化学変化が、耳では感覚毛の物理的な変形が、それぞれ膜電位の変化を引き起こします。

他の節とのつながり

つながりマップ

  • 9-2 ニューロンと興奮の伝導 → 受容器で生じた電気信号は、感覚ニューロンの活動電位として中枢に伝えられる。
  • 9-3 シナプスと興奮の伝達 → 視細胞から神経節細胞へ、コルチ器から聴神経へのシナプス伝達。
  • 9-5 効果器と中枢神経系 → 受容器で受け取った情報は中枢神経系で処理され、効果器(筋肉)の反応につながる。
  • 7-3 器官形成と誘導 → 眼の形成は誘導の連鎖(眼杯→水晶体→角膜)の代表例。

7まとめ

  • 受容器:外部からの刺激を受け取る器官。適刺激が決まっている
  • :角膜と水晶体で光を屈折させ、網膜上に像を結ぶ
  • 遠近調節:毛様体が水晶体の厚みを変えてピントを合わせる
  • 桿体細胞:弱い光に反応。ロドプシン(オプシン+レチナール)を含む。色は識別しない
  • 錐体細胞:明るい光に反応。3種類(青・緑・赤)で色を識別。黄斑に多い
  • ロドプシン:光で分解(レチナールの構造変化)→ 膜電位変化 → 暗所で再合成
  • うずまき管のコルチ器:聴覚の受容器。感覚毛の変形で音を受容
  • 前庭:体の傾き、半規管:体の回転を感知(どちらも感覚毛の変形)
  • 皮膚には温点冷点痛点圧点があり、痛覚・温度覚は自由神経末端で受容される
  • 嗅細胞:約400種の嗅覚受容体で気体中の化学物質を感知(嗅覚)
  • 味蕾:5基本味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)を感知(味覚)
  • 筋紡錘:骨格筋内に存在し、筋肉の伸縮状態を感知。伸張反射(膝蓋腱反射)の受容器

8確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

ヒトの眼において、遠くを見るときと近くを見るときで、毛様体・チン小帯・水晶体の状態はそれぞれどう変化するか。

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解答

遠くを見るとき:毛様体は弛緩し、チン小帯は引っ張られ、水晶体は薄くなる。近くを見るとき:毛様体は収縮し、チン小帯はゆるみ、水晶体は自身の弾力で厚くなる。

Q2

桿体細胞と錐体細胞の違いを、はたらく環境・色の識別・分布する位置の3点で説明せよ。

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解答

桿体細胞:弱い光ではたらき、色の識別はできず、黄斑の周辺に多い。錐体細胞:強い光ではたらき、色の識別ができ(3種類ある)、黄斑に集中して分布する。

Q3

ロドプシンの構成成分を2つ挙げ、光が当たったときに起こる変化を述べよ。

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解答

ロドプシンはオプシン(タンパク質)とレチナール(ビタミンA由来)からなる。光が当たるとレチナールの立体構造が変化し、ロドプシンがオプシンとレチナールに分離する。この変化が桿体細胞の膜電位を変化させ、電気信号を生じさせる。

Q4

耳のうずまき管・前庭・半規管は、それぞれ何を受容する器官か。

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解答

うずまき管(コルチ器):音波(聴覚)。前庭:体の傾き(平衡覚)。半規管:体の回転(平衡覚)。

9入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

9-4-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

ヒトの眼では、光は( ア )と( イ )で屈折して( ウ )上に像を結ぶ。( ウ )には2種類の視細胞があり、弱い光に反応して明暗を識別する( エ )細胞と、明所で色を識別する( オ )細胞がある。( エ )細胞には( カ )という視物質が含まれている。

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解答

ア:角膜 イ:水晶体 ウ:網膜 エ:桿体 オ:錐体 カ:ロドプシン

解説

眼の基本構造と2種類の視細胞に関する基本事項です。桿体細胞のロドプシンはオプシンとレチナールからなり、光で分解されて膜電位変化を起こします。

B 標準レベル

9-4-2B 標準論述

(1) 暗順応とはどのような現象か。「ロドプシン」「桿体細胞」の語を用いて40字以内で述べよ。

(2) 遠くの物体を見ていた状態から近くの物体にピントを合わせるとき、毛様体・チン小帯・水晶体はそれぞれどのように変化するか。50字以内で述べよ。

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解答

(1) 暗所でロドプシンが蓄積されて桿体細胞の感度が上昇し、暗所でも見えるようになる現象。(40字)

(2) 毛様体が収縮してチン小帯がゆるみ、水晶体が自身の弾力で厚くなり屈折力が増す。(38字)

解説

(1) 暗順応の本質はロドプシンの蓄積による桿体細胞の感度上昇です。逆に明順応は、蓄積されたロドプシンが一度に分解されて過剰な反応が起きることです。

(2) 遠近調節は「毛様体の収縮・弛緩 → チン小帯の張力変化 → 水晶体の厚み変化」の連鎖で起きます。毛様体が収縮するとチン小帯がゆるむ(逆のように感じやすいので注意)。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • 毛様体の収縮に言及(2点)
  • チン小帯がゆるむことに言及(2点)
  • 水晶体が厚くなることに言及(2点)

C 発展レベル

9-4-3C 発展論述実験考察

ある動物の網膜に含まれる視物質の吸収スペクトルを調べたところ、青・緑・赤の3つの吸収ピークをもつ視物質と、500 nm 付近に吸収ピークをもつ視物質が見つかった。以下の問いに答えよ。

(1) 500 nm 付近に吸収ピークをもつ視物質の名称を答え、この視物質を含む視細胞の特徴を30字以内で述べよ。

(2) この動物を暗室に長時間置いた後に弱い光を当てた場合、主にどちらの視細胞が反応するか。その理由を「感度」の語を用いて40字以内で述べよ。

(3) 盲斑では光を感知できない理由を20字以内で述べよ。

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解答

(1) ロドプシン。弱い光に反応し明暗を識別するが色の識別はできない。(28字)

(2) 桿体細胞。暗所でロドプシンが蓄積されて感度が上昇しているため、弱い光に反応する。(39字)

(3) 視細胞が分布していないため。(14字)

解説

(1) 500 nm 付近に吸収ピークをもつのはロドプシンで、桿体細胞に含まれます。3つの吸収ピークをもつ視物質は3種類の錐体細胞にそれぞれ含まれています。

(2) 暗所ではロドプシンが蓄積されて桿体細胞の感度が高まっているため、弱い光に優先的に反応します(暗順応)。

(3) 盲斑は視神経の束が網膜を貫いている部分で、視細胞がないため光を感知できません。