私たちは光を見て、音を聞き、体の傾きを感じます。これらの感覚はすべて、専用の「受容器」が外界の物理的・化学的刺激を電気信号に変換することで生まれます。
カメラのように精密な「眼」と、マイクのように繊細な「耳」を中心に、受容器のしくみを見ていきましょう。
外部からの刺激を受け取る器官を受容器といいます。受容器の中で、実際に刺激を受け取って電気信号に変換する細胞を感覚細胞(受容細胞)と呼びます。
それぞれの受容器には、最も効率よく受容できる刺激が決まっています。これを適刺激といいます。たとえば、眼の適刺激は光(可視光線)、耳の適刺激は音波です。眼を強く押すと光が見えることがありますが、これは「適刺激でない刺激」でも受容器が反応しうることを意味しています。
| 受容器 | 適刺激 | 感覚 |
|---|---|---|
| 眼(網膜) | 光(波長 400〜720 nm) | 視覚 |
| 耳(うずまき管) | 音波(20〜20000 Hz) | 聴覚 |
| 耳(前庭) | 体の傾き | 平衡覚 |
| 耳(半規管) | 体の回転 | 平衡覚 |
| 鼻(嗅細胞) | 気体中の化学物質 | 嗅覚 |
| 舌(味蕾) | 液体中の化学物質 | 味覚 |
| 皮膚 | 圧力・温度 | 触覚・温度覚 |
眼はカメラにたとえるとわかりやすい構造をしています。カメラのレンズが水晶体、フィルムが網膜、絞りが虹彩に相当します。
眼球の最外側にある透明な膜が角膜です。角膜を通過した光は、虹彩の中央の瞳孔から眼球内に入ります。虹彩は瞳孔の大きさを調節して、眼に入る光の量をコントロールしています(カメラの「絞り」に相当)。
瞳孔を通った光は水晶体(レンズ)で屈折し、眼球の奥にある網膜上に像を結びます。水晶体は弾力のある透明な構造で、毛様体の筋肉とチン小帯(毛様体と水晶体をつなぐ繊維)によって厚みが調節されます。
物体までの距離に応じて水晶体の厚みを変えることで、網膜上に鮮明な像を結ぶしくみを遠近調節といいます。
| 毛様体の筋肉 | チン小帯 | 水晶体 | |
|---|---|---|---|
| 遠くを見るとき | 弛緩する | 引っ張られる | 薄くなる |
| 近くを見るとき | 収縮する | ゆるむ | 厚くなる(自らの弾性で) |
網膜には2種類の視細胞(光受容細胞)があります。
桿体細胞は弱い光でも反応する高感度の視細胞です。薄暗い場所で明暗を識別しますが、色の識別はできません。網膜の黄斑(中心部)の周辺に多く分布しています。
桿体細胞にはロドプシンという視物質が含まれています。ロドプシンは、タンパク質のオプシンと、ビタミンA由来のレチナールからなります。
錐体細胞は明るい場所ではたらき、色を識別する視細胞です。黄斑に多く分布しています。ヒトには青錐体細胞・緑錐体細胞・赤錐体細胞の3種類があり、それぞれ異なる波長の光を最もよく吸収します。3種類の錐体細胞の興奮の組み合わせによって、さまざまな色が識別されます。
黄斑は網膜の中央部で、錐体細胞が密集しており、最も鮮明に像を認識できる場所です。一方、盲斑は視神経の束が網膜を貫いている部分で、視細胞が存在せず、光を感知できません。
脊椎動物の網膜では、光は神経細胞の層を通過してから視細胞に到達します。つまり視細胞は網膜の最も奥に位置しています。これは発生学的に、網膜が脳(神経管)の一部から形成されることに由来します。一方、イカなどの軟体動物の眼では視細胞が光の入射側にあり、光を直接受け取れる構造になっています。
耳は「聴覚」と「平衡覚」という2つの感覚を担っています。ヘッドフォンのように音を受け取る機能だけでなく、体の傾きや回転を感じるセンサーの機能も備えているのです。
うずまき管(蝸牛)は、名前のとおり渦巻き状の管で、内部はリンパ液で満たされています。うずまき管の内部にはコルチ器(コルチ器官)と呼ばれる聴覚の受容器があります。
コルチ器の感覚毛をもつ感覚細胞(有毛細胞)が、音の振動を受け取って電気信号に変換します。音波は、鼓膜 → 耳小骨 → うずまき管のリンパ液 → コルチ器の基底膜の振動 → 感覚毛の変形、という経路で伝わります。
前庭は体の傾き(重力方向に対する頭の位置)を感知する器官です。内部にはリンパ液と耳石(炭酸カルシウムの小さな結晶)があり、体が傾くと耳石が動いて感覚毛を刺激します。
半規管は体の回転を感知する器官で、互いに直交する3つの管(三半規管)からなります。体が回転するとリンパ液の慣性で感覚毛が曲がり、回転の方向と速さが検出されます。
うずまき管の基底膜は、入口付近では幅が狭く硬く、奥に向かうほど幅が広く柔らかくなっています。高い音(高周波)は入口付近の基底膜を、低い音(低周波)は奥の基底膜を大きく振動させます。この構造により、うずまき管は音の高さを場所の違いとして分析しています。
皮膚には、さまざまな刺激を受容する感覚点が分布しています。温点(温かさ)、冷点(冷たさ)、痛点(痛み)、圧点(圧力・触覚)の4種類があり、分布密度は場所によって異なります。痛点が最も多く、温点が最も少ない傾向にあります。
痛覚や温度覚は、自由神経末端(感覚神経の末端がむき出しになったもの)で受容されます。圧覚には特殊な構造をもつ受容器(パチニ小体など)が関わります。
鼻腔の天井部に嗅上皮があり、そこに分布する嗅細胞が気体中の化学物質を受容して嗅覚が生じます。ヒトの嗅細胞には約400種類の嗅覚受容体(嗅覚受容タンパク質)が存在し、それぞれ異なる化学物質に反応します。多種類の嗅覚受容体の組み合わせにより、数万種類ものにおいを識別できると考えられています。
舌の表面にある味蕾(みらい)が味覚の受容器です。味蕾の中にある味細胞が、液体に溶けた化学物質を受容します。ヒトの味覚には甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5基本味があります。
筋紡錘は骨格筋の中に存在する紡錘形の受容器で、筋肉の伸縮状態(長さの変化)を感知します。筋紡錘からの情報は脊髄に伝えられ、膝蓋腱反射のような伸張反射の引き金となるほか、姿勢の維持や運動の微調整に不可欠です。
受容器の本質は、光・音・圧力・化学物質といったさまざまな刺激を、神経が伝えられる「電気信号」に変換する装置です。眼ではロドプシンの化学変化が、耳では感覚毛の物理的な変形が、それぞれ膜電位の変化を引き起こします。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
ヒトの眼において、遠くを見るときと近くを見るときで、毛様体・チン小帯・水晶体の状態はそれぞれどう変化するか。
遠くを見るとき:毛様体は弛緩し、チン小帯は引っ張られ、水晶体は薄くなる。近くを見るとき:毛様体は収縮し、チン小帯はゆるみ、水晶体は自身の弾力で厚くなる。
桿体細胞と錐体細胞の違いを、はたらく環境・色の識別・分布する位置の3点で説明せよ。
桿体細胞:弱い光ではたらき、色の識別はできず、黄斑の周辺に多い。錐体細胞:強い光ではたらき、色の識別ができ(3種類ある)、黄斑に集中して分布する。
ロドプシンの構成成分を2つ挙げ、光が当たったときに起こる変化を述べよ。
ロドプシンはオプシン(タンパク質)とレチナール(ビタミンA由来)からなる。光が当たるとレチナールの立体構造が変化し、ロドプシンがオプシンとレチナールに分離する。この変化が桿体細胞の膜電位を変化させ、電気信号を生じさせる。
耳のうずまき管・前庭・半規管は、それぞれ何を受容する器官か。
うずまき管(コルチ器):音波(聴覚)。前庭:体の傾き(平衡覚)。半規管:体の回転(平衡覚)。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。
ヒトの眼では、光は( ア )と( イ )で屈折して( ウ )上に像を結ぶ。( ウ )には2種類の視細胞があり、弱い光に反応して明暗を識別する( エ )細胞と、明所で色を識別する( オ )細胞がある。( エ )細胞には( カ )という視物質が含まれている。
ア:角膜 イ:水晶体 ウ:網膜 エ:桿体 オ:錐体 カ:ロドプシン
眼の基本構造と2種類の視細胞に関する基本事項です。桿体細胞のロドプシンはオプシンとレチナールからなり、光で分解されて膜電位変化を起こします。
(1) 暗順応とはどのような現象か。「ロドプシン」「桿体細胞」の語を用いて40字以内で述べよ。
(2) 遠くの物体を見ていた状態から近くの物体にピントを合わせるとき、毛様体・チン小帯・水晶体はそれぞれどのように変化するか。50字以内で述べよ。
(1) 暗所でロドプシンが蓄積されて桿体細胞の感度が上昇し、暗所でも見えるようになる現象。(40字)
(2) 毛様体が収縮してチン小帯がゆるみ、水晶体が自身の弾力で厚くなり屈折力が増す。(38字)
(1) 暗順応の本質はロドプシンの蓄積による桿体細胞の感度上昇です。逆に明順応は、蓄積されたロドプシンが一度に分解されて過剰な反応が起きることです。
(2) 遠近調節は「毛様体の収縮・弛緩 → チン小帯の張力変化 → 水晶体の厚み変化」の連鎖で起きます。毛様体が収縮するとチン小帯がゆるむ(逆のように感じやすいので注意)。
ある動物の網膜に含まれる視物質の吸収スペクトルを調べたところ、青・緑・赤の3つの吸収ピークをもつ視物質と、500 nm 付近に吸収ピークをもつ視物質が見つかった。以下の問いに答えよ。
(1) 500 nm 付近に吸収ピークをもつ視物質の名称を答え、この視物質を含む視細胞の特徴を30字以内で述べよ。
(2) この動物を暗室に長時間置いた後に弱い光を当てた場合、主にどちらの視細胞が反応するか。その理由を「感度」の語を用いて40字以内で述べよ。
(3) 盲斑では光を感知できない理由を20字以内で述べよ。
(1) ロドプシン。弱い光に反応し明暗を識別するが色の識別はできない。(28字)
(2) 桿体細胞。暗所でロドプシンが蓄積されて感度が上昇しているため、弱い光に反応する。(39字)
(3) 視細胞が分布していないため。(14字)
(1) 500 nm 付近に吸収ピークをもつのはロドプシンで、桿体細胞に含まれます。3つの吸収ピークをもつ視物質は3種類の錐体細胞にそれぞれ含まれています。
(2) 暗所ではロドプシンが蓄積されて桿体細胞の感度が高まっているため、弱い光に優先的に反応します(暗順応)。
(3) 盲斑は視神経の束が網膜を貫いている部分で、視細胞がないため光を感知できません。