第11章 個体群と生物群集

種間関係
─ 生物どうしのつながり

自然界では、異なる種の生物が「食う-食われる」「助け合い」「争い」など、さまざまな関係を結んで共存しています。
ライオンとシマウマ、アリとアブラムシ、イワナとヤマメ――これらの関係はどのようなルールで成り立っているのでしょうか。
異なる種の間に見られる相互作用のパターンを整理しましょう。

1種間競争 ─ 同じ資源をめぐる争い

異なる種の生物が、同じ食物・空間・光などの資源をめぐって競い合うことを種間競争といいます。種間競争は、利用する資源の重なりが大きいほど激しくなります。

競争的排除

種間競争の結果、一方の種がその場所から排除されてしまう現象を競争的排除(ガウゼの法則)といいます。

ガウゼの実験では、ヒメゾウリムシとゾウリムシを同じ容器で飼育すると、ヒメゾウリムシが増加する一方でゾウリムシは著しく減少しました。両種は同じ餌(浮遊細菌)をめぐって競争し、ヒメゾウリムシの方が資源獲得能力で上回ったためです。

すみわけ ─ 共存のための棲み分け

一方、ゾウリムシとミドリゾウリムシの場合は、ゾウリムシが培養液中の浮遊細菌を、ミドリゾウリムシが底層の酵母を食べる傾向があり、資源の重なりが小さかったため共存できました。

このように、近縁の種が生活空間や利用資源を分けることで競争を回避して共存する現象をすみわけといいます。

たとえば日本の渓流では、イワナは上流の冷水域に、ヤマメは中流域にすみわけています。一方の種だけを生息させると、本来の分布域を超えて分布を広げることが知られており、すみわけが種間競争の結果であることがわかります。

食いわけ ─ 食物を分けて共存する

すみわけが「生息場所」を分けて共存するのに対し、同じ場所に生活しながら利用する食物の種類を分けることで競争を回避して共存する現象を食いわけといいます。たとえば、同じ海域で漁をするヒメウカワウでは、ヒメウが主に表層の小魚を、カワウが底層付近の魚やエビを捕食することで共存しています。すみわけと食いわけは、いずれもニッチの重なりを小さくすることで種間競争を緩和する適応です。

生態的同位種

異なる地域(大陸)で、系統的には近縁でないにもかかわらず、同様のニッチを占めている種どうしを生態的同位種といいます。たとえば、北米のピューマとアフリカのライオンは系統が異なりますが、いずれも大型の肉食獣として草原の頂点捕食者というニッチを占めています。生態的同位種の存在は、類似した環境では類似したニッチが生じ、そこに適応した種が独立に進化すること(収束進化)を示しています。

ポイント:ニッチ(生態的地位)と競争
  • ニッチ(生態的地位)= ある種が生態系の中で占める「役割と位置」(利用する資源・活動時間・生活空間など)
  • ニッチの重なりが大きい → 種間競争が激しい → 競争的排除が起こりやすい
  • ニッチの重なりが小さい → 種間競争が弱い → 共存できる
  • すみわけ = 種間競争の結果、ニッチの重なりを減らして共存すること

2捕食者-被食者関係 ─ 「食う-食われる」の力学

異なる種の間に見られる最も基本的な関係が「食う-食われる」の関係です。食う側を捕食者、食われる側を被食者といいます。

個体数の周期的変動

捕食者と被食者が共存する場合、両者の個体数は一定のタイムラグ(時間差)をもって周期的に変動することがあります。この変動パターンは次のように理解できます。

  1. 被食者が増える → 捕食者の食物が増えるため、捕食者も遅れて増加
  2. 捕食者が増えると被食者が多く食べられ、被食者が減少
  3. 被食者が減ると捕食者の食物が不足し、捕食者も遅れて減少
  4. 捕食者が減ると被食の圧力が弱まり、被食者が再び増加 → 1に戻る

コウノシロハダニ(被食者)とカブリダニの一種(捕食者)を飼育容器で共存させた実験では、このような周期的変動が実際に観察されています。

捕食者と被食者の個体数が周期的に変動するのか
被食者が増えると、捕食者の食物が豊富になり増殖する
捕食者が増えると被食者を大量に捕食し、被食者が減少する
被食者が減ると捕食者も食物不足で減少する
捕食者が減ると被食圧が低下し、被食者が再び増加する → 繰り返し
発展:ロトカ-ヴォルテラの方程式 生物

数学者ロトカと数学者ヴォルテラは、捕食者-被食者の個体数変動を連立微分方程式で表しました。被食者をx、捕食者をyとすると、被食者は「自然増加 - 捕食による減少」で、捕食者は「被食者の捕食による増加 - 自然死亡」で個体数が変動します。このモデルから導かれる周期的変動は、実際の生態系でも広く観察されます。ただし現実の生態系では、環境の不均一性や避難場所の存在が変動パターンに影響を与えます。

3共生 ─ 異種どうしの「暮らし合い」

異なる種の生物が密接なつながりをもって生活することを共生といいます。共生にはいくつかのタイプがあります。

相利共生 ─ 互いに得をする関係

双方の生物が互いに利益を得る関係を相利共生といいます。

  • アリとアブラムシ:アブラムシは甘い排泄物をアリに提供し、アリはアブラムシをテントウムシなどの天敵から守る
  • クマノミとイソギンチャク:イソギンチャクの毒のある触手でクマノミを保護し、クマノミの食べ残しをイソギンチャクが利用する
  • マメ科植物と根粒菌:根粒菌が窒素固定でアンモニウムイオンを植物に供給し、植物からは有機物が供給される
  • 菌根菌と植物:菌根菌がリンや窒素を植物に供給し、植物からは光合成産物が供給される

片利共生 ─ 一方だけが得をする関係

一方の生物だけが利益を受け、他方は利益も不利益も受けない関係を片利共生といいます。

  • コバンザメとサメ:コバンザメはサメにくっついて移動・保護の利益を得るが、サメには影響がほとんどない
  • ナマコとカクレウオ:カクレウオがナマコの消化管を隠れ家として利用する
ポイント:種間関係の分類
関係種A種B代表例
相利共生利益 (+)利益 (+)アリとアブラムシ
片利共生利益 (+)影響なし (0)コバンザメとサメ
捕食利益 (+)不利益 (-)ライオンとシマウマ
寄生利益 (+)不利益 (-)コマユバチとガの幼虫
種間競争不利益 (-)不利益 (-)ゾウリムシとヒメゾウリムシ
中立影響なし (0)影響なし (0)同じ森林に生息するが関わりがない2種

4寄生 ─ 相手から一方的に奪う関係

ある生物が他の特定の生物から栄養分を一方的に奪い、その生物に不利益を与える関係を寄生といいます。利益を得る側を寄生者、不利益を受ける側を宿主(しゅくしゅ)といいます。

たとえばコマユバチは、ガやチョウの幼虫のからだに卵を産みつけます。ふ化したコマユバチの幼虫は宿主の体を食べて成長し、宿主は最終的に死亡します。

寄生者と宿主の関係は、捕食者と被食者の関係と共通する面があります。アズキゾウムシとその寄生バチの個体数は、捕食-被食関係と同様に、一定のタイムラグをもって周期的に変動することが確認されています。

発展:間接効果 生物

捕食・共生・競争などの2種間の直接的な相互作用が、第3の種を介して間接的に別の種に影響を与えることを間接効果といいます。たとえば、ナナホシテントウがアブラムシを捕食することで、アブラムシとヨモギハムシとの種間競争が緩和され、ヨモギハムシの個体数が増加することがあります。これは捕食者が被食者の競争相手に間接的に利益をもたらす例です。

5その他の種間関係 ─ 抗生物質とアレロパシー

抗生物質

ある微生物が生産する化学物質が、他の微生物の生育を阻害する現象があります。抗生物質はこの現象を応用したもので、アオカビの一種が生産するペニシリンは、細菌の細胞壁の合成を阻害して細菌を殺します。抗生物質を生産する側の微生物は、自分の周囲の競争相手を排除することで生存に有利になります。

他感作用(アレロパシー)

植物が根や葉などから放出する化学物質が、周囲の他の植物の発芽や生長を抑制する現象を他感作用アレロパシー)といいます。たとえば、セイタカアワダチソウは根からcis-デヒドロマトリカリアエステルなどの化学物質を分泌し、周囲の植物の生長を抑えることが知られています。これは種間競争の一形態ともいえますが、直接的な資源の奪い合いではなく、化学物質による間接的な影響である点が特徴的です。

6擬態 ─ 「似せること」で生き残る

ある種の動物が他の種の形態や模様に似ている現象を擬態といいます。擬態は捕食-被食関係の中で進化した適応と考えられています。

ベイツ型擬態

毒や刺などの防御手段をもたない種が、毒をもつ種(モデル)に外見を似せることで捕食者から身を守る擬態をベイツ型擬態といいます。

たとえば、無毒のジロオビアゲハは、有毒のベニモンアゲハに翅の模様が似ています。捕食者は過去にベニモンアゲハを食べて不快な経験をしたため、似た模様のジロオビアゲハも避けるようになります。

ミューラー型擬態

毒や防御手段をもつ複数の種が互いに似た外見(警告色)をもつ現象をミューラー型擬態といいます。

たとえば、スズメバチ・アシナガバチ・ミツバチなど、刺す能力をもつハチの仲間の多くは黒と黄の縞模様をもっています。これらが互いに似ていることで、捕食者は少ない学習回数で「黄色と黒の縞 = 危険」と覚え、すべての種が捕食を免れやすくなります。

ポイント:ベイツ型とミューラー型の違い
  • ベイツ型擬態:無毒の種 → 有毒の種に似る。モデル(有毒)は「損」する可能性あり
  • ミューラー型擬態:有毒の種どうしが互いに似る。すべての種が「得」をする
  • 共通点:どちらも捕食者の学習を利用した適応
ベイツ型擬態が進化できたのか
有毒の種(モデル)を食べた捕食者は、不快な経験からその模様を避けるように学習する
無毒の種の中に、偶然モデルに少し似た模様をもつ個体が現れる
似た個体は捕食者に避けられるため生存率が高く、多くの子孫を残す
世代を重ねるうちに、より似た個体が自然選択で有利になり、擬態が精巧になる

7この節を俯瞰する ─ 種間関係は生態系を織りなす糸

種間競争・捕食-被食関係・共生・寄生・擬態――これらの種間関係は、それぞれ独立して存在するのではなく、互いに影響し合いながら生態系を形づくっています。捕食者の存在が競争的排除を防いで多様な種の共存を可能にしたり、共生関係が両種の分布と個体数に影響を与えたりします。

他の節とのつながり

つながりマップ

  • 11-1 個体群とその変動 → 種間関係は個体群密度の変動要因の1つ。捕食者の存在は被食者の個体群密度を抑え、種間競争は一方の個体群を減少させる。
  • 11-3 生物群集と遷移 → 種間関係(特に競争と捕食)が生物群集の種構成と種の多様性を決める重要な要因。
  • 13章 進化のしくみ → 擬態・保護色・警告色は自然選択による適応の産物。共進化(捕食者と被食者が互いに適応を進化させること)の概念と関連。

8まとめ

  • 種間競争:異種間の資源をめぐる競争。ニッチの重なりが大きいほど激化
  • 競争的排除:種間競争で一方の種が排除される現象(ガウゼの法則)
  • すみわけ:生活空間を分けることで種間競争を回避して共存
  • 食いわけ:利用する食物の種類を分けることで種間競争を回避して共存(例:ヒメウとカワウ)
  • 生態的同位種:異なる地域で同様のニッチを占める種(例:ピューマとライオン)
  • 中立:同じ生態系に生息するが、互いに影響を及ぼさない関係
  • 捕食者-被食者関係:両者の個体数はタイムラグをもって周期的に変動する
  • 相利共生:双方が利益を得る共生(例:アリとアブラムシ、マメ科植物と根粒菌)
  • 片利共生:一方のみが利益を得る共生(例:コバンザメとサメ)
  • 寄生:一方が他方から栄養を一方的に奪う関係。寄生者と宿主
  • 抗生物質:微生物が生産する化学物質が他の微生物の生育を阻害する(例:ペニシリン)
  • 他感作用(アレロパシー):植物が放出する化学物質が他の植物の発芽・生長を抑制する
  • ベイツ型擬態:無毒の種が有毒の種に似る。ミューラー型擬態:有毒の種どうしが互いに似る

9確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

「競争的排除」とは何か。具体例を挙げて述べよ。

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解答

種間競争の結果、一方の種がその場所から排除されてしまう現象。たとえば、ヒメゾウリムシとゾウリムシを同じ容器で飼育すると、同じ餌をめぐる競争でヒメゾウリムシが優位となり、ゾウリムシが著しく減少する。

Q2

相利共生と片利共生の違いを、それぞれ具体例を挙げて説明せよ。

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解答

相利共生は双方が利益を得る関係で、アリとアブラムシ(アリは甘い排泄物を得て、アブラムシは天敵から守られる)が例。片利共生は一方のみが利益を得る関係で、コバンザメとサメ(コバンザメは移動・保護の利益を得るが、サメには影響がない)が例。

Q3

ベイツ型擬態とミューラー型擬態の違いを述べよ。

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解答

ベイツ型擬態は無毒の種が有毒の種に外見を似せる擬態で、似せる側だけが利益を得る。ミューラー型擬態は有毒の種どうしが互いに似た外見(警告色)をもつ擬態で、すべての種が捕食を免れやすくなる利益を得る。

Q4

捕食者-被食者関係において、両者の個体数が周期的に変動するしくみを述べよ。

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解答

被食者が増えると食物が豊富になり捕食者も遅れて増加する。捕食者の増加で被食者が減少すると、食物不足で捕食者も遅れて減少する。捕食者が減ると捕食圧が低下して被食者が再び増加し、この変動が繰り返される。

10入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

11-2-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

異なる種の間で共通の資源をめぐって起こる競争を( ア )という。( ア )の結果、一方の種が排除される現象を( イ )という。異なる種どうしが生活空間や利用資源を分けて共存することを( ウ )という。異種の生物が密接なつながりをもって生活することを( エ )といい、双方が利益を得る場合を( オ )、一方のみが利益を得る場合を( カ )という。

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解答

ア:種間競争 イ:競争的排除 ウ:すみわけ エ:共生 オ:相利共生 カ:片利共生

解説

種間関係の基本用語を整理する問題です。種間競争は同じ資源(ニッチが重なる場合)に起こり、競争的排除はガウゼのゾウリムシの実験で示されました。すみわけは競争を回避する適応です。

B 標準レベル

11-2-2B 標準論述実験考察

ガウゼは、ゾウリムシ類を用いた以下の実験を行った。

実験1:ヒメゾウリムシとゾウリムシを同じ容器で飼育 → ゾウリムシが著しく減少

実験2:ゾウリムシとミドリゾウリムシを同じ容器で飼育 → 両種が共存

(1) 実験1でゾウリムシが減少した原因を「ニッチ」の語を用いて40字以内で述べよ。

(2) 実験2で2種が共存できた理由を、両種の餌の違いに触れて50字以内で述べよ。

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解答

(1) 両種のニッチが重なり、共通の餌をめぐる種間競争でヒメゾウリムシが優位だったため。(39字)

(2) ゾウリムシは浮遊細菌を、ミドリゾウリムシは底層の酵母を食べ、ニッチの重なりが小さく競争が弱かったため。(50字)

解説

(1) ヒメゾウリムシとゾウリムシは同じ浮遊細菌を食べるため、ニッチが大きく重なり、競争的排除が起こりました。

(2) 利用する餌が異なることでニッチの重なりが小さくなり、競争の程度が弱まったため共存できました。

採点ポイント((1)の論述・4点満点の場合)
  • ニッチの重なりに言及(2点)
  • 種間競争でヒメゾウリムシが優位であることに言及(2点)

C 発展レベル

11-2-3C 発展論述考察

ある海岸の岩場にフジツボ A種とフジツボ B種が生息している。A種は潮間帯の上部から下部まで広く分布し、B種は潮間帯の下部のみに分布している。B種を実験的に除去すると、A種の分布は変わらなかった。一方、A種を除去すると、B種は潮間帯の上部まで分布を広げた。

(1) B種の潮間帯上部への分布を制限している要因は何か。具体的に述べよ。

(2) A種が潮間帯下部に生息できるにもかかわらず、B種を除去しても分布が変わらなかった理由を50字以内で述べよ。

(3) この実験結果は、ニッチの概念とどのように関係するか。「基本ニッチ」「実現ニッチ」の語を用いて70字以内で述べよ。

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解答

(1) A種との種間競争により、B種は潮間帯上部から排除されている。

(2) A種はもともと潮間帯全域に生息可能であり、B種の有無にかかわらず分布域は変わらないため。(43字)

(3) B種の基本ニッチは潮間帯全域だが、A種との種間競争によって実現ニッチが潮間帯下部のみに縮小している。(49字)

解説

この実験はコネルのフジツボの実験として有名です。基本ニッチとは種間関係がない場合に利用可能な資源の範囲、実現ニッチとは種間競争などによって実際に利用している資源の範囲です。B種は潮間帯全域で生息可能(基本ニッチ)ですが、A種との競争で下部に限定されています(実現ニッチ)。

採点ポイント((3)の論述・6点満点の場合)
  • 基本ニッチ=潮間帯全域に言及(2点)
  • 実現ニッチ=潮間帯下部のみに言及(2点)
  • 種間競争が原因であることに言及(2点)