第11章 個体群と生物群集

生物群集と遷移
─ 植生はどう変わるか

火山の噴火で生まれた溶岩台地は、はじめは何も生えない裸地です。しかし数十年、数百年の時間をかけて、そこには豊かな森林が広がっていきます。
植生がどのような順序で変化していくのか、そして日本列島にはどんなバイオームが分布しているのか──生態学のスケールの大きなストーリーを見ていきましょう。

1植生と相観 ─ 「景色」から生態系を読む

ある地域に生育する植物全体を植生といいます。 植生は、見た目の外観(相観)によって、森林・草原・荒原の3つに大きく分けられます。

相観を決める最大の要因は気候(おもに気温と降水量)です。 植生を構成する植物のうち、量的に最も多い種を優占種といい、優占種の種類が植生の相観を左右します。

たとえ話:植生は「土地の衣装」

植生は、その土地が「着ている服」のようなものです。熱帯では厚くて緑鮮やかなドレス(熱帯多雨林)、寒帯ではシンプルな薄着(ツンドラ)。気候という「体型」に合った服を着ているのです。そして、服は時間とともに着替えていく──それが遷移です。

2一次遷移 ─ 裸地から森林へ

土壌がまったくない裸地(溶岩台地や新しくできた島など)から始まる植生の変化を一次遷移といいます。 一次遷移には、陸上の乾いた裸地から始まる乾性遷移と、湖沼から始まる湿性遷移があります。

乾性遷移の流れ

  1. 裸地 ── 溶岩や岩石だけで、土壌がない
  2. 地衣類・コケ植物 ── 岩の表面に張りつき、岩を風化させて薄い土壌をつくる
  3. 草原(一年生→多年生草本) ── 薄い土壌にまず一年生草本が侵入し、やがて多年生草本に置き換わる
  4. 低木林 ── 土壌が厚くなり、低木が育つようになる
  5. 陽樹林 ── 陽樹(アカマツ・シラカンバなど、強い光を好む樹木)が成長し森林を形成する
  6. 混交林 ── 陽樹林の林床は暗くなり、陽樹の芽ばえは育てなくなる。かわりに陰樹(シイ・カシ・ブナなど、弱い光でも生育できる樹木)の若木が育つ
  7. 陰樹林(極相林) ── 陰樹が優占種となり、大きな変化がなくなった安定した森林

陽樹と陰樹 ─ 光補償点の違い

陽樹は光補償点が高く、強い光のもとで成長が速い樹木です。遷移の初期に出現し、先駆樹種(パイオニア樹種)と呼ばれます。 一方、陰樹は光補償点が低く、暗い林床でも芽ばえが生育できます。このため、陽樹林の下で陰樹の若木が育ち、やがて陽樹に置き換わっていくのです。

陽樹陰樹
光補償点高い低い
光飽和点高い低い
明るい場所での成長速い遅い
暗い林床での生育不可(芽ばえが枯死)可能
遷移における出現時期初期(先駆樹種)後期(極相樹種)
代表例アカマツ、シラカンバ、ダケカンバシイ、カシ、ブナ、トウヒ
遷移が進むと陽樹林が陰樹林に置き換わるのか
陽樹が成長して森林の林冠(上部)を覆う
林床に届く光が減少する
陽樹は光補償点が高いため、暗い林床では芽ばえが光合成不足で枯死する
陰樹は光補償点が低いため、暗い林床でも芽ばえが生育できる
世代交代が進むと、陰樹が優占種となり、陰樹林(極相林)が成立する

湿性遷移

湖沼から始まる遷移が湿性遷移です。湖沼に土砂が堆積し、水生植物の遺体が積もって浅くなると、抽水植物(ヨシなど)が侵入します。さらに堆積が進んで湿原になり、やがて陸地化すると、草原→低木林→森林へと乾性遷移と同じ道筋をたどります。

3二次遷移 ─ 「やり直し」は速い

山火事や伐採などで植生が失われたあと、土壌や種子・根が残っている状態から始まる遷移を二次遷移といいます。

二次遷移は一次遷移よりもはるかに速く進みます。すでに土壌があり、土中に種子や地下茎が残っているため、地衣類やコケの段階を飛ばして草本や低木が急速に回復するからです。

ポイント:一次遷移と二次遷移の比較
  • 一次遷移:土壌がない裸地から出発。地衣類→コケ→草本→低木→森林と段階的に進む。数百年単位
  • 二次遷移:土壌や種子が残った状態から出発。草本・低木から急速に回復。数十年単位
  • どちらも最終的には同じ極相に到達しうる

4極相とギャップ更新 ─ 「安定」の中の「変化」

遷移が十分に進み、それ以上大きな植生の変化が見られなくなった状態を極相クライマックス)といいます。極相に達した森林を極相林と呼びます。

ただし、極相林は「完全に変化しない」わけではありません。台風や大木の枯死によって林冠に空き(ギャップ)ができると、そこに光が差し込み、一時的に陽樹などが育ちます。 これをギャップ更新といいます。

ギャップ更新によって、極相林でも局所的にさまざまな段階の植生が混在し、種の多様性が維持されます。極相は「まったく動かない最終状態」ではなく、「小さな変化を繰り返しながら全体として安定している状態」なのです。

ギャップ更新が生物多様性を高めるのか
極相林で大木が倒れ、林冠にギャップ(すき間)ができる
ギャップに光が差し込み、明るい環境が局所的に生まれる
ふだんは暗い林床で育てない陽樹やさまざまな草本が一時的に育つ
極相林の中にさまざまな遷移段階の小区画がモザイク状に共存する
結果として、森林全体の種の多様性が維持・向上される

5バイオームと気候 ─ 地球規模の植生分布

ある地域の相観によって特徴づけられる生物群集をバイオーム(生物群系)といいます。 バイオームは、おもにその地域の年平均気温年降水量によって決まります。

世界のおもなバイオーム

区分バイオーム気候の特徴植生の特徴
森林熱帯多雨林高温・多雨(年中)常緑広葉樹、多種多様、階層構造が発達
照葉樹林温暖・やや多雨常緑広葉樹(シイ・カシ・クスノキ)、葉に光沢
夏緑樹林温帯・冬に低温落葉広葉樹(ブナ・ミズナラ)、冬に落葉
森林針葉樹林冷帯(亜寒帯)常緑針葉樹(トウヒ・エゾマツ・シラビソ)
亜熱帯多雨林亜熱帯・多雨常緑広葉樹(ガジュマル・アコウ・ヘゴ)
草原サバンナ熱帯・乾季ありイネ科草本と疎林、乾季に草が枯れる
ステップ温帯・少雨丈の短い草本、樹木はほぼなし
荒原砂漠極端に少雨サボテンなど多肉植物、植生はまばら
ツンドラ寒帯・極低温地衣類・コケ、低木がわずか
発展:硬葉樹林と雨緑樹林 生物

地中海沿岸のように、夏に乾燥し冬に温暖湿潤な地域では硬葉樹林(オリーブ・コルクガシなど、厚いクチクラ層をもつ硬い葉の樹木)が発達します。また、熱帯・亜熱帯で明瞭な乾季がある地域では、乾季に落葉する雨緑樹林(チーク・シタンなど)が見られます。

6日本のバイオーム ─ 水平分布と垂直分布

日本は南北に長く、年平均気温の差が大きいため、緯度に応じてさまざまなバイオームが分布しています。 日本は降水量が十分に多いため、バイオームはおもに年平均気温で決まり、ほとんどの地域で森林が成立します。

水平分布

緯度に沿った(南北方向の)バイオームの分布を水平分布といいます。

地域バイオーム優占種の例暖かさの指数(目安)
沖縄・南西諸島亜熱帯多雨林ガジュマル、アコウ、ヘゴ240以上
九州〜関東南部照葉樹林シイ、カシ、クスノキ、タブノキ85〜240
東北〜北海道南部夏緑樹林ブナ、ミズナラ、カエデ45〜85
北海道針葉樹林エゾマツ、トドマツ15〜45

垂直分布

標高に沿ったバイオームの分布を垂直分布といいます。 標高が100 m上がるごとに気温は約0.6℃下がるため、高い山では山頂に向かって低緯度から高緯度と同じようにバイオームが変化します。

本州中部の山岳地帯を例にとると、下から順に次のように分布します。

  1. 丘陵帯:照葉樹林(シイ・カシ)
  2. 山地帯:夏緑樹林(ブナ・ミズナラ)
  3. 亜高山帯:針葉樹林(シラビソ・オオシラビソ・コメツガ)
  4. 高山帯:高山草原(お花畑)、ハイマツなどの低木。森林限界より上に位置する

樹木が生育できる限界の標高を森林限界といいます。森林限界より上の高山帯では、強風と低温のため高木が育たず、ハイマツなどの低木やコケモモ、高山植物がまばらに分布します。

ポイント:暖かさの指数(WI)

月平均気温が5℃以上の月について、(月平均気温 − 5)を合計した値を暖かさの指数(WI)といいます。日本のバイオームの分布をよく説明できる指標で、WI = 85 が照葉樹林と夏緑樹林のおおよその境界、WI = 45 が夏緑樹林と針葉樹林のおおよその境界です。

7この章を俯瞰する ─ 遷移は「生態系の成長物語」

遷移とは、「環境を変える生物」と「変わった環境に適応する新たな生物」が交互に登場する、壮大な成長物語です。地衣類が岩を土壌に変え、草本が土壌を豊かにし、陽樹が森をつくり、陰樹が最終的に安定した森林を完成させる。この流れは、地球上のあらゆる場所で繰り返されてきました。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 光合成と環境 → 5-7:陽樹と陰樹の違いは、光補償点・光飽和点の違いとして光合成の章で学んだ内容と直結する。
  • 生態系の物質循環 → 12-1:遷移の各段階で物質生産のバランスが異なり、極相に近づくほど呼吸量が総生産量に近づく。
  • 種間関係 → 11-2:遷移は種間競争(光や土壌をめぐる競争)が駆動する現象でもある。
  • 生態系のバランス → 12-2:ギャップ更新は撹乱と多様性の関係として、生態系のバランスの章でも重要。

8まとめ

  • 植生:ある地域に生育する植物全体。相観により森林・草原・荒原に分類
  • 一次遷移:裸地から出発。裸地→地衣類→コケ→草本→低木→陽樹林→陰樹林と進む
  • 二次遷移:土壌が残った状態から出発。一次遷移より速く進行する
  • 陽樹:光補償点が高い。先駆樹種。陰樹:光補償点が低い。極相樹種
  • 極相(クライマックス):遷移の最終的な安定状態。日本では多くの場合、陰樹林
  • ギャップ更新:林冠のすき間に光が入り、局所的に遷移の初期段階が再現される現象。多様性の維持に貢献
  • バイオーム:気温と降水量で決まる大規模な生物群集。日本では年平均気温がおもな決定要因
  • 水平分布:緯度に沿った分布。垂直分布:標高に沿った分布

9確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

一次遷移の乾性遷移の過程を、裸地から極相林まで順に述べよ。

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解答

裸地→地衣類・コケ植物→一年生草本→多年生草本→低木林→陽樹林→混交林→陰樹林(極相林)

Q2

陽樹林がやがて陰樹林に置き換わる理由を、「光補償点」「林床」の語を用いて述べよ。

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解答

陽樹林が成長すると林床が暗くなる。陽樹は光補償点が高いため暗い林床では芽ばえが育たないが、陰樹は光補償点が低いため暗い林床でも芽ばえが生育でき、世代交代により陰樹が優占種となる。

Q3

「ギャップ更新」とは何か。また、ギャップ更新が生物多様性の維持にはたす役割を述べよ。

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解答

極相林で大木の倒壊などにより林冠にすき間(ギャップ)ができ、そこに光が差し込んで遷移の初期段階の植物(陽樹など)が一時的に生育する現象。これにより、極相林内にさまざまな遷移段階の区画がモザイク状に共存し、種の多様性が維持される。

Q4

本州中部における垂直分布を、低地から高地の順にバイオーム名を答えよ。

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解答

照葉樹林(丘陵帯)→夏緑樹林(山地帯)→針葉樹林(亜高山帯)→高山草原(高山帯)

10入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

11-3-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

ある地域の植物全体を( ア )という。( ア )は時間とともに変化していき、この変化を( イ )という。土壌のない裸地から始まる( イ )を( ウ )、山火事や伐採後に土壌が残っている状態から始まる( イ )を( エ )という。( イ )の初期には光補償点が高い( オ )が出現し、やがて光補償点が低い( カ )に置き換わっていく。

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解答

ア:植生 イ:遷移 ウ:一次遷移 エ:二次遷移 オ:陽樹 カ:陰樹

解説

遷移の出発点が「土壌なし(裸地)」か「土壌あり」かで一次遷移と二次遷移を区別します。陽樹は先駆樹種として遷移の初期に出現し、陰樹は極相樹種として遷移の後期に優占します。

11-3-2A 基礎知識選択

次の A〜E を、一次遷移(乾性遷移)が進む順序に並べかえよ。

A 陰樹が中心となった極相林が形成される。
B 林床で陰樹の低木が成長する。
C 地衣類やコケ植物が岩の表面に定着する。
D 草本植物が侵入して草原になる。
E 陽樹の若木が生育し、陽樹林が形成される。

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解答

C → D → E → B → A

解説

一次遷移の順序は「裸地→地衣類・コケ(C)→草原(D)→陽樹林(E)→陰樹が林床に侵入(B)→極相林(A)」です。陽樹林が形成されると林床が暗くなり、光補償点の低い陰樹が育つようになります。

11-3-3A 基礎知識選択

日本のバイオームについて、次の(1)〜(4)に答えよ。

(1) 照葉樹林の代表的な優占種を2つ答えよ。

(2) 夏緑樹林の代表的な優占種を2つ答えよ。

(3) 本州中部の亜高山帯で見られるバイオームの名称を答えよ。

(4) 樹木が生育できる限界の標高を何というか。

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解答

(1) シイ、カシ(タブノキ、クスノキも正答)

(2) ブナ、ミズナラ(カエデも正答)

(3) 針葉樹林

(4) 森林限界

解説

照葉樹林は「常緑広葉樹」で葉に光沢があるのが特徴です。夏緑樹林は「落葉広葉樹」で冬に落葉します。亜高山帯にはシラビソ・オオシラビソ・コメツガなどの常緑針葉樹が優占します。森林限界より上は高山帯で、ハイマツなどの低木が見られます。

B 標準レベル

11-3-4B 標準論述

(1) 二次遷移が一次遷移よりも速く進行する理由を、40字以内で述べよ。

(2) 極相林におけるギャップ更新が種の多様性の維持にはたす役割を、60字以内で述べよ。

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解答

(1) 土壌や種子・地下茎がすでに残っているため、遷移の初期段階を飛ばして回復できるから。(40字)

(2) ギャップに光が差し込むことで陽樹など遷移初期の種が一時的に育ち、さまざまな遷移段階の区画が共存して多様性が維持される。(58字)

解説

(1) 一次遷移は「土壌をつくる」段階(地衣類→コケ)が必要で、これに長い時間がかかります。二次遷移ではこの段階が不要なため速く進みます。

(2) ギャップ更新は「中規模撹乱仮説」とも関連し、適度な撹乱が多様性を最も高めるという考え方を支持する現象です。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • ギャップに光が差し込むことへの言及(2点)
  • 遷移初期の種(陽樹など)が育つことへの言及(2点)
  • さまざまな段階の共存→多様性維持の論理(2点)