第12章 生態系

生態系の物質循環と
エネルギーの流れ

植物が太陽光で有機物をつくり、動物がそれを食べ、微生物が分解して無機物に戻す。この「循環」と「流れ」こそが、生態系を成り立たせるエンジンです。
物質は生態系の中を循環しますが、エネルギーは一方向に流れて最終的に熱として散逸します。この違いを理解することが、生態系の本質をつかむカギです。

1食物連鎖と食物網 ─ 「食べる─食べられる」の鎖

生態系における「食べる─食べられる」の関係のつながりを食物連鎖といいます。

食物連鎖には2つのタイプがあります。

  • 生食連鎖:生きている植物を動物が食べることから始まる連鎖(草→バッタ→カエル→ヘビ→ワシ)
  • 腐食連鎖:生物の遺体や排出物を分解者が食べることから始まる連鎖(落ち葉→ミミズ→モグラ→タカ)

実際の生態系では、1つの生物が複数の種を食べ、複数の種に食べられるため、食物連鎖は直線的ではなく、複雑な網目状の構造をとります。これを食物網といいます。

たとえ話:食物網は「交通網」

食物連鎖が「一本の道路」なら、食物網は「都市の交通網」です。東京から大阪へ行くのに1本の高速道路だけでなく、新幹線も飛行機もある。同様に、ある生物のエネルギーは複数のルートを通って生態系の中を流れます。一本の道が途切れても(ある種が絶滅しても)、別ルートが残るため、食物網が複雑なほど生態系は安定します。

2栄養段階と生態ピラミッド ─ 上に行くほど少なくなる

食物連鎖における生物の位置づけを栄養段階といいます。

栄養段階名称
第1栄養段階生産者植物、植物プランクトン、藻類
第2栄養段階一次消費者(草食動物)バッタ、ウサギ、動物プランクトン
第3栄養段階二次消費者(小型肉食動物)カエル、小型魚類
第4栄養段階三次消費者(大型肉食動物)ヘビ、大型魚類、ワシ
すべての段階分解者細菌、菌類(カビ・キノコ)

栄養段階が高くなるほど、個体数・生物量(バイオマス)・エネルギー量(生産量)は一般に減少します。 これを段階ごとに積み上げた図を生態ピラミッドといいます。

生態ピラミッドの3種類

  • 個体数ピラミッド:各栄養段階の個体数を示す。大きな樹木に多数の虫がつく場合など、逆転することもある
  • 生物量(バイオマス)ピラミッド:各栄養段階の生物体量(乾燥重量)を示す。海洋では植物プランクトンの増殖速度が速く消費も速いため、一時的に逆転することがある
  • 生産量(エネルギー)ピラミッド:各栄養段階が一定期間に獲得するエネルギー量を示す。逆転しない(エネルギーは各段階で呼吸により熱として失われるため)
栄養段階が上がるとエネルギー量が減るのか
各栄養段階の生物は、摂取した有機物の大部分を自身の呼吸(代謝)に使う
呼吸で使われたエネルギーは熱として散逸し、次の栄養段階に渡らない
さらに、不消化排出物や枯死体としてもエネルギーが失われる
結果として、次の栄養段階に移行するエネルギーは前段階の5〜20%程度にすぎない
このため、栄養段階が高い生物ほど利用できるエネルギーが少なく、栄養段階は通常4〜5段階が上限

3物質生産 ─ 「つくる」「使う」「残す」の収支

生態系における有機物の生産と消費の収支を物質生産といいます。生産者と消費者では用語が異なりますので、整理して覚えましょう。

生産者の物質生産

用語意味計算式
総生産量光合成で固定した有機物の総量
呼吸量呼吸で消費した有機物の量
純生産量実際に植物体として蓄積された量総生産量 − 呼吸量
被食量消費者に食べられた量
枯死量枯れ落ちた葉や枝の量
成長量植物体の増加分(現存量の増加)純生産量 − 被食量 − 枯死量

消費者の物質生産

用語意味計算式
摂食量食べた有機物の総量
不消化排出量消化されずに排出された量(糞)
同化量消化吸収された量(=消費者の「総生産量」に相当)摂食量 − 不消化排出量
呼吸量呼吸で消費した量
成長量体の増加分同化量 − 呼吸量
ポイント:物質生産の計算式の整理
  • 生産者:純生産量 = 総生産量 − 呼吸量
  • 生産者:成長量 = 純生産量 − 被食量 − 枯死量
  • 消費者:同化量 = 摂食量 − 不消化排出量
  • 消費者:成長量 = 同化量 − 呼吸量
  • エネルギー効率 = ある栄養段階のエネルギー量 ÷ 1つ前の栄養段階のエネルギー量 × 100(%)
発展:生産構造図 生物

植物群落の葉の量(葉面積)を、高さごとに示した図を生産構造図といいます。森林(木本植物群集)では上層に葉が集中し、草原(草本植物群集)では下層まで葉が分布します。森林は上層の葉が効率よく光を受けますが、下層は暗くなります。草原は各層にまんべんなく葉があるため、光の利用効率が高い場合があります。

4炭素循環 ─ CO2をめぐる地球規模の循環

炭素(C)は生態系の中を循環します。大気中のCO2が生産者の光合成で有機物に固定され、食物連鎖を通じて消費者に渡り、各栄養段階の呼吸や分解者のはたらきによって再びCO2として大気中に放出されます。

炭素循環のおもな経路

  1. 光合成:大気中のCO2 → 有機物(生産者の体)
  2. 食物連鎖:生産者の有機物 → 一次消費者 → 二次消費者 → ...
  3. 呼吸:各栄養段階の生物が有機物を分解 → CO2を大気中に放出
  4. 分解:分解者が遺体・排出物の有機物を分解 → CO2を大気中に放出
  5. 化石燃料の燃焼:過去に固定された有機物(石油・石炭)の燃焼 → CO2を大気中に放出

自然の状態では、光合成によるCO2の吸収と呼吸・分解によるCO2の放出がおおむね釣り合っています。しかし、化石燃料の大量消費によってこのバランスが崩れ、大気中CO2濃度が上昇しているのが現在の地球温暖化の問題です。

5窒素循環 ─ 微生物が回すサイクル

窒素(N)はタンパク質や核酸の構成元素であり、生物にとって不可欠です。大気の約78%は窒素ガス(N2)ですが、ほとんどの生物はN2をそのまま利用できません。窒素の循環には微生物のはたらきが重要な役割を果たします。

窒素循環のおもなステップ

過程内容関与する生物
窒素固定大気中のN2をNH4+(アンモニウムイオン)に変換根粒菌、アゾトバクター、ネンジュモ(シアノバクテリア)
有機窒素化合物の分解遺体・排出物中のタンパク質をNH4+に分解分解者(細菌・菌類)
硝化NH4+ → NO2(亜硝酸イオン) → NO3(硝酸イオン)硝化菌(亜硝酸菌+硝酸菌)
植物による吸収NH4+やNO3を根から吸収し、アミノ酸・タンパク質を合成植物
脱窒NO3をN2に還元して大気中に放出脱窒素細菌
窒素は大気中に大量にあるのに、植物の成長を制限するのか
大気の78%はN2だが、N2三重結合で極めて安定している
ほとんどの生物はN2の三重結合を切る酵素(ニトロゲナーゼ)を持たない
窒素固定細菌だけがN2をNH4+に変換でき、この速度は限られている
植物が利用できるNH4+やNO3の量は窒素固定の速度がボトルネック
そのため、窒素はしばしば植物の成長を制限する「制限要因」となる
ポイント:窒素固定細菌の例
  • 根粒菌:マメ科植物の根に共生。植物から有機物をもらい、かわりに窒素化合物を供給する(相利共生)
  • アゾトバクター:土壌中に生息する好気性細菌。単独で窒素固定を行う
  • ネンジュモ(アナベナなど):シアノバクテリアの一種。異質細胞で窒素固定を行う
  • クロストリジウム:土壌中に生息する嫌気性細菌

6エネルギーの流れ ─ 「循環しない」一方通行

物質は生態系の中を循環しますが、エネルギーは循環せず、一方向に流れます

太陽の光エネルギーが生産者の光合成によって有機物の化学エネルギーに変換され、食物連鎖を通じて各栄養段階に渡ります。しかし、各段階で呼吸によりエネルギーの大部分が熱として散逸するため、高次の栄養段階に移行するエネルギーは減少し続けます。

散逸した熱は再び有機物の合成に使うことはできません。 したがって、生態系が維持されるためには、太陽からの絶えまないエネルギーの供給が必要です。

ポイント:物質循環とエネルギーの流れの対比
  • 物質(炭素・窒素など):生態系の中を循環する(繰り返し利用される)
  • エネルギー一方通行で流れる(太陽光→有機物→熱として散逸)
  • 物質は「リサイクル」、エネルギーは「使い捨て」と考えるとわかりやすい

7この章を俯瞰する ─ 生態系は「循環」と「流れ」で動く

生態系を理解する2つの柱は、「物質は循環する」「エネルギーは流れる」です。炭素や窒素は光合成→食物連鎖→分解→再吸収という経路で何度も使い回されますが、エネルギーは太陽から入り、各栄養段階で熱として失われ、二度と戻りません。この2つの原理が、地球上の生命を支えているのです。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 光合成 → 5-5, 5-6:生産者の総生産量は光合成による有機物の固定量そのもの。
  • 呼吸 → 5-2, 5-3:各栄養段階の呼吸量は、呼吸の章で学んだATP産生と熱散逸の過程。
  • 窒素同化と化学合成 → 5-8:硝化菌の化学合成は窒素循環の重要なステップ。
  • 遷移と植生 → 11-3:遷移の各段階で物質生産の収支が変化し、極相では総生産量と呼吸量がほぼ等しくなる。
  • 生態系のバランス → 12-2:物質循環のバランスが崩れると、生態系の撹乱(温暖化・富栄養化など)が起きる。

8まとめ

  • 食物連鎖:「食べる─食べられる」の一連のつながり。食物網:食物連鎖が複雑に絡み合ったもの
  • 栄養段階:生産者→一次消費者→二次消費者→三次消費者。分解者はすべての段階に関与
  • 生態ピラミッド:個体数・生物量・生産量の3種類。生産量ピラミッドは逆転しない
  • 総生産量 − 呼吸量 = 純生産量。純生産量 − 被食量 − 枯死量 = 成長量
  • 消費者:摂食量 − 不消化排出量 = 同化量。同化量 − 呼吸量 = 成長量
  • 炭素循環:CO2 →(光合成)→ 有機物 →(食物連鎖)→(呼吸・分解)→ CO2
  • 窒素循環:窒素固定→硝化→植物の吸収→食物連鎖→分解→脱窒
  • 物質は循環、エネルギーは一方通行(太陽光→有機物→熱として散逸)

9確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

生産者の「総生産量」「純生産量」「成長量」の関係を式で示せ。

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解答

純生産量 = 総生産量 − 呼吸量。成長量 = 純生産量 − 被食量 − 枯死量。

Q2

生態ピラミッドの3種類を挙げ、そのうち逆転しないものを答えよ。

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解答

個体数ピラミッド、生物量(バイオマス)ピラミッド、生産量(エネルギー)ピラミッドの3種類。逆転しないのは生産量(エネルギー)ピラミッドである。

Q3

窒素循環において、窒素固定・硝化・脱窒のそれぞれの過程を簡潔に述べよ。

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解答

窒素固定:大気中のN2をNH4+に変換する過程(根粒菌など)。硝化:NH4+をNO2を経てNO3に酸化する過程(硝化菌)。脱窒:NO3をN2に還元して大気中に戻す過程(脱窒素細菌)。

Q4

生態系における物質の動きとエネルギーの動きの違いを述べよ。

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解答

物質(炭素・窒素など)は生態系の中を循環して繰り返し利用されるが、エネルギーは一方向に流れ、各栄養段階で呼吸により熱として散逸し、循環しない。

10入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

12-1-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。

生態系における食べる─食べられるの関係を( ア )といい、これが複雑に絡み合ったものを( イ )という。( ア )における生物の位置づけを( ウ )といい、光合成を行う植物などは( エ )と呼ばれる。( エ )の光合成による有機物の固定量の総量を( オ )といい、そこから呼吸量を引いたものを( カ )という。

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解答

ア:食物連鎖 イ:食物網 ウ:栄養段階 エ:生産者 オ:総生産量 カ:純生産量

解説

食物連鎖が網目状に絡み合ったものが食物網です。栄養段階の基盤は生産者であり、総生産量から自身の呼吸量を引いたものが純生産量(実際に植物体として蓄積・利用可能な量)です。

12-1-2A 基礎知識計算

ある生態系で、生産者の総生産量が 1000(単位:103 kJ/m2/年)、呼吸量が 500、被食量が 200、枯死量が 150 であった。次の値を求めよ。

(1) 純生産量

(2) 成長量

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解答

(1) 純生産量 = 総生産量 − 呼吸量 = 1000 − 500 = 500(103 kJ/m2/年)

(2) 成長量 = 純生産量 − 被食量 − 枯死量 = 500 − 200 − 150 = 150(103 kJ/m2/年)

解説

生産者の物質収支の基本公式です。純生産量は「光合成で作った有機物から自分の呼吸で使った分を引いた残り」、成長量は「純生産量から食べられた分と枯れ落ちた分を引いた残り」です。計算問題では、何を求められているかに応じて公式を正しく適用しましょう。

B 標準レベル

12-1-3B 標準論述

(1) 生態ピラミッドのうち、個体数ピラミッドや生物量ピラミッドが逆転する場合があるのに対し、生産量(エネルギー)ピラミッドが逆転しない理由を50字以内で述べよ。

(2) 窒素循環において根粒菌が果たす役割を「共生」「窒素固定」の語を用いて40字以内で述べよ。

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解答

(1) 各栄養段階で呼吸により必ずエネルギーが熱として失われるため、高次の段階のエネルギー量が前段階を上回ることはない。(50字)

(2) 根粒菌はマメ科植物の根に共生し、窒素固定により大気中のN2をNH4+に変えて植物に供給する。(40字)

解説

(1) エネルギーは各栄養段階で必ず呼吸により減少します。この「必ず減る」性質があるからこそ、生産量ピラミッドは常にピラミッド型を維持します。個体数や生物量は、個体のサイズや回転速度の違いにより逆転しうる点がポイントです。

(2) 根粒菌とマメ科植物は相利共生の関係にあり、植物は有機物(光合成産物)を、根粒菌は窒素化合物をそれぞれ供給し合います。

採点ポイント((1)の論述・6点満点の場合)
  • 各栄養段階で呼吸によりエネルギーが失われることへの言及(3点)
  • 高次の段階が前段階を上回れないという論理的帰結(3点)