あなたと兄弟姉妹の顔が違うのは、突然変異のせいではありません。
同じ両親から生まれても一人ひとり違う──その秘密は、有性生殖がもたらす「遺伝子の組み合わせの爆発的多様性」にあります。
生殖には大きく分けて2つの方法があります。 無性生殖は、親の体が分裂したり一部が分かれたりして子をつくる方法で、子は親とまったく同じ遺伝情報をもちます。 コピー機でコピーをとるようなもので、速く増えられる反面、みんな同じ「クローン」です。
一方、有性生殖は、2つの個体から配偶子(精子と卵)をつくり、受精によって新しい個体をつくる方法です。 配偶子の形成過程で遺伝子の組み合わせが「シャッフル」されるため、子は親とも兄弟とも異なる遺伝的構成をもちます。
| 無性生殖 | 有性生殖 | |
|---|---|---|
| 子の遺伝情報 | 親と同一(クローン) | 親と異なる(多様) |
| 増殖速度 | 速い | 遅い |
| 遺伝的多様性 | 低い | 高い |
| 例 | 分裂(細菌)、出芽(酵母) | 受精(動物、植物) |
有性生殖が遺伝的多様性を生む鍵は、減数分裂と受精にあります。 この2つの過程で、遺伝子の組み合わせが爆発的に多様化します。
減数分裂の第一分裂では、相同染色体が両極に分かれます。 このとき、父方由来の染色体と母方由来の染色体がどちらの極に行くかはランダムです。 しかも、各対の相同染色体は他の対とは独立に分配されます。
ヒトの場合、染色体は23対(n = 23)なので、配偶子の染色体の組み合わせは223 = 約840万通りです。 つまり、1人の人間がつくりうる配偶子の種類は840万通り以上あり、そのどれもが遺伝的に異なるのです。
減数分裂の第一分裂前期に、相同染色体どうしが接着する対合が起きます。 このとき、相同染色体の間で一部が入れ替わることがあります。 これを乗換え(組換え)といいます。
乗換えが起きると、父方と母方の遺伝子が1本の染色体上で混ざり合い、親にはなかった新しい遺伝子の組み合わせが生まれます。 これにより、配偶子の多様性はさらに増大します。
精子と卵がどの組み合わせで受精するかもランダムです。 ヒトでは、精子の種類が約840万通り、卵の種類も約840万通りなので、受精卵の遺伝的組み合わせは840万 × 840万 = 約70兆通りにもなります。 乗換えの効果を加えれば、事実上無限の多様性が生まれます。
有性生殖を行う生物は、各遺伝子座について2つの対立遺伝子をもっています。 1つは父親由来、もう1つは母親由来です。 トランプにたとえるなら、同じ位置(遺伝子座)のカードを2枚ずつ持っているようなものです。
2つの対立遺伝子が同じ場合をホモ接合、異なる場合をヘテロ接合といいます。 ヘテロ接合の個体が多いほど、その集団の遺伝的多様性は高いことになります。
同じ染色体上にある遺伝子は一緒に遺伝しやすく、これを連鎖といいます。しかし乗換えが起こると連鎖が切れます。2つの遺伝子間で乗換えが起きる確率を組換え価といい、2つの遺伝子座が染色体上で離れているほど組換え価は大きくなります。組換え価を利用して遺伝子の染色体上の位置関係を示したものが染色体地図(遺伝子地図)です。これは入試頻出のテーマです(7-1参照)。
前の記事(2-1)で学んだ突然変異は、遺伝的多様性の「材料」を新しくつくるしくみでした。 この記事で学んだ有性生殖は、その材料を「シャッフル」して組み合わせを爆発的に増やすしくみです。 突然変異と有性生殖──この2つが協力して、進化の原材料である遺伝的多様性を生み出しています。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
有性生殖が遺伝的多様性を生む3つのしくみを挙げよ。
①減数分裂における染色体の独立した組み合わせ(2n通り)、②乗換え(組換え)による遺伝子の入れ替え、③受精時の精子と卵のランダムな組み合わせ。
ヒト(n = 23)の場合、染色体の独立した組み合わせだけで何通りの配偶子ができるか。
223 = 8,388,608(約840万)通りです。23対の相同染色体それぞれについて、父方・母方のどちらが配偶子に入るかは独立に決まるため、2の23乗通りになります。
「乗換え」が起きると、なぜ遺伝的多様性がさらに増大するのか。
乗換えにより、相同染色体間で遺伝子の一部が入れ替わるため、父方と母方の遺伝子が1本の染色体上で混ざり合い、親にはなかった新しい遺伝子の組み合わせが生じるからです。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。
有性生殖を行う生物は、各遺伝子座について2つの( ア )をもつ。減数分裂の第一分裂前期に、相同染色体どうしが接着する( イ )が起こる。このとき、相同染色体間で遺伝子の一部が入れ替わることを( ウ )という。2つの( ア )が同じ個体を( エ )、異なる個体を( オ )という。
ア:対立遺伝子 イ:対合 ウ:乗換え(組換え) エ:ホモ接合(体) オ:ヘテロ接合(体)
対合は減数分裂の第一分裂前期に相同染色体どうしが並んで接着する現象です。このとき二価染色体が形成されます。乗換えは対合中に起こり、遺伝子の新しい組み合わせを生み出します。
ある生物の染色体数が2n = 8である。次の問いに答えよ。
(1) この生物が減数分裂でつくる配偶子の、染色体の組み合わせは何通りか。乗換えは考えないものとする。
(2) この生物の2個体が交配した場合、受精卵の染色体の組み合わせは何通りか。
(3) 無性生殖と比較して、有性生殖が遺伝的多様性の観点から有利である理由を50字以内で述べよ。
(1) 24 = 16通り
(2) 16 × 16 = 256通り
(3) 染色体の独立した組み合わせと乗換え、受精の組み合わせにより、遺伝的に多様な子が生まれるため。(45字)
(1) 2n = 8なので n = 4。4対の相同染色体それぞれについて、どちらが配偶子に入るかは独立に決まるので、24 = 16通りです。
(2) 精子の種類が16通り、卵の種類も16通りなので、受精卵の組み合わせは16 × 16 = 256通りです。これに乗換えの効果を加えれば、さらに多くの組み合わせが生まれます。
(3) 無性生殖ではすべての子がクローン(遺伝的に同一)です。環境が変化したとき、全個体が同じ弱点をもつため絶滅リスクが高くなります。有性生殖は遺伝的に多様な子を生み出すため、環境変化に対する集団の適応力が高くなります。
次の文を読み、あとの問いに答えよ。
ある植物は有性生殖と無性生殖の両方が可能である。研究者がこの植物を2つのグループに分け、グループAには有性生殖のみを、グループBには無性生殖のみを5世代にわたって行わせた。その後、新たな病原菌に両グループを感染させたところ、グループAでは約40%の個体が生存したが、グループBではわずか5%しか生存しなかった。
(1) グループAの方がグループBより生存率が高かった理由を、「遺伝的多様性」の語を用いて60字以内で述べよ。
(2) グループBの生存率が低かった理由を、無性生殖の特徴に着目して40字以内で述べよ。
(3) この実験結果は、真核生物の多くが有性生殖を採用していることの説明になりうる。その理由を50字以内で述べよ。
(1) グループAは有性生殖により遺伝的多様性が高く、新たな病原菌に対する抵抗性をもつ個体が含まれていたため。(50字)
(2) 無性生殖ではすべての個体が遺伝的に同一で、同じ弱点をもつため。(31字)
(3) 有性生殖は遺伝的多様性を生み出し、環境変化に対する集団の絶滅リスクを低下させるから。(42字)
(1) 有性生殖により5世代の間に遺伝子の組み合わせが多様化したため、新たな病原菌に対する抵抗性遺伝子をもつ個体が集団中に一定割合含まれていたと考えられます。
(2) 無性生殖ではすべての個体がクローンです。親が病原菌に弱ければ、子もすべて同じ弱さをもちます。そのため、新たな病原菌の前では全滅に近い被害を受けます。
(3) これは「有性生殖のコスト問題」に対する1つの回答です。有性生殖は無性生殖の2倍のコストがかかりますが、遺伝的多様性による長期的な生存優位がそのコストを上回ると考えられています。