ガラパゴス諸島には14種ものフィンチがいますが、もとは1種の祖先から分かれました。
1つの種が2つに分かれる──この「種分化」は、どのようなしくみで起きるのでしょうか。
そのカギは、集団の「隔離」にあります。
種分化を理解するには、まず「種」の定義を明確にする必要があります。 生物学で最もよく使われるのが、マイア(マイヤー)が提唱した生物学的種概念です。
この概念では、自然条件下で交配して繁殖力のある子をつくることができる個体の集まりを1つの「種」と定義します。 逆にいえば、交配できない(または交配しても繁殖力のある子が生まれない)集団は、別の種です。
たとえば、ウマとロバは交配してラバを産みますが、ラバには繁殖力がありません。 したがって、ウマとロバは別の種です。
種分化の最も一般的なパターンが異所的種分化です。 これは、1つの集団が地理的隔離によって2つ以上に分断され、それぞれが独自に進化した結果、最終的に別の種になるしくみです。
ガラパゴスフィンチの多様化はこの典型例です。 南米大陸から飛来した祖先集団が島々に分散し、それぞれの島の環境(食物の種類)に適応して異なるくちばしの形をもつ14種に分かれました。
地理的障壁がなくても種分化が起きることがあります。 これを同所的種分化といいます。
同じ場所に住んでいても、繁殖の時期がずれれば交配できません。 たとえば北アメリカのリンゴミバエでは、もともとサンザシの果実に産卵していた集団の一部が、リンゴに産卵するようになりました。 リンゴはサンザシより早く熟すため、リンゴ集団はサンザシ集団より早い時期に繁殖するようになり、2つの集団間で交配が起きにくくなっています。
植物では、倍数化(染色体セットが倍増すること)によって一世代で新しい種が誕生することがあります。 倍数体と元の二倍体は染色体数が異なるため交配しても正常な子をつくれず、即座に生殖的隔離が成立します。 小麦(6倍体)やバナナ(3倍体)など、栽培植物には倍数体が多く見られます。
私たちが食べるパンコムギ(Triticum aestivum)は、異なる種の交雑と染色体の倍加を繰り返して生じた異質六倍体(6n=42)です。まず二倍体のコムギ(AA, 2n=14)とタルホコムギ(BB, 2n=14)が交雑・倍加して四倍体のエンマーコムギ(AABB, 4n=28)が生じ、さらにこれがタルホコムギの別種(DD, 2n=14)と交雑・倍加して六倍体のパンコムギ(AABBDD, 6n=42)が誕生しました。これは異質倍数体(異なるゲノムを組み合わせた倍数体)による種分化の代表例です。
| 異所的種分化 | 同所的種分化 | |
|---|---|---|
| 隔離の種類 | 地理的隔離 | 時間的隔離・生態的隔離・倍数化 |
| 所要時間 | 通常は長い(数万〜数百万年) | 倍数化なら一世代で成立 |
| 典型例 | ガラパゴスフィンチ | リンゴミバエ、倍数体の植物 |
生殖的隔離には、交配前に働くもの(交配前隔離)と交配後に働くもの(交配後隔離)があります。交配前隔離の例:生息場所の違い(生態的隔離)、繁殖時期の違い(時間的隔離)、求愛行動の違い(行動的隔離)。交配後隔離の例:受精しても胚が発生しない(配偶子隔離)、子が生存不能または不妊(雑種不妊)。ウマとロバのラバが不妊なのは交配後隔離の例です。この分類は入試で問われることがあります。
1つの祖先種から、さまざまな環境に適応した多くの種が短期間に分かれていくことを適応放散といいます。 ガラパゴスフィンチの14種への分化はこの典型例です。
適応放散が起きやすい条件は、新しい環境(競争相手の少ない場所)に進出したときです。 島への移住、大量絶滅後の空いた生態的ニッチへの進出などがきっかけになります。 哺乳類が恐竜の絶滅後に急速に多様化したのも適応放散の例です。
第2章の5つの記事で、進化のしくみの全体像が完成しました。 突然変異が変異を生み(2-1)、有性生殖が多様性を増やし(2-2)、自然選択が適応を進め(2-3)、遺伝的浮動が中立な変異を固定し(2-4)、そして隔離が種分化を引き起こす(2-5)。 この5つのピースが、地球上の生物の多様性を生み出してきたのです。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
生物学的種の概念における「種」の定義を述べよ。
自然条件下で交配して繁殖力のある子をつくることができる個体の集まりです。交配できない、または子に繁殖力がない集団は別の種とされます。
異所的種分化と同所的種分化の違いを、隔離の種類に着目して説明せよ。
異所的種分化は地理的隔離(山脈・海など)によって集団が分断されて起きます。同所的種分化は地理的隔離なしで、繁殖時期の違い(時間的隔離)や倍数化などによって起きます。
「適応放散」とは何か。具体例を1つ挙げて説明せよ。
1つの祖先種からさまざまな環境に適応した多くの種が短期間に分かれていくこと。例:ガラパゴスフィンチが1種の祖先から14種に分かれ、それぞれ異なるくちばしの形をもつ。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。
自然条件下で交配して繁殖力のある子をつくれる個体の集まりを( ア )という概念で「種」と定義する。1つの種が2つ以上の種に分かれることを( イ )という。集団が地理的障壁で分断されて起きる( イ )を( ウ )種分化、地理的障壁なしに起きるものを( エ )種分化という。1つの祖先から多くの種が多様な環境に適応して分かれることを( オ )という。
ア:生物学的種 イ:種分化 ウ:異所的 エ:同所的 オ:適応放散
種分化の基本用語を問う問題です。異所的種分化が最も一般的で、地理的隔離→独立した進化→生殖的隔離の成立という流れで進みます。ガラパゴスフィンチの多様化は異所的種分化と適応放散の両方の典型例です。
(1) 異所的種分化において、地理的隔離だけでは種分化は完了しない。種分化が完了するためにさらに何が必要か。「生殖的隔離」の語を用いて40字以内で述べよ。
(2) 植物において倍数化が一世代で種分化を引き起こしうる理由を、「染色体数」の語を用いて50字以内で述べよ。
(1) 隔離された集団間で遺伝的な違いが蓄積し、生殖的隔離が成立すること。(34字)
(2) 倍数体と元の二倍体は染色体数が異なるため、交配しても正常な減数分裂ができず、即座に生殖的隔離が成立するから。(48字)
(1) 地理的隔離はあくまで遺伝子の交流を断つだけです。その後、自然選択と遺伝的浮動がそれぞれの集団で独立に働くことで遺伝的な違いが蓄積し、最終的に生殖的隔離が成立して初めて種分化が完了します。
(2) たとえば二倍体(2n)の植物から四倍体(4n)が生じた場合、四倍体と二倍体を交配すると三倍体(3n)となり、減数分裂で染色体を均等に分配できないため、不稔になります。
次の文を読み、あとの問いに答えよ。
ある大陸のA地点に生息していたトカゲの集団が、約100万年前に川の流路変更によってA地点側とB地点側に分断された。現在、A地点のトカゲは茶色い体色で岩場に生息し、B地点のトカゲは緑色の体色で草地に生息している。研究者がA地点とB地点のトカゲを人工的に交配させたところ、子は生まれたが、その子(F1)は繁殖力が著しく低下していた。
(1) この種分化は異所的種分化と同所的種分化のどちらに該当するか。理由とともに答えよ。
(2) A地点とB地点のトカゲの体色が異なる理由を、「自然選択」の語を用いて50字以内で述べよ。
(3) F1の繁殖力が低下していたことは、種分化の進行状況について何を示しているか。「生殖的隔離」の語を用いて40字以内で述べよ。
(1) 異所的種分化。川の流路変更という地理的障壁によって集団が分断されたため。
(2) 岩場では茶色い体色が、草地では緑色の体色がそれぞれ捕食者から目立たず有利であり、異なる自然選択が働いたため。(49字)
(3) 交配後隔離(雑種不妊)が部分的に成立しており、種分化が進行中であることを示す。(39字)
(1) 川という地理的障壁で集団が分断されているので異所的種分化です。
(2) 背景の色に合った体色の個体が捕食されにくいという自然選択(2-3参照)が、異なる環境で異なる方向に働きました。
(3) 完全な生殖的隔離が成立していれば子が生まれないか、F1が完全に不妊になります。F1の繁殖力が「低下」はしたが「ゼロ」ではないことから、生殖的隔離は「完成途中」であり、種分化が進行中であることがわかります。