第3章 生物の系統と進化

生物の分類と系統樹
─ 進化の「家系図」を描く

地球上には1000万種を超える生物がいるとされています。
この膨大な多様性を整理するには「分類」が、進化の道筋を理解するには「系統樹」が必要です。
生物の「家系図」はどのようにして描かれるのでしょうか。

1分類の基本 ─ 生物を「整理棚」に並べる

生物の分類とは、生物を共通する特徴に基づいてグループ分けすることです。 図書館の本を「文学」「科学」「歴史」と棚に分けるように、生物も特徴に基づいて階層的に整理されています。

分類の階層

現在の分類体系では、最も大きな分類単位から小さな単位へと、以下の階層が使われています。

ドメイン → 界 → 門 → 綱 → 目 → 科 → 属 → 種

たとえば、ヒトは「真核生物ドメイン → 動物界 → 脊索動物門 → 哺乳綱 → 霊長目 → ヒト科 → ヒト属 → ヒト」と分類されます。

分類の考え方 ─ 人為分類から系統分類へ

分類にはいくつかの考え方があります。 人間にとって便利な基準(食用か否か、薬用か否かなど)で分ける分類を人為分類といいます。 これに対し、生物の形態的な類似性に基づいて共通する特徴をもつグループにまとめる分類を自然分類といいます。

現在の分類学では、進化の道筋(系統)を反映した分類が最も重視されています。 共通祖先からの分岐の歴史に基づいて分類する方法を系統分類といいます。

学名と二名法

各種には世界共通の名前(学名)がつけられています。 学名はスウェーデンの博物学者リンネが確立した二名法で表記されます。 これは属名+種小名をラテン語・イタリック体で書く方法です。

たとえば、ヒトの学名は Homo sapiens(ホモ・サピエンス)です。 Homo が属名、sapiens が種小名です。

2系統と系統樹 ─ 進化の道筋を可視化する

分類が「整理棚」だとすれば、系統は「家系図」です。 系統とは、生物がたどってきた進化の道筋のことです。 系統を枝分かれの図で表したものを系統樹といいます。

系統樹を読むときのポイントは、枝分かれの点が「共通祖先」を表すということです。 枝分かれが根元に近いほど、古い時代に分かれたことを意味します。

系統樹の作り方 ─ 形態 vs 分子

形態に基づく系統樹分子に基づく系統樹
使うデータ骨格、器官、発生過程DNA配列、アミノ酸配列
利点化石にも適用できる客観的・定量的
弱点収斂進化で誤る可能性化石には適用困難
現在の主流分子系統解析

相同と収斂 ─ 似ているのに由来が違う?

共通祖先から受け継いだ同じ起源の構造を相同といいます。 コウモリの翼、クジラの胸びれ、ヒトの腕は、見かけと機能は違いますが、骨格の基本パターンは同じ──これが相同です。

一方、異なる起源の構造が似た環境への適応で似た形になることを収斂(しゅうれん)といいます。 鳥の翼と昆虫の翅は、どちらも飛ぶための構造ですが、起源がまったく異なります。

分子データのほうが形態データより系統推定に適しているのか
形態の類似は収斂進化によって生じることがある(見た目が似ていても別系統)
DNAの塩基配列は収斂が起きにくく、類似度が系統関係を正確に反映する
さらに、塩基配列の違いの数を定量的に数えられるため、客観性が高い
現在の系統学では分子系統解析が主流となっている
ポイント:相同と収斂の見分け方
  • 相同=共通祖先に由来する構造(例:哺乳類の前肢)→ 系統関係を反映する
  • 収斂=異なる起源の構造が似た形になったもの(例:鳥の翼と昆虫の翅)→ 系統関係を反映しない
  • 分類は相同に基づいて行い、収斂に惑わされないことが重要

祖先形質と子孫形質 ─ 分岐分類の基本

系統樹を構築する際には、形質を2つに分けて考えます。 共通祖先がもともともっていた形質を祖先形質原始形質)、進化の過程で新たに獲得された形質を子孫形質派生形質)といいます。

分岐分類(分岐学)では、共有する子孫形質(共有派生形質)に基づいてグループ分けを行います。 たとえば、四肢をもつことは脊椎動物の共有派生形質であり、四肢動物をひとまとめにする根拠になります。 一方、「背骨をもつ」という祖先形質だけではグループの中の系統関係を区別できません。

発展:分子系統樹が従来の分類を覆した例 生物

形態に基づく分類では、クジラは「海に住む大型動物」として魚類に近いと考えられた時代もありました。しかし分子系統解析により、クジラはウシやカバに近い偶蹄類の仲間であることが判明しました。DNAの証拠に基づいて「鯨偶蹄目」という新しい分類群がつくられています。このように、分子データが従来の形態分類を修正する例は少なくありません。

3この章を俯瞰する ─ 分類と進化の接点

分類は単なる「名前つけ」ではなく、進化の歴史を反映したものです。 「なぜこの生物はこのグループに分類されるのか」──その答えは常に「共通祖先から受け継いだ特徴があるから」です。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 3ドメイン → 3-2「3ドメインと生物の多様性」:rRNA配列に基づいて、すべての生物を細菌・古細菌・真核生物の3ドメインに分ける。
  • 分子時計 → 2-6「分子進化と分子時計」:分子系統樹の枝の長さは分子時計で推定した分岐年代に対応する。
  • 種分化 → 2-5「種分化」:系統樹の枝分かれの1つ1つが種分化のイベントに対応する。
  • 細胞内共生 → 1-2「細胞の進化」:分子系統解析がミトコンドリアと葉緑体の共生起源を実証した。

4まとめ

  • 分類=共通する特徴に基づいて生物をグループ分けすること
  • 分類の考え方:人為分類(便宜的基準)→自然分類(形態的類似性)→系統分類(進化の道筋)
  • 分類の階層:ドメイン → 界 → 門 → 綱 → 目 → 科 → 属 → 種
  • 学名はリンネの二名法(属名+種小名)で表記する
  • 系統=進化の道筋。系統樹=系統を枝分かれの図で表したもの
  • 相同=共通祖先に由来する構造。分類の根拠になる
  • 収斂=異なる起源の構造が似た形になること。分類の根拠にはならない
  • 祖先形質(原始形質)=祖先がもともともっていた形質。子孫形質(派生形質)=新たに獲得された形質
  • 分岐分類では、共有する子孫形質に基づいてグループ分けする
  • 現在は分子系統解析(DNA・アミノ酸配列の比較)が系統推定の主流

5確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

分類の階層を、大きい単位から順に8つ答えよ。

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解答

ドメイン → 界 → 門 → 綱 → 目 → 科 → 属 → 種。覚え方:「ド・カイ・モン・コウ・モク・カ・ゾク・シュ」

Q2

「相同」と「収斂」の違いを説明し、分類の根拠になるのはどちらか答えよ。

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解答

相同は共通祖先に由来する同じ起源の構造(例:哺乳類の前肢)。収斂は異なる起源の構造が似た環境への適応で似た形になること(例:鳥の翼と昆虫の翅)。分類の根拠になるのは相同です。

Q3

現在の系統学で分子データが形態データより重視される理由を簡潔に述べよ。

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解答

形態は収斂進化によって異なる系統の生物が似た形になることがあるが、DNA配列は収斂が起きにくく、塩基の違いを定量的に数えられるため、より客観的で正確な系統推定ができるからです。

6入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-1-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

生物がたどってきた進化の道筋を( ア )といい、それを枝分かれの図で表したものを( イ )という。共通祖先に由来する同じ起源の構造を( ウ )といい、異なる起源の構造が似た環境への適応で似た形になることを( エ )という。現在の系統推定では、DNA配列を比較する( オ )が主流である。

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解答

ア:系統 イ:系統樹 ウ:相同 エ:収斂(収れん) オ:分子系統解析

解説

相同と収斂の区別は入試頻出です。相同の例:コウモリの翼・クジラの胸びれ・ヒトの腕(すべて哺乳類の前肢)。収斂の例:鳥の翼と昆虫の翅、モグラとケラ(ともに地中生活に適応した体形)。

B 標準レベル

3-1-2B 標準論述

(1) コウモリの翼と鳥の翼は、どちらも飛翔に使われるが、分類上の扱いが異なる。この2つの構造の進化的な関係を、「相同」または「収斂」の用語を使って説明せよ。

(2) 形態に基づく系統推定が誤る可能性がある理由を、「収斂」の語を用いて40字以内で述べよ。

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解答

(1) コウモリの翼は哺乳類の前肢が変形したもの、鳥の翼も前肢が変形したものだが、コウモリと鳥は別系統で独立に飛翔能力を獲得したため、翼としては収斂であるが、前肢としては相同である。

(2) 収斂進化で異なる系統の生物が似た形態をもつ場合、近縁と誤って判断してしまうから。(40字)

解説

(1) やや複雑な問題です。コウモリの翼と鳥の翼は、「翼」としての機能は収斂(独立に進化した飛翔器官)ですが、「前肢」としての起源は相同(四肢動物の共通祖先から受け継いだ前肢の変形)です。

(2) これが分子系統解析が重視される理由でもあります。DNA配列は収斂が起きにくいため、形態よりも信頼性が高いとされます。

採点ポイント((2)の論述・4点満点の場合)
  • 収斂進化で形態が類似することに言及(2点)
  • 近縁と誤判断する可能性に言及(2点)

C 発展レベル

3-1-3C 発展実験考察

5種の脊椎動物(ウナギ、カエル、ワニ、ペンギン、ウシ)について、以下の形態的特徴を調べた。

四肢陸上で産卵恒温哺乳
ウナギ××××
カエル×××
ワニ××
ペンギン×
ウシ

(1) この表から、どの特徴がどの順序で獲得されたと推定されるか。

(2) この表に基づいて5種の系統樹を描くとき、最も根元に位置する分岐はどの2グループ間か。

(3) 分子系統解析の結果、ワニはペンギン(鳥類)に最も近縁であることがわかっている。形態に基づく系統樹でもこの結果と一致するか、理由とともに述べよ。

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解答

(1) 四肢の獲得 → 陸上での産卵の獲得 → 恒温性の獲得 → 哺乳の獲得の順。

(2) ウナギ(四肢なし)と残り4種(四肢あり)の間。

(3) 一致しない。形態データでは恒温性をもつペンギンとウシが近縁に見えるが、分子データではワニとペンギン(鳥類)が近縁とされる。これは恒温性が鳥類と哺乳類で独立に進化した(収斂)ためであり、形態に基づく系統推定が誤りうる例である。

解説

(1) 表の○×パターンから、すべての四肢動物は四肢を共有し、そのなかで陸上産卵する動物は羊膜を共有し…という階層が読み取れます。

(2) 四肢をもたないウナギが最も早く分岐したことになります。

(3) 形態分類では「恒温動物」というくくりでペンギンとウシが同グループになりがちですが、実際にはワニと鳥類(ペンギン含む)は恐竜から分かれた姉妹群です。恒温性はペンギン(鳥類)とウシ(哺乳類)が独立に獲得したもの(収斂)です。このように、分子データが形態分類を修正する好例です。

採点ポイント((3)の論述・6点満点の場合)
  • 形態データでは一致しないことを明示(2点)
  • 恒温性が収斂で獲得されたことに言及(2点)
  • 分子データと形態データの矛盾の理由を説明(2点)