第3章 生物の系統と進化

3ドメインと生物の多様性
─ 生物界の「3つの大陸」

「原核生物」は1つのまとまったグループだと思っていませんか?
実は、rRNAの塩基配列を比較すると、原核生物の中に真核生物との差に匹敵する大きな違いをもつ2つのグループが見つかりました。
すべての生物は、細菌・古細菌・真核生物という「3つの大陸」に分かれているのです。

13ドメイン説 ─ ウーズが発見した「第3の生物群」

分類体系の変遷 ─ 二界説から3ドメインへ

分類体系は科学の進歩とともに変化してきました。 リンネの時代には、すべての生物を動物界植物界に分ける二界説が主流でした。 その後、顕微鏡の発達によりキノコやカビなどが植物とは大きく異なることがわかり、ヘッケルが原生生物界を加えた三界説を提唱しました。 さらに菌界や原核生物界を独立させた五界説(ホイタッカー、1969年)が広まりましたが、分子生物学の発展により、現在では以下の3ドメイン説が主流です。

かつて、すべての生物は「原核生物」と「真核生物」の2つに分けられると考えられていました。 しかし1977年、アメリカの微生物学者ウーズは、すべての生物がもつrRNA(リボソームRNA)の塩基配列を比較することで、原核生物のなかに大きく異なる2つのグループがあることを発見しました。

1990年、ウーズは界よりさらに上位の分類階級としてドメインを設定し、すべての生物を3つのドメインに分ける3ドメイン説を提唱しました。

rRNAの比較で3ドメインが明らかになったのか
rRNAはすべての生物がもつ分子であり、生物間の比較が可能
rRNAの塩基配列を比較すると、従来「原核生物」とまとめられていた生物の中に、真核生物との差に匹敵するほど大きな違いをもつ2グループが見つかった
この2グループを細菌古細菌(アーキア)として区別し、真核生物と合わせて3ドメインとした

23つのドメインの特徴 ─ それぞれの「大陸」を知る

①細菌(バクテリア)ドメイン

原核生物の大多数が属するグループです。大腸菌、乳酸菌、シアノバクテリアなど、最もなじみ深い原核生物がここに含まれます。従属栄養のもの(大腸菌など)も、独立栄養のもの(シアノバクテリア、化学合成細菌など)もいます。

②古細菌(アーキア)ドメイン

熱水噴出孔にすむ好熱菌、塩田にすむ好塩菌、嫌気的環境でメタンを生成するメタン菌など、極限環境に生息するものが多いグループです。ただし、土壌や海洋など普通の環境にも広く分布しています。細胞膜の脂質の構造が細菌や真核生物とは大きく異なります。

③真核生物ドメイン

核膜に囲まれた核と膜性の細胞小器官をもつ生物のグループです。動物、植物、菌類、原生生物が含まれます。分子系統解析では、真核生物はアーキアに近縁であることがわかっています。

細菌古細菌(アーキア)真核生物
核膜なしなしあり
細胞膜の脂質エステル結合エーテル結合(独特)エステル結合
ペプチドグリカンありなしなし
RNAポリメラーゼ1種類・単純複数種類・真核生物に類似複数種類
大腸菌、乳酸菌、シアノバクテリア好熱菌、好塩菌、メタン菌動物、植物、菌類
ポイント:3ドメインの覚え方
  • 細菌:ペプチドグリカンをもつ原核生物。最もなじみ深い
  • 古細菌:ペプチドグリカンをもたず、脂質がエーテル結合。極限環境に多い
  • 真核生物:核膜あり。古細菌に近縁(RNAポリメラーゼの構造が類似)
  • 意外な事実:古細菌は細菌より真核生物に近い
発展:古細菌と真核生物の意外な近縁関係 生物

「古細菌」という名前から原始的な生物を連想しがちですが、分子系統解析では古細菌は細菌よりも真核生物に近縁です。RNAポリメラーゼの構造、ヒストン様タンパク質の存在、転写開始のしくみなどが真核生物と共通しています。実際、真核生物の祖先は古細菌の一系統から進化したとする説が有力です。「古細菌」の名は必ずしも「古い」ことを意味しないことを押さえておきましょう。

3真核生物の多様性 ─ 4つの大きなグループ

真核生物ドメインの中は、さらにいくつかの大きなグループに分けられます。 伝統的には動物界・植物界・菌界・原生生物界の4つに分けることが多いですが、原生生物界は多様な系統の寄せ集めであり、現在ではより細かく分類されています。

グループ栄養様式細胞壁おもな特徴
動物界従属栄養(摂食)なし多細胞。消化管で食物を消化・吸収
植物界独立栄養(光合成)あり(セルロース)多細胞。葉緑体をもつ。陸上に適応
菌界従属栄養(吸収)あり(キチン)多細胞(一部単細胞)。体外消化で有機物を分解・吸収
原生生物さまざまさまざま単細胞が多い。アメーバ、ゾウリムシ、ミドリムシなど多様
ポイント:菌類と細菌の違い
  • 菌類(キノコ・カビ・酵母)=真核生物。細胞壁はキチン。体外消化で吸収
  • 細菌(大腸菌・乳酸菌など)=原核生物。細胞壁はペプチドグリカン
  • 「菌」の字がつくが、まったく別のグループ。入試で混同しやすいので注意

4この章を俯瞰する ─ 3ドメインと進化の全体像

3ドメイン説により、生物の多様性の全体像が見えてきました。 すべての生物は共通祖先から分かれた3つの大きな系統に属しており、そのうち真核生物は古細菌に近縁です。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 系統樹 → 3-1「生物の分類と系統樹」:rRNAの塩基配列比較から描かれた分子系統樹が3ドメイン説の根拠。
  • 細胞内共生 → 1-2「細胞の進化」:真核生物は古細菌の一系統に好気性細菌が共生してミトコンドリアを獲得した。
  • 植物・菌類・動物の系統 → 3-3:真核生物ドメインの中のさらに詳しい系統関係を学ぶ。
  • 光合成と化学合成 → 5-5〜5-8:細菌ドメインのシアノバクテリア(光合成)や化学合成細菌のはたらき。

5まとめ

  • 分類体系の変遷:二界説(動物・植物)→三界説(+原生生物)→五界説(ホイタッカー)→ 3ドメイン説
  • ウーズがrRNA塩基配列の比較で原核生物の中に大きく異なる2グループを発見(1977年)
  • 3ドメイン説(1990年):全生物を細菌古細菌(アーキア)・真核生物の3ドメインに分類
  • 細菌:ペプチドグリカンあり。大腸菌、シアノバクテリアなど
  • 古細菌:エーテル結合の脂質。好熱菌、メタン菌など。真核生物に近縁
  • 真核生物:核膜あり。動物・植物・菌類・原生生物
  • 菌類(キノコ等)は真核生物、細菌(大腸菌等)は原核生物──混同しないこと

6確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

3ドメイン説を提唱した科学者の名前と、分類に使った分子の名前を答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

ウーズ。rRNA(リボソームRNA)の塩基配列を比較した。

Q2

3つのドメインの名前を答え、それぞれの代表的な生物を1つずつ挙げよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

細菌ドメイン(例:大腸菌)、古細菌ドメイン(例:メタン菌)、真核生物ドメイン(例:ヒト)。

Q3

古細菌は細菌と真核生物のどちらにより近縁か答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

真核生物。RNAポリメラーゼの構造やヒストン様タンパク質の存在など、古細菌には真核生物と共通する特徴が多いです。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

3-2-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

1977年、( ア )は( イ )の塩基配列を比較し、原核生物の中に大きく異なる2グループがあることを発見した。1990年、界より上位の分類階級として( ウ )を設定し、全生物を( エ )・古細菌・( オ )の3つに分ける説を提唱した。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

ア:ウーズ イ:rRNA(リボソームRNA) ウ:ドメイン エ:細菌(バクテリア) オ:真核生物

解説

rRNAはすべての生物がもつ分子であるため、全生物の系統比較に使えます。ウーズはrRNAの配列比較により、従来「原核生物」としてまとめられていた生物の中に、細菌とは大きく異なるグループ(古細菌=アーキア)があることを発見しました。

B 標準レベル

3-2-2B 標準選択論述

(1) 次の生物を、細菌ドメイン・古細菌ドメイン・真核生物ドメインに分類せよ。

大腸菌、メタン菌、酵母、シアノバクテリア、好熱菌、アメーバ、乳酸菌

(2) 古細菌が細菌よりも真核生物に近縁であることを示す根拠を1つ挙げよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 細菌:大腸菌、シアノバクテリア、乳酸菌。古細菌:メタン菌、好熱菌。真核生物:酵母、アメーバ。

(2) RNAポリメラーゼの構造が真核生物と類似している(複数種類・複雑な構造)。

解説

(1) 酵母は「菌」の字がつきますが真核生物(菌類)です。細菌と混同しやすいので注意。シアノバクテリアは光合成を行う細菌です。

(2) 他の根拠として、ヒストン様タンパク質の存在、転写開始のしくみの類似、イントロンの存在(一部)なども挙げられます。

C 発展レベル

3-2-3C 発展論述

(1) ウーズが生物の系統比較にrRNAを用いたのはなぜか。rRNAの特性に着目して40字以内で述べよ。

(2) 3ドメイン説以前に広く用いられていた「五界説」では、すべての原核生物を1つの界(モネラ界)としてまとめていた。3ドメイン説がこの分類を変更した理由を50字以内で述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) rRNAはすべての生物がもち、進化的に広く保存されているため、全生物の系統比較に使えるから。(40字)

(2) rRNAの塩基配列比較により、原核生物の中に真核生物との差に匹敵する大きな違いをもつ2グループがあることが判明したため。(50字)

解説

(1) rRNAはリボソームの構成成分であり、タンパク質合成という生命の根幹の反応に関わるため、すべての生物に保存されています。進化速度が適度(速すぎず遅すぎない)であることも系統比較に適している理由です。

(2) 五界説では「核膜の有無」を最上位の基準として、原核生物をモネラ界としてまとめていました。しかし分子データは、細菌と古細菌の間にある差が、原核生物と真核生物の差と同程度であることを示しました。そのため、界よりさらに上位のドメインを設定して3つに分ける必要があったのです。

採点ポイント((2)の論述・6点満点の場合)
  • rRNA配列の比較によることに言及(2点)
  • 細菌と古細菌の間に大きな違いがあることに言及(2点)
  • 従来のモネラ界の一括を否定する根拠の提示(2点)