第5章 代謝

光合成①
─ 光化学反応(チラコイド膜)

植物の葉が緑色なのは、光合成色素のクロロフィルが緑色の光を反射するからです。
では、吸収した光のエネルギーはどうなるのでしょうか。
チラコイド膜の上で繰り広げられる、光から化学エネルギーへの変換劇を見ていきましょう。

1光合成の全体像 ─ 2つの段階

光合成は、光エネルギーを使ってCO2とH2Oから有機物(グルコースなど)を合成する反応です。 全体の反応式は次のとおりです。

6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O

光合成は大きく2つの段階に分かれます。

段階反応の場使うものつくるもの
①光化学反応チラコイド膜光エネルギー、H2OATP、NADPH、O2
②カルビン回路ストロマATP、NADPH、CO2有機物(G3P→グルコース)

この記事では第1段階(光化学反応)を、次の記事(5-6)で第2段階(カルビン回路)を学びます。

2光合成色素と光の吸収 ─ 「太陽光パネル」の原理

葉緑体のチラコイド膜には、光合成色素が埋め込まれています。 おもな光合成色素は以下のとおりです。

  • クロロフィル a:すべての光合成生物に共通。反応中心の色素
  • クロロフィル b:植物と緑藻がもつ補助色素
  • カロテノイド(カロテン、キサントフィルなど):補助色素。黄〜橙色

これらの色素は青色と赤色の光をよく吸収しますが、緑色の光はほとんど吸収せずに反射します。 葉が緑色に見えるのは、緑色の光が反射されて私たちの目に届くからです。

3光化学反応 ─ 光エネルギーを化学エネルギーに変える

チラコイド膜には、光化学系II光化学系Iという2つのタンパク質複合体が存在します。 光合成色素が吸収した光エネルギーは、これらの光化学系に集められます。

光化学反応の流れ

  1. 光化学系IIが光エネルギーを吸収し、反応中心のクロロフィルが高エネルギーの電子を放出する
  2. 失われた電子を補うために水(H2O)が分解され、O2が放出される
  3. 放出された電子は電子伝達系を通って光化学系Iに渡される。この過程でH+がチラコイド内腔にくみ出され、ATPが合成される(光リン酸化
  4. 光化学系Iも光エネルギーで電子を放出し、最終的にNADP+に渡されてNADPHが生成される
光合成で酸素(O₂)が発生するのか
光化学系IIのクロロフィルが光エネルギーで電子を放出する
放出した電子の分だけ、クロロフィルは電子を補充する必要がある
電子の供給源は水(H₂O)──水から電子が引き抜かれる
水が分解された結果、O₂が副産物として放出される
ポイント:光化学反応でつくられるもの
  • ATP ── 電子伝達に伴うH+濃度勾配 → ATP合成酵素(呼吸と同じ原理)
  • NADPH ── 電子の最終受容体がNADP+。カルビン回路でCO2固定に使われる
  • O2 ── 水の分解の副産物。大気中の酸素の大部分はここに由来する
発展:光合成の電子伝達系と呼吸の電子伝達系の共通点 生物

光合成のチラコイド膜と呼吸のミトコンドリア内膜では、どちらも電子伝達 → H⁺濃度勾配 → ATP合成酵素によるATP合成という共通のしくみが使われています。違いは、電子の供給源(光合成=水、呼吸=NADH/FADH₂)と電子の最終受容体(光合成=NADP⁺、呼吸=O₂)です。この共通原理を整理すると、呼吸と光合成の理解が深まり、混同を防げます。

4この章を俯瞰する ─ 光からATPとNADPHへ

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • カルビン回路 → 5-6「光合成②」:ここでつくられたATPとNADPHが、CO₂を有機物に変換する反応に使われる。
  • 呼吸の電子伝達系 → 5-3「呼吸②」:H⁺濃度勾配→ATP合成酵素の原理は呼吸と共通。
  • シアノバクテリア → 1-2「細胞の進化」:酸素発生型光合成を最初に獲得したのがシアノバクテリア。葉緑体はその子孫。
  • 葉緑体の構造 → 4-2「細胞の構造」:チラコイド膜・ストロマ・グラナの位置関係。

5まとめ

  • 光合成は光化学反応(チラコイド膜)とカルビン回路(ストロマ)の2段階
  • 光合成色素(クロロフィル・カロテノイド)が青色と赤色の光を吸収する
  • 光化学系II → 電子伝達 → 光化学系I → NADPH合成
  • 光化学系IIで水が分解され、O2が放出される
  • 電子伝達に伴うH+濃度勾配ATPが合成される(光リン酸化)
  • 光化学反応でつくられたATPNADPHがカルビン回路に供給される

6確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

光合成の2つの段階と、それぞれの反応の場を答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

①光化学反応(チラコイド膜)、②カルビン回路(ストロマ)。

Q2

光合成で酸素が発生する理由を「水の分解」の語を用いて述べよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

光化学系IIで電子が放出されると、その電子を補うために水が分解される。水の分解の副産物として酸素(O₂)が放出される。

Q3

光化学反応でつくられる3つの物質を答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

ATP、NADPH、O₂。ATPとNADPHはカルビン回路でCO₂固定に使われ、O₂は水の分解の副産物として大気中に放出される。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-5-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

光合成の第1段階である光化学反応は( ア )膜で行われる。光合成色素の( イ )が光エネルギーを吸収し、( ウ )系IIとI系を通じて電子が伝達される。( ウ )系IIでは( エ )が分解されて酸素が放出される。電子は最終的にNADP⁺に渡されて( オ )が生成される。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

ア:チラコイド イ:クロロフィル ウ:光化学 エ:水(H₂O) オ:NADPH

解説

光化学反応の流れは「光→光化学系II→電子伝達→光化学系I→NADPH」です。光化学系IIで水が分解されて酸素が発生する点が重要です。

B 標準レベル

5-5-2B 標準論述

(1) 光合成のチラコイド膜でのATP合成のしくみと、呼吸のミトコンドリア内膜でのATP合成のしくみの共通点を、「H⁺濃度勾配」「ATP合成酵素」の語を用いて50字以内で述べよ。

(2) 光合成で放出される酸素が水に由来することを示した実験(ルーベンの実験)の概要を、「¹⁸O」の語を用いて50字以内で述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) どちらも電子伝達によりH⁺濃度勾配が形成され、H⁺がATP合成酵素を通ってATPが合成される。(44字)

(2) ¹⁸Oで標識した水を与えると放出されるO₂に¹⁸Oが含まれ、酸素が水に由来することが証明された。(45字)

解説

(1) 化学浸透(H⁺濃度勾配→ATP合成酵素→ATP)の原理は、光合成と呼吸で共通しています。

(2) ルーベンは1941年にこの実験を行いました。¹⁸O標識したCO₂を与えた場合はO₂に¹⁸Oが含まれないことから、光合成で放出されるO₂はCO₂ではなく水に由来することが明らかになりました。

採点ポイント((1)の論述・6点満点の場合)
  • H⁺濃度勾配の形成に言及(3点)
  • ATP合成酵素によるATP合成に言及(3点)