第5章 代謝

光合成②
─ カルビン回路と炭素固定

光化学反応でつくられたATPとNADPHは、いわば「充電されたバッテリー」です。
この記事では、そのバッテリーのエネルギーを使ってCO₂から有機物をつくる「カルビン回路」を学びます。
空気中のCO₂が植物の体に変わる──その魔法のような反応のしくみを見ていきましょう。

1カルビン回路 ─ CO2を有機物に変える「回転工場」

カルビン回路(カルビン・ベンソン回路)は、葉緑体のストロマで行われる光合成の第2段階です。 光化学反応でつくられたATPとNADPHのエネルギーを使って、CO2を有機物に変換します。

クエン酸回路と同じく「回路」と名前がついているのは、最後の産物が最初の基質を再生する循環的な反応経路だからです。

カルビン回路の3つのステップ

  1. CO2の固定:CO2がC5化合物(RuBP)と結合し、C3化合物(PGA)が2分子生じる。この反応を触媒する酵素がRuBisCO(ルビスコ)──地球上で最も量が多いタンパク質
  2. PGAの還元:ATPとNADPHを使ってPGAをG3P(グリセルアルデヒド3-リン酸)に還元する。これが有機物の「材料」
  3. RuBPの再生:G3Pの一部からATPを使ってRuBPを再生し、回路を回し続ける

CO2 3分子を固定するごとに、G3P 1分子が「純利益」として回路から取り出され、グルコースなどの有機物の合成に使われます。 つまり、グルコース1分子をつくるにはカルビン回路を6回転させる必要があります。

カルビン回路は光がなくても回るのに「暗反応」と呼ばない方がよいのか
カルビン回路自体は光を直接使わない(光化学反応の産物であるATPとNADPHを使う)
そのため以前は「暗反応」と呼ばれていた
しかし、カルビン回路は暗所では長時間進まない(ATPとNADPHが枯渇するため)
「暗反応」は誤解を招くため、現在は「カルビン回路」や「炭素固定反応」と呼ぶ
ポイント:カルビン回路のまとめ
  • 反応の場:葉緑体のストロマ
  • CO2の固定酵素:RuBisCO(CO2 + RuBP → PGA × 2)
  • 使うもの:ATP(エネルギー)とNADPH(還元力)──光化学反応の産物
  • つくるもの:G3P(有機物の材料)→ グルコースなどに変換
  • グルコース1分子 = カルビン回路6回転(CO2 6分子を固定)

2光合成の全体像 ─ 光→ATP/NADPH→有機物

光合成の2つの段階を統合すると、全体の流れは次のようになります。

段階場所入力出力
光化学反応チラコイド膜光、H2OATP、NADPH、O2
カルビン回路ストロマATP、NADPH、CO2G3P → グルコース

つまり光合成とは、光エネルギー → ATP・NADPHの化学エネルギー → 有機物の化学エネルギーという2段階のエネルギー変換です。 光化学反応がエネルギーを「充電」し、カルビン回路がそのエネルギーで「製品(有機物)をつくる」工場のようなものです。

発展:RuBisCOは「最も量が多いが効率が悪い」酵素 生物

RuBisCO(ルビスコ)は地球上で最も量が多いタンパク質と推定されています。しかし、1分子のRuBisCOが1秒間に固定できるCO₂はわずか3分子程度と、酵素としては非常に遅い反応速度です。しかもRuBisCOはCO₂だけでなくO₂とも反応する(光呼吸)ため、効率がさらに下がります。植物が大量のRuBisCOをもっているのは、この「効率の悪さ」を量でカバーするためです。C4植物やCAM植物(5-7参照)は、この問題への進化的な解決策です。

3この章を俯瞰する ─ 呼吸と光合成は表裏一体

呼吸と光合成は逆方向の反応です。光合成は光エネルギーでCO₂と水から有機物をつくり、呼吸は有機物を分解してATPをつくります。しかし、どちらも電子伝達系とH⁺濃度勾配によるATP合成という共通の原理を使っています。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 光合成と環境要因 → 5-7:光補償点・光飽和点・CO₂濃度の影響。C4植物・CAM植物。
  • 呼吸 → 5-2, 5-3:光合成の逆反応。呼吸はミトコンドリアで有機物を分解してATPをつくる。
  • 生態系 → 13-1「生態系の物質生産」:光合成で固定された有機物が生態系全体の出発点(総生産量)。
  • 物質循環 → 13-2「物質循環」:炭素循環は光合成によるCO₂固定と呼吸によるCO₂放出のバランス。

4まとめ

  • カルビン回路は葉緑体のストロマで行われる光合成の第2段階
  • RuBisCOがCO2をRuBP(C5)に固定してPGA(C3)×2をつくる
  • ATPとNADPHを使ってPGAをG3Pに還元し、有機物の材料にする
  • G3Pの一部からRuBPを再生して回路を回し続ける
  • グルコース1分子 = CO2 6分子を固定 = カルビン回路6回転
  • 光合成全体:光 → ATP・NADPH → 有機物(2段階のエネルギー変換)

5確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

カルビン回路の反応の場と、CO₂を固定する酵素の名前を答えよ。

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解答

反応の場:葉緑体のストロマ。CO₂固定酵素:RuBisCO(ルビスコ)。

Q2

カルビン回路で消費される2つの物質を答え、それぞれがどこでつくられるか述べよ。

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解答

ATPとNADPH。どちらも光化学反応(チラコイド膜)でつくられる。

Q3

グルコース1分子を合成するためにカルビン回路は何回転する必要があるか。理由とともに答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

6回転。グルコース(C₆H₁₂O₆)には炭素が6個含まれており、カルビン回路1回転でCO₂ 1分子(炭素1個)が固定されるため。

6入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-6-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

カルビン回路は葉緑体の( ア )で行われる。CO₂は( イ )という酵素のはたらきでC₅化合物の( ウ )に固定され、C₃化合物の( エ )が生じる。( エ )は光化学反応でつくられた( オ )とNADPHを使ってG3Pに還元される。

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解答

ア:ストロマ イ:RuBisCO(ルビスコ) ウ:RuBP エ:PGA オ:ATP

解説

カルビン回路の流れは「CO₂ + RuBP → PGA → G3P → RuBP再生」の循環です。RuBisCOは地球上で最も量が多いタンパク質とされています。

B 標準レベル

5-6-2B 標準論述

(1) 光合成の2つの段階(光化学反応とカルビン回路)の関係を、「ATP」「NADPH」の語を用いて50字以内で述べよ。

(2) カルビン回路が以前「暗反応」と呼ばれていたが、現在はその呼び方が避けられている。その理由を30字以内で述べよ。

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解答

(1) 光化学反応でつくられたATPとNADPHが、カルビン回路でCO₂から有機物を合成するために使われる。(45字)

(2) カルビン回路はATP・NADPHが必要なため暗所では長時間進まないから。(30字)

解説

(1) 光化学反応がエネルギーを「準備」し、カルビン回路がそのエネルギーで「製品(有機物)をつくる」という関係です。

(2) 「暗反応」という名前は「暗所でも進む」と誤解されがちですが、実際にはATPとNADPHの供給が止まれば反応は止まります。