第5章 代謝

光合成と環境要因
─ C4植物・CAM植物

植物に光を当てれば当てるほど光合成速度は上がるのでしょうか? そう単純ではありません。
光の強さ、CO₂濃度、温度──これらの環境要因が光合成速度にどう影響するかを理解することは、
植物の生態を理解するうえで欠かせません。

1光の強さと光合成速度 ─ 光補償点と光飽和点

植物は常に光合成と呼吸を同時に行っています(呼吸は昼夜を問わず行われる)。 外から測定できるCO2吸収量は、光合成でのCO2固定量から呼吸でのCO2放出量を差し引いた値です。 これを見かけの光合成速度といいます。

ポイント:見かけの光合成速度と真の光合成速度

真の光合成速度 = 見かけの光合成速度 + 呼吸速度

光補償点

光の強さを上げていくと、ある時点で光合成速度と呼吸速度が等しくなり、見かけの光合成速度がゼロになります。 この光の強さを光補償点といいます。 光補償点以下では呼吸が光合成を上回るため、植物は有機物を消費する一方で、長期間は生きられません。

光飽和点

光の強さをさらに上げると、光合成速度は一定値に達して頭打ちになります。 この時の光の強さを光飽和点といいます。 光飽和以上の光を当てても光合成速度は上がりません。これはカルビン回路の酵素反応速度が律速になっているためです。

陽生植物と陰生植物

陽生植物陰生植物
生育環境日当たりのよい場所日陰でも生育可能
光補償点高い低い
光飽和点高い低い
最大光合成速度大きい小さい
呼吸速度大きい小さい
ススキ、アカマツ、クリコケ類、シダ類、アオキ

2C4植物とCAM植物 ─ 炭素固定の「裏技」

多くの植物(C3植物)では、RuBisCOがCO2を直接RuBPに固定してC3化合物(PGA)をつくります。 しかしRuBisCOにはCO2だけでなくO2とも反応してしまう「弱点」があり(光呼吸)、高温・強光下では効率が落ちます。

C4植物 ── 「CO2を濃縮する」戦略

C4植物(サトウキビ、トウモロコシなど)は、まず葉肉細胞でCO2をC4化合物(オキサロ酢酸)に固定し、これを維管束鞘細胞に送ります。 維管束鞘細胞でC4化合物からCO2を取り出してカルビン回路に供給するため、RuBisCO周辺のCO2濃度が高く保たれ、光呼吸が抑えられます

CAM植物 ── 「夜にCO2を貯める」戦略

CAM植物(サボテン、パイナップルなど)は乾燥地域に生息し、夜に気孔を開いてCO2をC4化合物として液胞に蓄え、昼間は気孔を閉じてCO2を取り出してカルビン回路に供給します。 気孔を昼間閉じることで水分の損失を防ぐ適応です。

C₄植物が熱帯・亜熱帯で有利なのか
高温ではRuBisCOがO₂と反応しやすくなり、光呼吸が増える
光呼吸はCO₂を固定せず有機物を消費する「無駄な反応」
C₄植物はCO₂を事前に濃縮してRuBisCOに供給するため、光呼吸が抑えられる
高温・強光の環境ではC₄植物のほうがC₃植物より効率的に光合成できる
C₃植物C₄植物CAM植物
最初のCO₂固定産物C₃(PGA)C₄(オキサロ酢酸)C₄(夜間に固定)
CO₂固定の場所葉肉細胞葉肉細胞→維管束鞘細胞同じ細胞(時間で分離)
光呼吸あり少ない少ない
適した環境温帯高温・強光乾燥地
イネ、コムギサトウキビ、トウモロコシサボテン、パイナップル

3この章を俯瞰する ─ 環境と光合成の関係

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 植生と遷移 → 12-4「生物群集と遷移」:陽生植物と陰生植物の光補償点の違いが、遷移の過程(陽樹林→陰樹林)を説明する。
  • 生態系の物質生産 → 13-1:光合成の総生産量から呼吸量を引いた純生産量が生態系を支える。
  • 植物ホルモン → 11-1:気孔の開閉にはアブシシン酸が関与する。CAM植物の気孔制御と関連。

4まとめ

  • 見かけの光合成速度 = 真の光合成速度 − 呼吸速度
  • 光補償点:光合成速度 = 呼吸速度となる光の強さ。これ以下では有機物が減少
  • 光飽和点:光合成速度が一定値に達する光の強さ
  • 陽生植物は光補償点・光飽和点が高い。陰生植物は低い
  • C₄植物:CO₂をC₄化合物として事前に固定し、維管束鞘細胞で濃縮。光呼吸を抑制
  • CAM植物:夜にCO₂を固定して蓄え、昼は気孔を閉じて水分損失を防ぐ

5確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

「見かけの光合成速度」と「真の光合成速度」の関係を式で示せ。

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解答

真の光合成速度 = 見かけの光合成速度 + 呼吸速度。見かけの光合成速度は外から測定できるCO₂吸収量であり、植物自身の呼吸によるCO₂放出分が差し引かれています。

Q2

光補償点が低い陰生植物が日陰で生育できる理由を述べよ。

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解答

光補償点が低いため、弱い光でも光合成速度が呼吸速度を上回り、有機物を蓄積できるからです。また呼吸速度自体も小さいため、消費する有機物が少なくてすみます。

Q3

C₄植物が高温環境でC₃植物より光合成効率が高い理由を述べよ。

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解答

C₄植物はCO₂を事前にC₄化合物に固定して維管束鞘細胞に送り、RuBisCO周辺のCO₂濃度を高く保つことで、高温で増加しやすい光呼吸を抑えられるからです。

6入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-7-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

光の強さを上げていくと、光合成速度と呼吸速度が等しくなる点を( ア )という。さらに光を強くすると光合成速度が一定値に達する点を( イ )という。日当たりのよい場所で生育する植物を( ウ )、日陰でも生育できる植物を( エ )という。( ウ )は( エ )に比べて( ア )が( オ )い。

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解答

ア:光補償点 イ:光飽和点 ウ:陽生植物 エ:陰生植物 オ:高

解説

陽生植物は光補償点・光飽和点ともに高く、最大光合成速度も大きいですが、弱い光では陰生植物に劣ります。陰生植物は光補償点・光飽和点が低く、弱い光でも効率的に光合成できます。

B 標準レベル

5-7-2B 標準計算

ある植物の葉を一定温度・CO₂濃度で光の強さを変えて実験した。暗所ではCO₂を1時間あたり4 mg放出した。十分な光を当てたところ、CO₂を1時間あたり16 mg吸収した。

(1) この葉の呼吸速度を答えよ。

(2) 見かけの光合成速度を答えよ。

(3) 真の光合成速度を求めよ。

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解答

(1) 呼吸速度 = 4 mg CO₂/時(暗所でのCO₂放出量 = 呼吸速度)

(2) 見かけの光合成速度 = 16 mg CO₂/時(光を当てたときのCO₂吸収量)

(3) 真の光合成速度 = 見かけの光合成速度 + 呼吸速度 = 16 + 4 = 20 mg CO₂/時

解説

暗所ではCO₂放出量がそのまま呼吸速度を表します。光を当てたときのCO₂吸収量は見かけの光合成速度であり、真の光合成速度は呼吸の分を加えて計算します。この問題は入試で頻出です。

C 発展レベル

5-7-3C 発展論述

(1) C₃植物とC₄植物の炭素固定のしくみの違いを、「RuBisCO」「維管束鞘細胞」の語を用いて60字以内で述べよ。

(2) CAM植物が乾燥地域で生存できる理由を、「気孔」「夜間」の語を用いて50字以内で述べよ。

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解答

(1) C₃植物はRuBisCOが直接CO₂を固定するが、C₄植物はCO₂をC₄化合物に固定して維管束鞘細胞に送り、CO₂を濃縮してRuBisCOに供給する。(60字)

(2) CAM植物は夜間に気孔を開いてCO₂を固定し、昼間は気孔を閉じて水分の損失を防ぐから。(42字)

解説

(1) C₃植物では空間的分離がなくRuBisCOがO₂とも反応(光呼吸)しますが、C₄植物では空間的に分離することでRuBisCO周辺のCO₂濃度を高く保ち、光呼吸を抑制します。

(2) 通常の植物は昼間に気孔を開いてCO₂を取り込みますが、水分も失います。CAM植物は夜にCO₂を取り込むことで、昼間の水分損失を最小限にしています。

採点ポイント((1)の論述・6点満点の場合)
  • C₃植物のRuBisCOによる直接固定に言及(2点)
  • C₄植物のC₄化合物による事前固定に言及(2点)
  • 維管束鞘細胞でのCO₂濃縮に言及(2点)