第5章 代謝

細菌の光合成と化学合成
─ 太陽光なしでも生きる方法

深海の暗闇の中、熱水噴出孔のまわりには豊かな生態系が広がっています。
光が届かないのに、どうやって有機物をつくっているのでしょうか。
太陽光に頼らない「化学合成」という独立栄養の方法を学びましょう。

1光合成細菌 ─ 酸素を出さない光合成

植物やシアノバクテリアの光合成では、水を分解して酸素を発生します(酸素発生型光合成)。 しかし、一部の細菌は水ではなく硫化水素(H2S)などを電子供与体として使う光合成を行います。 この場合、酸素は発生しません

このような細菌を光合成細菌(緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌など)といいます。 地球上で最初に光合成を行った生物は、この酸素を発生しないタイプの光合成細菌だったと考えられています(1-1参照)。

酸素発生型光合成酸素非発生型光合成
電子供与体H2OH2S、H2など
酸素の発生ありなし
行う生物植物、藻類、シアノバクテリア緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌

2化学合成 ─ 無機物の酸化でエネルギーを得る

化学合成とは、無機物を酸化して得たエネルギーでCO2から有機物を合成する反応です。 光エネルギーをまったく使わない独立栄養の方法であり、光が届かない深海の熱水噴出孔周辺などで重要です。

化学合成を行う細菌を化学合成細菌(化学合成独立栄養細菌)といいます。

おもな化学合成細菌

細菌酸化する無機物反応
硝化菌アンモニア(NH3)/ 亜硝酸(NO2NH3 → NO2 → NO3
硫黄細菌硫化水素(H2S)/ 硫黄(S)H2S → S → SO42−
鉄細菌鉄(Fe2+Fe2+ → Fe3+
水素細菌水素(H2H2 → H2O
深海の熱水噴出孔で生態系が成り立つのか
熱水噴出孔からはH2SやH2などの還元的な無機物が噴出する
化学合成細菌がこれらの無機物を酸化してエネルギーを得、CO2から有機物を合成
この有機物を食物とする動物(チューブワーム、二枚貝など)が生息
太陽光なしでも、化学合成を出発点とした食物連鎖が成立する
ポイント:独立栄養の3つの方法
  • 酸素発生型光合成:光+H2O → 有機物+O2(植物・シアノバクテリア)
  • 酸素非発生型光合成:光+H2Sなど → 有機物(光合成細菌)
  • 化学合成:無機物の酸化 → 有機物(硝化菌・硫黄細菌など)
  • いずれもCO2から有機物を合成する炭酸同化を行う
発展:硝化菌と窒素循環 生物

硝化菌は土壌中でアンモニア(NH3)を硝酸イオン(NO3)に変換する過程で化学合成を行います。この反応は窒素循環(13-2参照)の重要なステップです。植物はおもにNO3の形で窒素を吸収するため、硝化菌のはたらきは植物の窒素栄養に不可欠です。硝化は「亜硝酸菌」がNH3→NO2、「硝酸菌」がNO2→NO3と2段階で行う点も入試で問われます。

3この章を俯瞰する ─ 第5章の総まとめ

第5章の8本の記事で、代謝の全体像を学びました。ATP(5-1)を中心に、呼吸(5-2, 5-3)、発酵(5-4)、光合成(5-5, 5-6, 5-7)、化学合成(5-8)というエネルギー代謝のすべてを網羅しました。

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 窒素循環 → 13-2「物質循環」:硝化菌の化学合成は窒素循環の重要なステップ。
  • 生態系 → 13-1「物質生産とエネルギーの流れ」:光合成と化学合成が生態系の出発点(一次生産)。
  • 生命の起源 → 1-1「生命の起源」:最初の生命のエネルギー源が化学合成だった可能性。熱水噴出孔仮説。
  • 3ドメイン → 3-2:化学合成細菌は細菌ドメインに属するものが多い。古細菌にも化学合成を行うものがいる。

4まとめ

  • 光合成細菌:水ではなくH2Sなどを使う光合成。酸素を発生しない
  • 化学合成:無機物の酸化エネルギーでCO2から有機物を合成。光は不要
  • 化学合成細菌の例:硝化菌(NH3→NO3)、硫黄細菌(H2S→SO42−)、鉄細菌、水素細菌
  • 深海の熱水噴出孔では、化学合成細菌を出発点とした光なしの食物連鎖が成立する
  • 硝化菌のはたらきは窒素循環に不可欠(NH3→NO2→NO3の2段階)

5確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

「化学合成」とは何か。「無機物」「CO₂」の語を用いて簡潔に述べよ。

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解答

無機物を酸化して得たエネルギーを使ってCO₂から有機物を合成する反応。光エネルギーを必要としない独立栄養の方法です。

Q2

化学合成細菌を2つ挙げ、それぞれが酸化する無機物を答えよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

硝化菌(アンモニアNH₃を酸化)、硫黄細菌(硫化水素H₂Sを酸化)。他に鉄細菌(Fe²⁺)、水素細菌(H₂)がある。

6入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

5-8-1A 基礎選択

独立栄養生物に関する記述として誤っているものを1つ選べ。

  • ① 植物は光エネルギーを使ってCO₂から有機物を合成する独立栄養生物である。
  • ② 化学合成細菌は無機物の酸化エネルギーを使ってCO₂から有機物を合成する。
  • ③ すべての独立栄養生物は光エネルギーを利用している。
  • ④ 硝化菌はアンモニアを酸化して化学合成を行う。
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解答

解説

③が誤り。化学合成細菌は光エネルギーを使わず、無機物の酸化エネルギーで有機物を合成する独立栄養生物です。「すべての独立栄養生物が光を使う」は誤りです。

B 標準レベル

5-8-2B 標準論述

(1) 深海の熱水噴出孔周辺に豊かな生態系が存在できる理由を、「化学合成細菌」「硫化水素」の語を用いて50字以内で述べよ。

(2) 硝化菌のはたらきが植物にとって重要な理由を、「窒素」の語を用いて30字以内で述べよ。

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解答

(1) 熱水噴出孔から噴出する硫化水素を化学合成細菌が酸化してエネルギーを得、有機物を合成して食物連鎖の出発点となるから。(50字)

(2) 硝化菌がアンモニアを硝酸イオンに変換し、植物が窒素を吸収できる形にするから。(30字)

解説

(1) 太陽光が届かない深海底でも、化学合成を出発点とした独自の生態系が成り立ちます。チューブワーム(ハオリムシ)は体内に共生する化学合成細菌から有機物を得て生きています。

(2) 植物はおもに硝酸イオン(NO₃⁻)の形で窒素を吸収します。土壌中のアンモニアを硝酸イオンに変える硝化菌の存在は、植物の栄養にとって不可欠です。