深海の暗闇の中、熱水噴出孔のまわりには豊かな生態系が広がっています。
光が届かないのに、どうやって有機物をつくっているのでしょうか。
太陽光に頼らない「化学合成」という独立栄養の方法を学びましょう。
植物やシアノバクテリアの光合成では、水を分解して酸素を発生します(酸素発生型光合成)。 しかし、一部の細菌は水ではなく硫化水素(H2S)などを電子供与体として使う光合成を行います。 この場合、酸素は発生しません。
このような細菌を光合成細菌(緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌など)といいます。 地球上で最初に光合成を行った生物は、この酸素を発生しないタイプの光合成細菌だったと考えられています(1-1参照)。
| 酸素発生型光合成 | 酸素非発生型光合成 | |
|---|---|---|
| 電子供与体 | H2O | H2S、H2など |
| 酸素の発生 | あり | なし |
| 行う生物 | 植物、藻類、シアノバクテリア | 緑色硫黄細菌、紅色硫黄細菌 |
化学合成とは、無機物を酸化して得たエネルギーでCO2から有機物を合成する反応です。 光エネルギーをまったく使わない独立栄養の方法であり、光が届かない深海の熱水噴出孔周辺などで重要です。
化学合成を行う細菌を化学合成細菌(化学合成独立栄養細菌)といいます。
| 細菌 | 酸化する無機物 | 反応 |
|---|---|---|
| 硝化菌 | アンモニア(NH3)/ 亜硝酸(NO2−) | NH3 → NO2− → NO3− |
| 硫黄細菌 | 硫化水素(H2S)/ 硫黄(S) | H2S → S → SO42− |
| 鉄細菌 | 鉄(Fe2+) | Fe2+ → Fe3+ |
| 水素細菌 | 水素(H2) | H2 → H2O |
硝化菌は土壌中でアンモニア(NH3)を硝酸イオン(NO3−)に変換する過程で化学合成を行います。この反応は窒素循環(13-2参照)の重要なステップです。植物はおもにNO3−の形で窒素を吸収するため、硝化菌のはたらきは植物の窒素栄養に不可欠です。硝化は「亜硝酸菌」がNH3→NO2−、「硝酸菌」がNO2−→NO3−と2段階で行う点も入試で問われます。
第5章の8本の記事で、代謝の全体像を学びました。ATP(5-1)を中心に、呼吸(5-2, 5-3)、発酵(5-4)、光合成(5-5, 5-6, 5-7)、化学合成(5-8)というエネルギー代謝のすべてを網羅しました。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
「化学合成」とは何か。「無機物」「CO₂」の語を用いて簡潔に述べよ。
無機物を酸化して得たエネルギーを使ってCO₂から有機物を合成する反応。光エネルギーを必要としない独立栄養の方法です。
化学合成細菌を2つ挙げ、それぞれが酸化する無機物を答えよ。
硝化菌(アンモニアNH₃を酸化)、硫黄細菌(硫化水素H₂Sを酸化)。他に鉄細菌(Fe²⁺)、水素細菌(H₂)がある。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
独立栄養生物に関する記述として誤っているものを1つ選べ。
③
③が誤り。化学合成細菌は光エネルギーを使わず、無機物の酸化エネルギーで有機物を合成する独立栄養生物です。「すべての独立栄養生物が光を使う」は誤りです。
(1) 深海の熱水噴出孔周辺に豊かな生態系が存在できる理由を、「化学合成細菌」「硫化水素」の語を用いて50字以内で述べよ。
(2) 硝化菌のはたらきが植物にとって重要な理由を、「窒素」の語を用いて30字以内で述べよ。
(1) 熱水噴出孔から噴出する硫化水素を化学合成細菌が酸化してエネルギーを得、有機物を合成して食物連鎖の出発点となるから。(50字)
(2) 硝化菌がアンモニアを硝酸イオンに変換し、植物が窒素を吸収できる形にするから。(30字)
(1) 太陽光が届かない深海底でも、化学合成を出発点とした独自の生態系が成り立ちます。チューブワーム(ハオリムシ)は体内に共生する化学合成細菌から有機物を得て生きています。
(2) 植物はおもに硝酸イオン(NO₃⁻)の形で窒素を吸収します。土壌中のアンモニアを硝酸イオンに変える硝化菌の存在は、植物の栄養にとって不可欠です。