あなたの体を構成するすべての細胞は、同じDNAをもっています。
身長、血液型、酵素のはたらき──これらの情報がすべて、たった4種類の「文字」の並び方に書き込まれているのです。
この情報の「保管庫」であるDNAの構造を見ていきましょう。
DNA(デオキシリボ核酸)は、ヌクレオチドという単位が多数つながった鎖状の高分子です。 1つのヌクレオチドは、以下の3つの部品からできています。
DNAの塩基には、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があります。 この4文字の「アルファベット」の並び方(塩基配列)に、遺伝情報が書き込まれています。
たった4種類の文字でも、並び方を変えれば無限に近い情報を書けます。 ちょうどモールス信号が「・」と「−」の2文字だけであらゆるメッセージを伝えられるのと同じです。
ヒトの場合、DNAの塩基配列は約30億塩基対からなり、46本(23対)の染色体に分かれて核の中に収められています。 この全塩基配列のことをゲノムといいます。
ヒトの全DNAを伸ばすと約2mにもなりますが、これが直径約10μmの核に収まっているのは、DNAが段階的に折りたたまれているためです。
間期の核内ではDNAはクロマチン繊維の状態で存在し、転写に必要な部分はほどけた状態(ユークロマチン)になっています。 一方、凝縮した状態(ヘテロクロマチン)では転写が抑制されます。この巻きつき具合の調節が遺伝子発現調節(6-5)にも関わっています。
DNAが遺伝情報を担う物質であることは、いくつかの重要な実験によって段階的に証明されました。
グリフィスは、肺炎双球菌を用いた実験で、加熱殺菌したS型菌(病原性あり)と生きたR型菌(病原性なし)を混ぜてマウスに注射すると、マウスが肺炎で死亡し、体内から生きたS型菌が見つかることを発見しました。 これは、殺菌したS型菌の中の「何らかの物質」がR型菌に取り込まれ、S型菌に変化させた(形質転換)ことを意味します。 ただし、この時点では形質転換を引き起こす物質の正体はわかっていませんでした。
エイブリーらは、S型菌の抽出物をタンパク質分解酵素で処理しても形質転換は起きるが、DNA分解酵素で処理すると形質転換が起きなくなることを示しました。 これにより、形質転換を引き起こす物質、すなわち遺伝子の本体がDNAであることが示されました。
ハーシーとチェイスは、T2ファージ(大腸菌に感染するウイルス)を使い、DNAを32P(放射性リン)で、タンパク質を35S(放射性硫黄)でそれぞれ標識しました。 T2ファージを大腸菌に感染させた後、ミキサーで振り混ぜて遠心分離すると、32P(DNA)は大腸菌内に入っていたのに対し、35S(タンパク質)は大腸菌の外に残っていました。 この結果から、ファージが大腸菌に注入する遺伝物質はDNAであり、遺伝子の本体がDNAであることが決定的に証明されました。
1953年、ワトソンとクリックは、DNAが二重らせん構造をとることを明らかにしました。 2本のヌクレオチド鎖が、らせん状にねじれながら絡み合った構造です。 ちょうど「ねじれた梯子」をイメージしてください。梯子の2本の柱が糖とリン酸の鎖、横木が塩基対です。
2本の鎖は、塩基の部分で水素結合によって結ばれています。 このとき、塩基の組み合わせには厳密なルールがあります。
この性質を塩基の相補性といいます。 一方の鎖の塩基配列が決まれば、もう一方の鎖の配列は自動的に決まります。 これがDNAの複製(6-2)の基盤になります。
DNAではA=T、G=Cが常に成り立ちます(シャルガフの規則)。入試では「ある生物のDNAでAが30%のとき、G は何%か」という問題が頻出です。解法:A=T=30%なのでA+T=60%。残りの40%がG+Cで、G=C=20%。つまりA%がわかれば4つの塩基すべての割合が決まるのです。
| DNA | RNA | |
|---|---|---|
| 糖 | デオキシリボース | リボース |
| 塩基 | A, T, G, C | A, U, G, C(TがUに) |
| 鎖の数 | 二本鎖 | 一本鎖(通常) |
| 役割 | 遺伝情報の保存 | 遺伝情報の伝達・翻訳 |
DNAの構造を理解することは、遺伝情報の流れ全体を理解するための第一歩です。 DNA → RNA → タンパク質という情報の流れ(セントラルドグマ)の出発点がここにあります。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
DNAを構成するヌクレオチドの3つの構成要素を答えよ。
リン酸、デオキシリボース(五炭糖)、塩基(A・T・G・Cのいずれか)。
DNAの塩基の相補性の規則を述べよ。
アデニン(A)はチミン(T)と、グアニン(G)はシトシン(C)と対になる。A-T間は水素結合2本、G-C間は水素結合3本で結ばれる。
DNAとRNAの違いを3つ述べよ。
①糖:DNAはデオキシリボース、RNAはリボース。②塩基:DNAはT(チミン)、RNAはU(ウラシル)。③構造:DNAは二本鎖、RNAは通常一本鎖。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
ある生物のDNAにおいて、アデニン(A)が全塩基の28%を占めていた。チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の割合をそれぞれ求めよ。
T = 28%、G = 22%、C = 22%
シャルガフの規則より A = T = 28%。A + T = 56%なので、G + C = 100% − 56% = 44%。G = C = 22%。
(1) DNAの二重らせんモデルを提唱した2人の科学者の名前を答えよ。
(2) 塩基の相補性がDNAの複製にとって重要である理由を、50字以内で述べよ。
(1) ワトソンとクリック(1953年)
(2) 一方の鎖を鋳型にして相補的な塩基をもつ新しい鎖を合成することで、もとと同じ配列のDNAを正確に複製できるから。(50字)
(2) 相補性があるからこそ、2本の鎖をほどいてそれぞれを鋳型にすれば、もとのDNAと同一の2分子のDNAがつくれます。これが半保存的複製(6-2)の基盤です。