あなたの体の約37兆個の細胞は、すべて1個の受精卵から細胞分裂を繰り返して生まれました。
分裂のたびにDNAは正確にコピーされ、同じ遺伝情報が引き継がれています。
この精巧な「コピー機」のしくみを見ていきましょう。
DNAの複製では、二重らせんの2本の鎖がほどかれ、それぞれの鎖を鋳型(いがた)にして、相補的な新しい鎖が合成されます。 その結果、できあがった2本のDNAは、いずれももとの鎖1本+新しい鎖1本の組み合わせです。
もとの鎖が「半分だけ保存」されるため、この複製方式を半保存的複製といいます。
半保存的複製を実験的に証明したのがメセルソンとスタールです。 重い窒素(15N)で標識したDNAをもつ大腸菌を、軽い窒素(14N)の培地に移して分裂させ、密度勾配遠心分離でDNAの密度を調べました。
DNAの複製は、複製起点と呼ばれる特定の塩基配列から始まります。 原核生物(大腸菌など)の環状DNAには複製起点が1か所しかありませんが、真核生物のDNAには複数の複製起点があり、多くの場所から同時に複製が進みます。 これにより、長大なDNA(ヒトでは約30億塩基対)でも限られた時間内に複製を完了できるのです。
DNAポリメラーゼには「何もないところから新しい鎖を始められない」という性質があります。 そのため、複製の開始時にはプライマーゼという酵素が短いRNA断片(RNAプライマー)を合成し、これを「足がかり」にしてDNAポリメラーゼがヌクレオチドをつなげていきます。 プライマーはあとでDNAに置き換えられ、DNAリガーゼでつなぎ合わされます。
DNAポリメラーゼは5'→3'方向にしかヌクレオチドを結合できません。二重らせんの2本の鎖は逆向き(逆平行)なので、一方の鎖(リーディング鎖)は連続的に合成できますが、もう一方(ラギング鎖)は短い断片(岡崎フラグメント)として不連続に合成され、DNAリガーゼでつなぎ合わされます。この非対称性は入試で頻出です。
真核生物の線状DNAの両端には、テロメアと呼ばれる繰り返し配列(ヒトではTTAGGGの反復)があります。DNAポリメラーゼはラギング鎖の末端を完全には複製できないため、複製のたびにテロメアが少しずつ短くなります(末端複製問題)。これが細胞の分裂回数に限界がある(ヘイフリック限界)原因の一つです。生殖細胞やがん細胞ではテロメラーゼという酵素がはたらき、テロメアを伸長することで分裂回数の制限を回避しています。
DNAの複製は細胞周期のなかのS期(DNA合成期)に行われます。 細胞周期はG1期→S期→G2期→M期(分裂期)の順に進み、G1・S・G2を合わせて間期と呼びます。
| 時期 | 何が起きるか |
|---|---|
| G1期 | 細胞の成長。DNA複製の準備 |
| S期 | DNAの複製。DNA量が2倍になる |
| G2期 | 分裂の準備。タンパク質の合成 |
| M期 | 細胞分裂。複製されたDNAが2つの細胞に分配される |
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
「半保存的複製」とは何か。簡潔に述べよ。
DNAの二重らせんをほどき、各鎖を鋳型にして相補的な新しい鎖を合成する複製方式。結果として、できあがるDNAはもとの鎖1本と新しい鎖1本の組み合わせとなる。
DNA複製に関わる3つのおもな酵素の名前とはたらきを答えよ。
①ヘリカーゼ(二重らせんをほどく)、②DNAポリメラーゼ(鋳型鎖に相補的な新しい鎖を合成する)、③DNAリガーゼ(断片をつなぎ合わせる)。
DNAの複製は細胞周期のどの時期に行われるか。
S期(DNA合成期)。間期(G₁期→S期→G₂期)のうちのS期にDNAが複製され、M期(分裂期)に2つの細胞に分配される。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。
DNAの複製では、もとの2本鎖がほどかれ、各鎖を( ア )にして相補的な新しい鎖が合成される。この方式を( イ )という。( イ )を実験的に証明したのは( ウ )と( エ )である。DNAの複製は細胞周期の( オ )期に行われる。
ア:鋳型 イ:半保存的複製 ウ:メセルソン エ:スタール オ:S
メセルソンとスタールは1958年に¹⁵N/¹⁴Nを使った密度勾配遠心分離実験でDNAの半保存的複製を証明しました。
¹⁵Nで完全に標識されたDNA(重いDNA)を¹⁴Nの培地に移して3回分裂させた。
(1) 3回分裂後のDNA分子の総数は何本か。
(2) そのうち、¹⁵Nを含むDNA(中間の密度のDNA)は何本か。
(3) ¹⁵Nをまったく含まないDNA(軽いDNA)は何本か。
(1) 23 = 8本
(2) 2本(もとの¹⁵N鎖は2本あり、それぞれが新しい¹⁴N鎖と対になったDNAとして残る)
(3) 8 − 2 = 6本
半保存的複製では、もとの2本の¹⁵N鎖は何回分裂しても消えず、常に¹⁴N鎖と対になった中間密度のDNAとして2本残り続けます。残りはすべて¹⁴N鎖のみで構成される軽いDNAです。n回分裂後のDNA総数は2ⁿ本、¹⁵Nを含むDNAは常に2本、軽いDNAは2ⁿ − 2本です。
(1) メセルソンとスタールの実験で、1回分裂後にすべてのDNAが中間の密度を示したことは、「保存的複製」と「分散的複製」のどちらを否定する根拠になるか。理由とともに40字以内で述べよ。
(2) DNAポリメラーゼの校正機能がなかったとしたら、生物にどのような影響があるか。「突然変異」の語を用いて40字以内で述べよ。
(1) 保存的複製を否定する。保存的複製なら重いDNAと軽いDNAの2種類が現れるはずだから。(40字)
(2) 突然変異の頻度が大幅に増加し、有害な変異が蓄積して生物の生存に支障が出る。(37字)
(1) 保存的複製では、もとの¹⁵N-¹⁵N DNAがそのまま残り、新しい¹⁴N-¹⁴N DNAが別に合成されます。1回分裂後に重い(¹⁵N-¹⁵N)と軽い(¹⁴N-¹⁴N)の2種類が1:1で現れるはずですが、実験結果はすべて中間密度でした。これは保存的複製と矛盾します。
(2) DNAポリメラーゼの校正機能は複製の誤り率を約1000分の1に下げています。この機能がないと、世代ごとに大量の突然変異が蓄積し、タンパク質の機能不全が起きます。