第7章 発生と遺伝子発現

配偶子形成と受精
─ 減数分裂から受精まで

あなたの体は約37兆個の細胞からできていますが、そのすべての出発点はたった1個の受精卵です。
受精卵は精子と卵が出会ってできるもの──では、精子と卵はどのようにしてつくられるのでしょうか。
染色体数を半分にする「減数分裂」から、新しい個体の始まりである「受精」までを見ていきましょう。

1減数分裂 ─ 染色体数を半分にする「特別な分裂」

体細胞分裂では、分裂後の細胞はもとの細胞と同じ染色体数(2n)をもちます。 しかし、配偶子(精子・卵)をつくるときには、染色体数を半分(n)にする特別な細胞分裂が必要です。 これを減数分裂といいます。

なぜ半分にする必要があるのか──受精のときに精子(n)と卵(n)が合体して受精卵(2n)になるからです。 もし配偶子が2nのままなら、受精卵は4nになり、世代を重ねるごとに染色体数が倍々に増えてしまいます。

減数分裂の流れ

減数分裂は2回の連続した分裂からなりますが、DNAの複製は最初の1回だけです。

  1. 第一分裂:相同染色体が対合して二価染色体をつくり、両極に分かれる → 染色体数が半減(2n → n)
  2. 第二分裂:体細胞分裂と同様に、各染色体が縦に裂けて両極に分かれる → DNA量が半減

結果として、1個の母細胞(2n)から4個の細胞(n)が生じます。

減数分裂の第一分裂で染色体数が半減するのか
第一分裂前期に相同染色体どうしが対合して二価染色体をつくる
第一分裂後期に二価染色体が相同染色体ごとに両極に分かれる
1つの細胞に入る染色体は、もとの半分のセット(n)になる
体細胞分裂では相同染色体の分離は起きないため、染色体数は変わらない
ポイント:体細胞分裂と減数分裂の比較
  • 体細胞分裂:1回の分裂、2n → 2n(染色体数不変)、2個の娘細胞
  • 減数分裂:2回の分裂、2n → n(染色体数半減)、4個の娘細胞
  • 減数分裂の第一分裂で対合乗換えが起きる(遺伝的多様性の源、2-2参照)

2配偶子形成 ─ 精子と卵のつくられ方

精子形成

精原細胞(2n)→ 一次精母細胞(2n)→ 第一分裂 → 二次精母細胞(n)× 2 → 第二分裂 → 精細胞(n)× 4 → 変態 → 精子(n)× 4

1個の一次精母細胞から4個の精子がつくられます。精子は小さく、鞭毛で運動します。

卵形成

卵原細胞(2n)→ 一次卵母細胞(2n、大きく成長)→ 第一分裂 → 二次卵母細胞(n)+ 第一極体(n)→ 第二分裂 → (n)+ 第二極体(n)

1個の一次卵母細胞から1個の卵しかできません。残りの3個は極体となり、やがて退化します。 卵は大きく、卵黄(発生に必要な栄養分)を蓄えています。

精子形成卵形成
母細胞1個からの産物精子4個卵1個+極体3個
サイズ小さい大きい(卵黄を蓄える)
運動性あり(鞭毛)なし
不均等分裂なし(均等)あり(卵に栄養を集中)
発展:卵形成で不均等分裂が起きる理由 生物

卵形成で1個の卵しかできないのは「無駄」に見えますが、合理的な理由があります。発生の初期段階では、受精卵は外部から栄養を取り込めないため、卵黄として蓄えた栄養で成長する必要があります。4等分すると各細胞の栄養が1/4になり不十分です。そこで1個の大きな卵に栄養を集中し、残りの3個(極体)は退化させるのです。

3受精 ─ 新しい個体の始まり

受精とは、精子と卵が融合して受精卵(2n)をつくることです。 精子(n)と卵(n)の核が合体することで、もとの染色体数(2n)が回復します。

受精には、同じ種の精子だけを受け入れる種の認識のしくみと、1つの卵に複数の精子が入るのを防ぐ多精拒否のしくみがあります。

ウニの受精 ─ 先体反応と多精拒否

ウニの受精は動物の受精のしくみを理解する代表的なモデルです。

  1. 精子が卵のゼリー層に接触すると、精子の先端で先体反応が起きる。先体から酵素が放出されてゼリー層を溶かし、先体突起が伸びて卵の細胞膜に到達する
  2. 先体突起が卵の卵黄膜(受精前の薄い膜)上の受容体に結合し、精子と卵の細胞膜が融合する
  3. 精子の進入を受けると、卵の表面にある表層粒の内容物が放出され(表層反応)、卵黄膜が卵表面から持ち上がって硬い受精膜に変化する
  4. 受精膜は他の精子が卵に侵入するのを物理的に阻止する(多精拒否

多精拒否は、受精卵の染色体数を正常に保つために不可欠なしくみです。 複数の精子が入ると3n以上になり、正常な発生ができません。

ポイント:DNA量の変化(配偶子形成〜受精)
  • 精原/卵原細胞(2n)→ S期でDNA複製 → 一次母細胞(4n相当のDNA量)
  • 第一分裂後:二次母細胞(2n相当のDNA量、染色体数はn)
  • 第二分裂後:精子/卵(n相当のDNA量)
  • 受精:精子(n)+ 卵(n)→ 受精卵(2n)

4この章を俯瞰する ─ 配偶子から発生へ

この章と他の章のつながり

他の章へのつながりマップ

  • 初期発生 → 7-2:受精卵がどのように分裂(卵割)し、胚葉を形成するか。
  • 遺伝的多様性 → 2-2:減数分裂の対合・乗換え・独立した組み合わせが配偶子の多様性を生む。
  • DNA量の変化 → 6-2「DNAの複製」:減数分裂でもS期にDNAが複製され、その後2回の分裂で分配される。

5まとめ

  • 減数分裂:2回の分裂で染色体数を半減させる(2n → n)。4個の細胞が生じる
  • 第一分裂で対合(相同染色体の接着)と乗換え(遺伝子の組換え)が起きる
  • 精子形成:1個の母細胞 → 4個の精子(均等分裂)
  • 卵形成:1個の母細胞 → 1個の卵 + 3個の極体(不均等分裂で卵に栄養を集中)
  • 受精:精子(n)+ 卵(n)→ 受精卵(2n)で染色体数が回復
  • ウニの受精:先体反応(精子がゼリー層を通過)→ 膜融合 → 表層反応受精膜形成 → 多精拒否

6確認テスト

この節で学んだ基本事項を確認しましょう。

Q1

減数分裂で染色体数が半減するのは第一分裂・第二分裂のどちらか。その理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

第一分裂。相同染色体が対合して二価染色体をつくり、後期に相同染色体ごとに両極に分かれるため、娘細胞の染色体数はもとの半分(n)になる。

Q2

精子形成と卵形成の最大の違いを「極体」の語を用いて述べよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

精子形成では1個の母細胞から4個の精子が均等にできるが、卵形成では不均等分裂により1個の大きな卵と3個の小さな極体ができる。極体はやがて退化する。

7入試問題演習

この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

7-1-1A 基礎知識穴埋め

次の文中の空欄( ア )〜( オ )に入る適切な語句を答えよ。

配偶子をつくる際の細胞分裂を( ア )という。( ア )の第一分裂では相同染色体どうしが( イ )して二価染色体をつくる。精子形成では1個の母細胞から( ウ )個の精子ができ、卵形成では( エ )個の卵と3個の( オ )ができる。

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解答

ア:減数分裂 イ:対合 ウ:4 エ:1 オ:極体

解説

減数分裂では2回の分裂で染色体数が半減します。精子形成は均等分裂(4個の精子)、卵形成は不均等分裂(1個の卵+3個の極体)です。

B 標準レベル

7-1-2B 標準計算

ヒト(2n = 46)の精子形成に関する次の問いに答えよ。

(1) 一次精母細胞の染色体数は何本か。

(2) 二次精母細胞の染色体数は何本か。

(3) 精子の染色体数は何本か。

(4) 染色体の独立した組み合わせだけで何通りの精子ができるか。

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解答

(1) 46本(2n = 46)

(2) 23本(n = 23、第一分裂で半減)

(3) 23本(n = 23、第二分裂では染色体数は変わらない)

(4) 223 = 約840万通り

解説

染色体数は第一分裂で半減し、第二分裂では変わりません。第二分裂で変化するのはDNA量(各染色体が2本の染色分体から1本になる)です。23対の相同染色体が独立に分配されるので、2²³通りの組み合わせが可能です。