真夏の炎天下でも、冬の寒さの中でも、私たちの体温はおよそ37℃に保たれています。食事の後に血糖値が上がっても、しばらくすると元に戻ります。
こうした「体内環境を一定に保つしくみ」を恒常性(ホメオスタシス)といいます。
エアコンのサーモスタットのように、体にはセンサーと調節装置が備わっているのです。この節では、その全体像を見ていきましょう。
私たちの体の約60%は水分です。この水分の大部分は細胞内にありますが、細胞の外にも液体が存在し、細胞を取り囲んでいます。この細胞外の液体を体液と呼びます。体液は細胞にとっての生活環境であり、体内環境(内部環境)と呼ばれます。
体液は、いわば「体の中の海」です。実際、体液の無機塩類の組成は海水に似ています。生物が陸上に進出したとき、海の環境を体の中に持ち込んだと考えられています。
脊椎動物の体液は、次の3種類に分けられます。
| 種類 | 存在場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 血液(血しょう+血球) | 血管内 | 心臓のポンプで全身を循環。酸素・栄養素・ホルモンなどを運搬 |
| 組織液(間質液) | 細胞間のすきま | 血しょうの一部が毛細血管からしみ出たもの。細胞と物質のやりとりをする |
| リンパ液 | リンパ管内 | 組織液の一部がリンパ管に入ったもの。リンパ球を含み免疫にも関わる |
血しょうが毛細血管の壁を通ってしみ出すと組織液になり、組織液の一部がリンパ管に回収されてリンパ液になります。リンパ液は最終的に静脈に合流し、血液に戻ります。つまり、血液→組織液→リンパ液→血液という循環が成り立っています。
外部環境(気温、湿度など)は刻々と変化しますが、体内環境(体液の温度・pH・グルコース濃度・無機塩類濃度など)は一定の範囲内に保たれています。この性質を恒常性(ホメオスタシス)といいます。
恒常性を維持するために、体には2つの情報伝達システムがあります。
この2つのシステムが協調してはたらくことで、体内環境は精密に調節されています。司令塔の役割を果たすのが、間脳の視床下部です。視床下部は自律神経系の最高中枢であると同時に、内分泌系の調節中枢でもあります。
想像してみてください。突然、目の前にクマが現れたとしたら──心臓はバクバクと打ち、瞳孔は開き、消化は止まるでしょう。反対に、食後にソファでくつろいでいるときは、心拍はゆっくりになり、消化が活発に進みます。
このように、状況に応じて内臓のはたらきを自動的に調節しているのが自律神経系です。自律神経系は、意思とは無関係に内臓や血管などを支配する神経系で、交感神経と副交感神経の2種類からなります。
交感神経と副交感神経は、同じ器官に対して反対の作用(拮抗作用)をもちます。ちょうど「綱引き」のように、2つの力がバランスをとることで、器官のはたらきが精密に調節されています。
| 器官 | 交感神経(活動・緊張時) | 副交感神経(安静・回復時) |
|---|---|---|
| 瞳孔 | 散大(拡大) | 縮小 |
| 心臓(拍動) | 促進 | 抑制 |
| 気管支 | 拡張 | 収縮 |
| 胃・腸(ぜん動) | 抑制 | 促進 |
| 皮膚の血管 | 収縮 | (支配なし) |
| 膀胱(排尿) | 抑制 | 促進 |
| 副腎髄質(ホルモン分泌) | 促進 | (支配なし) |
交感神経の末端からはノルアドレナリンが、副交感神経の末端からはアセチルコリンが、神経伝達物質として放出されます。
交感神経は脊髄の胸髄・腰髄から出て、器官の手前の神経節で次のニューロンに乗り換えます(節前繊維が短い)。一方、副交感神経は中脳・延髄・仙髄から出て、器官のすぐ近くで乗り換えます(節前繊維が長い)。この構造の違いは入試でもよく問われます。
ホルモンは、内分泌腺から直接血液中に分泌され、血流に乗って全身をめぐり、特定の標的器官(標的細胞)に作用する化学物質です。標的細胞にはそのホルモンに対応する受容体があり、ごく微量で効果を発揮します。
汗腺や消化腺のように排出管をもつ腺を外分泌腺というのに対し、内分泌腺は排出管をもたず、分泌物を体液中に直接放出します。
| 内分泌腺 | ホルモン | おもなはたらき |
|---|---|---|
| 間脳の視床下部 | 放出ホルモン | 脳下垂体前葉からのホルモン分泌を促進 |
| 放出抑制ホルモン | 脳下垂体前葉からのホルモン分泌を抑制 | |
| 脳下垂体前葉 | 成長ホルモン | タンパク質の合成促進、骨の成長促進 |
| 甲状腺刺激ホルモン | チロキシンの分泌を促進 | |
| 副腎皮質刺激ホルモン | 糖質コルチコイドの分泌を促進 | |
| (そのほか各種刺激ホルモン) | 各内分泌腺からのホルモン分泌を調節 | |
| 脳下垂体後葉 | バソプレシン(抗利尿ホルモン) | 腎臓の集合管での水分の再吸収を促進 |
| 甲状腺 | チロキシン | 代謝の促進(酸素消費量の増加) |
| 副甲状腺 | パラトルモン | 血液中のカルシウム濃度を上昇 |
| すい臓 (ランゲルハンス島) | インスリン(B細胞) | 血糖濃度を低下 |
| グルカゴン(A細胞) | 血糖濃度を上昇 | |
| 副腎皮質 | 糖質コルチコイド | 血糖濃度の上昇、タンパク質の分解促進 |
| 鉱質コルチコイド | 体液中のナトリウムイオン濃度を調節 | |
| 副腎髄質 | アドレナリン | 血糖濃度の上昇、心臓の拍動促進 |
ホルモンの分泌量は、「結果が原因に作用する」しくみ──フィードバック──によって調節されています。
たとえばチロキシンの場合を考えてみましょう。血液中のチロキシンが不足すると、視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、脳下垂体前葉から甲状腺刺激ホルモンが分泌され、甲状腺からのチロキシンの分泌が促進されます。逆に、チロキシンの量が十分になると、チロキシン自身が視床下部や脳下垂体前葉にはたらきかけて、放出ホルモンや刺激ホルモンの分泌を抑制します。
このように、結果が原因を抑制する方向にはたらくフィードバックを負のフィードバックといいます。ホルモンの分泌調節では、負のフィードバックによってホルモン量が適正な範囲に保たれています。
間脳の視床下部には、神経細胞でありながらホルモンを分泌する神経分泌細胞があります。この細胞が放出ホルモンや放出抑制ホルモンを分泌して脳下垂体前葉を調節しています。また、バソプレシンも視床下部の神経分泌細胞でつくられ、脳下垂体後葉から放出されます。神経系と内分泌系の接点として重要です。
血液中のグルコースを血糖といい、その濃度(血糖濃度)は健康なヒトでは空腹時に血液100mLあたり約100mg(約0.1%)に保たれています。血糖はすべての細胞のエネルギー源であり、特に脳はグルコースをほぼ唯一のエネルギー源としているため、血糖濃度の維持は生命にとって極めて重要です。
食事後などに血糖濃度が上昇すると、すい臓のランゲルハンス島B細胞からインスリンが分泌されます。同時に、副交感神経もインスリン分泌を促進します。
インスリンは次のようにはたらいて、血糖濃度を低下させます。
激しい運動や空腹などで血糖濃度が低下すると、複数のしくみが連携して血糖濃度を上昇させます。
注目すべきは、血糖濃度を低下させるホルモンはインスリンだけであるのに対し、上昇させるホルモンは複数あるという点です。これは、低血糖(グルコース不足)は脳の機能を直接脅かすため、何重ものバックアップ機構が進化してきたと考えられています。
インスリンのはたらきが弱まり、血糖濃度が慢性的に高くなる病気を糖尿病といいます。免疫細胞によってB細胞が破壊されインスリンが分泌されなくなる1型糖尿病と、インスリンの分泌量低下や標的細胞の反応低下が原因の2型糖尿病があります。インスリンはタンパク質でできているため、経口摂取すると胃で消化されてしまい、飲み薬にはできません(注射で投与する必要があります)。
ヒトなどの恒温動物(哺乳類・鳥類)は、外気温が変化しても体温をほぼ一定(ヒトでは約37℃)に維持しています。体温調節の中枢は、間脳の視床下部にあります。
体温が低下すると、視床下部がこれを感知し、次のような調節が行われます。
体温調節は、自律神経系とホルモンが共同して行う恒常性維持のよい例です。
恒常性を維持するしくみは、すべて同じパターンで理解できます。視床下部が体内環境の変化を検知し、自律神経系や内分泌系を通じて指令を出し、各器官が応答する。その応答の結果がフィードバックされて、指令が修正される──このループの繰り返しが恒常性です。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
体液の3種類を挙げ、それぞれの存在場所を述べよ。
血液(血管内)、組織液(細胞間のすきま)、リンパ液(リンパ管内)。血しょうが毛細血管からしみ出て組織液となり、その一部がリンパ管に入ってリンパ液となる。
交感神経と副交感神経が心臓・胃のぜん動に対してどのようにはたらくか、それぞれ答えよ。
心臓:交感神経は拍動を促進し、副交感神経は拍動を抑制する。胃のぜん動:交感神経は抑制し、副交感神経は促進する。
血糖濃度を低下させるホルモンの名称と、それを分泌する内分泌腺の名称を答えよ。
インスリン。すい臓のランゲルハンス島B細胞から分泌される。
チロキシンの分泌調節における負のフィードバックのしくみを簡潔に述べよ。
血液中のチロキシン濃度が上昇すると、チロキシンが視床下部や脳下垂体前葉にはたらきかけて、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの分泌を抑制し、結果としてチロキシンの分泌量が減少する。
寒冷時の体温調節において、自律神経系とホルモンがそれぞれどのようにはたらくか説明せよ。
自律神経系(交感神経)により皮膚の血管が収縮して放熱が減少し、立毛筋が収縮する。ホルモンとしてはアドレナリンとチロキシンが分泌され、代謝を促進して発熱量を増加させる。また、運動神経を介した骨格筋のふるえでも発熱量が増加する。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( キ )に入る適切な語句を答えよ。
ヒトの体液は、血管内を流れる( ア )、細胞間を満たす( イ )、リンパ管内の( ウ )に分けられる。体内環境を一定の範囲に保つ性質を( エ )という。( エ )の維持には、( オ )系と内分泌系がはたらいている。( オ )系は( カ )と副交感神経からなり、互いに( キ )的に作用する。
ア:血液 イ:組織液 ウ:リンパ液 エ:恒常性(ホメオスタシス) オ:自律神経 カ:交感神経 キ:拮抗
体液の基本的な分類と恒常性の概念に関する基本問題です。体液は血液・組織液・リンパ液の3種類であること、恒常性は自律神経系と内分泌系の協調によって維持されることを確認しましょう。
次の表は、ヒトのおもな内分泌腺とホルモンについてまとめたものである。空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。
| 内分泌腺 | ホルモン | おもなはたらき |
|---|---|---|
| 甲状腺 | ( ア ) | 代謝の促進 |
| すい臓のランゲルハンス島B細胞 | ( イ ) | 血糖濃度の( ウ ) |
| すい臓のランゲルハンス島( エ )細胞 | グルカゴン | 血糖濃度の上昇 |
| 副腎髄質 | ( オ ) | 血糖濃度の上昇、心臓の拍動促進 |
| 脳下垂体後葉 | ( カ ) | 腎臓での水分の再吸収を促進 |
ア:チロキシン イ:インスリン ウ:低下 エ:A オ:アドレナリン カ:バソプレシン(抗利尿ホルモン)
内分泌腺とホルモンの対応は頻出の知識問題です。特にランゲルハンス島のA細胞(グルカゴン)とB細胞(インスリン)の区別、および血糖濃度を低下させるホルモンがインスリンのみであることは必ず覚えましょう。
(1) 血糖濃度を上昇させるホルモンが複数存在する理由を、生物学的意義の観点から40字以内で述べよ。
(2) チロキシンの分泌調節における負のフィードバックのしくみを、「視床下部」「脳下垂体前葉」「甲状腺」の語を用いて60字以内で述べよ。
(1) 低血糖は脳の機能を直接脅かすため、1つの機構が失われても他の機構で補えるようにしている。(40字)
(2) チロキシンの血中濃度が上昇すると、視床下部と脳下垂体前葉にはたらきかけて刺激ホルモンの分泌を抑制し、甲状腺からのチロキシン分泌を減少させる。(60字)
(1) グルカゴン、アドレナリン、糖質コルチコイドなど複数のホルモンが血糖濃度を上昇させます。これは冗長性(バックアップ)をもたせることで、低血糖という危険な状態を防ぐ適応です。
(2) これは負のフィードバックの典型例です。視床下部→脳下垂体前葉→甲状腺という階層構造と、チロキシンがさかのぼって上位を抑制するしくみを正確に記述できるかがポイントです。
レーウィは、2つのカエルの心臓を用いた次の実験を行った。心臓1は副交感神経を1本だけ残し、心臓2は神経をすべて切除した。2つの心臓をリンガー液で満たしたビーカーに入れ、リンガー液が循環するようにした。心臓1の副交感神経に電気刺激を与えたところ、心臓1の拍動が抑制され、しばらくして心臓2の拍動も抑制された。
(1) 心臓2の拍動が遅れて抑制された理由を40字以内で述べよ。
(2) この実験から、副交感神経の末端から分泌される物質について何がわかるか。30字以内で述べよ。
(1) 副交感神経の末端から放出された化学物質がリンガー液を介して心臓2に到達し、拍動を抑制したため。(40字)
(2) 副交感神経から分泌される物質が心臓の拍動を抑制する。(27字)
(1) 神経の興奮は電気的信号ですが、シナプスでは化学物質(神経伝達物質)によって伝えられます。この実験では、副交感神経末端からアセチルコリンがリンガー液中に放出され、液を通じて心臓2にも作用したのです。
(2) この実験はレーウィ(1921年)による「迷走神経物質(のちにアセチルコリンと判明)」の発見実験として有名です。
2匹のイヌ(A, B)の血管をつなぎ、血液が互いに循環するようにした。次の実験1〜3を行い、それぞれのイヌの血糖濃度の変化を調べた。
| 実験 | 操作 |
|---|---|
| 実験1 | イヌAにインスリンを注射した |
| 実験2 | イヌAにグルコースを注射した |
| 実験3 | イヌAにグルカゴンを注射した |
(1) 実験1で、イヌAとイヌBの血糖濃度はそれぞれどのように変化するか。理由とともに50字以内で述べよ。
(2) 実験2で、イヌBの血糖濃度はどのように変化するか。理由とともに60字以内で述べよ。
(3) 実験3で、イヌBの血糖濃度が低下した。この理由を、ホルモンの作用に着目して60字以内で述べよ。
(1) Aの血糖濃度は低下する。インスリンが血液を介してBにも届くため、Bの血糖濃度も低下する。(43字)
(2) Aの血糖濃度上昇に伴い、Aのすい臓からインスリンが分泌される。このインスリンが血液を介してBに届き、Bの血糖濃度は低下する。(58字)
(3) グルカゴンがAの血糖濃度を上昇させ、それを感知したAのすい臓がインスリンを分泌し、血液を介してBの血糖濃度を低下させた。(56字)
(1) インスリンはホルモンであり血液中を運ばれるため、つながった血管を通じてBにも到達します。
(2) 注目すべきは、グルコース自体がBに届くのではなく、Aの血糖濃度上昇が引き金となってインスリンが分泌され、そのインスリンがBに作用する点です。
(3) グルカゴン→A血糖上昇→Aインスリン分泌→Bの血糖低下、という間接的な連鎖に気づけるかがポイントです。ホルモンによるフィードバック調節の理解が問われています。