キクは秋に、アブラナは春に花を咲かせます。温度も日当たりも変わる中で、植物はどうやって「今が咲くべき季節だ」と判断しているのでしょうか。
実は、植物は夜の長さを正確に測っています。そして、その情報をもとに葉で「花を咲かせる信号物質」をつくり、茎の先端に届けます。
この節では、光周性の基本から、フロリゲンの発見、そして春化のしくみまでを学びます。
植物が目もないのに「今日の昼は長いな」と判断できるのは不思議ではないでしょうか。しかし実際に、多くの植物は1日の明暗の周期に反応して花芽形成のタイミングを決めています。
生物が日長(1日のうちの明るい時間の長さ)の変化に反応して行動や形態を変える性質を光周性(photoperiodism)といいます。植物の花芽形成だけでなく、鳥類の繁殖活動や昆虫の休眠なども光周性の例です。
花芽形成と日長の関係によって、種子植物は次の3つに分類されます。
| 分類 | 開花の条件 | 咲く季節 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| 長日植物 | 連続した暗期が限界暗期以下になると花芽形成 | 春〜初夏 | アブラナ、コムギ、ホウレンソウ、アヤメ、カーネーション |
| 短日植物 | 連続した暗期が限界暗期以上になると花芽形成 | 夏〜秋 | アサガオ、キク、イネ、オナモミ、コスモス |
| 中性植物 | 日長に関係なく、一定程度成長すると花芽形成 | (季節に依存しない) | エンドウ、トマト、トウモロコシ |
ここでよくある誤解に注意しましょう。「長日植物=昼が長いと咲く」と覚えがちですが、実は植物が測っているのは夜の長さ(暗期)の方です。次のセクションで、このことを実験的に見ていきます。
たとえば、電車の時刻表で「何分間待てば次の電車が来るか」を測るように、植物も「暗期が何時間続いたか」を測って花芽をつくるかどうかを決めています。
花芽形成が起こるかどうかの境界となる連続した暗期の長さを限界暗期(臨界暗期)といいます。
つまり、花芽形成を決めるのは明期(昼)の長さではなく、連続した暗期の長さです。
このことを裏付けたのが光中断の実験です。短日植物に十分長い暗期を与えても、その暗期の途中でごく短時間の光を当てる(光中断)と、連続した暗期が途切れてしまうため、花芽形成が起こらなくなります。逆に、長日植物に長い暗期を与えても、途中で光を当てれば暗期が短く分断され、花芽形成が起こります。
光中断に有効な光は赤色光であり、赤色光受容体であるフィトクロムがこのしくみに関与しています(8-2で学習)。赤色光を当てた後に遠赤色光を当てると、光中断の効果が打ち消されます。
花芽は茎の先端(茎頂分裂組織)につくられますが、日長を感知しているのは葉です。では、葉で得た「今が咲くべき時だ」という情報は、どうやって茎頂に届くのでしょうか。
短日植物のオナモミを使った古典的な実験は、花芽形成を促進する物質の存在を強く示唆しました。
この実験から、「葉で合成された花芽形成促進物質が、師管を通って茎頂に移動している」ことがわかりました。この物質はフロリゲン(花成ホルモン)と名付けられました。
フロリゲンの存在は長らく仮説にとどまっていましたが、2007年に日本の研究チームが大きな成果を上げました。
これらのタンパク質は葉で合成され、師管を通って茎頂分裂組織に到達します。茎頂分裂組織に届いたFTタンパク質は、茎頂の転写因子(14-3-3タンパク質やFDタンパク質)と結合し、花芽形成遺伝子の発現を誘導します。
葉で日長を感知 → 葉でフロリゲン(FTタンパク質)合成 → 師管で茎頂へ移動 → 茎頂分裂組織で花芽形成遺伝子の発現を誘導
フロリゲンの実体はFTやHd3aなどのタンパク質です。一般に植物ホルモンは低分子の有機化合物と定義されるため、タンパク質であるフロリゲンは厳密には植物ホルモンの定義に当てはまりません。しかし、微量で長距離を移動し花芽形成を誘導するという性質から、植物ホルモンとして扱う立場もあります。入試では「花成ホルモン」として出題されることが多いです。
秋まきコムギは、秋に種をまいて冬を越し、翌年の春に開花します。ところが、春に種をまいても花は咲きません。これはなぜでしょうか。
秋まきコムギの花芽形成には、一定期間の低温を経験することが必要です。このように、低温を経験することによって花芽形成が促進される現象を春化(バーナリゼーション、vernalization)といいます。人為的に種子や植物体を低温にさらして花芽形成を促す処理を春化処理といいます。
秋まきコムギでは、花芽形成に関与する遺伝子の発現を抑制する遺伝子が存在します。冬の長期間の低温にさらされると、この抑制遺伝子が発現しなくなり(エピジェネティックな変化による)、花芽形成に関与する遺伝子が発現できるようになります。つまり春化は「二重否定=肯定」のしくみで、低温が抑制を解除することで花芽形成を可能にします。
春化処理を経ていない秋まきコムギにジベレリンを処理すると、低温を経験しなくても花芽を形成して開花することがあります。これはジベレリンが春化と類似した効果をもつことを示しています。実際の農業では、低温処理の代替としてジベレリン処理が使われることがあります。
植物は、自ら動くことができない代わりに、光と温度という環境情報を精密にセンシングして、最も有利なタイミングで花を咲かせる戦略をとっています。葉のフィトクロムで夜の長さを測り、条件が合えばフロリゲンを合成して茎頂に送り、花芽形成を開始する――この一連のしくみは、光受容、シグナル伝達、遺伝子発現調節が見事に連携した精密システムです。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
短日植物と長日植物のそれぞれについて、花芽形成と限界暗期の関係を述べよ。
短日植物は、連続した暗期の長さが限界暗期以上になると花芽を形成する。長日植物は、連続した暗期の長さが限界暗期以下になると花芽を形成する。
フロリゲンとは何か。「葉」「師管」「茎頂分裂組織」の語を用いて述べよ。
フロリゲンとは、葉で日長に応じて合成され、師管を通って茎頂分裂組織に移動し、花芽形成を誘導する物質(タンパク質)である。
短日植物に十分長い暗期を与えても、暗期の途中で赤色光を照射すると花芽が形成されない理由を答えよ。
暗期の途中で赤色光を照射すると連続した暗期が分断され、分断された各暗期が限界暗期より短くなるため、花芽形成が起こらない。
春化(バーナリゼーション)とは何か。「低温」「花芽形成」の語を用いて述べよ。
春化とは、一定期間の低温を経験することによって花芽形成が促進される現象である。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。
植物が日長の変化に反応して花芽形成などの応答を示す性質を( ア )という。連続した暗期の長さが一定の値より長くなると花芽を形成する植物を( イ )、短くなると花芽を形成する植物を( ウ )という。この境界となる暗期の長さを( エ )という。( イ )に十分長い暗期を与えても、暗期の途中でごく短時間の光を当てる( オ )を行うと、花芽形成が起こらなくなる。葉で合成されて師管を通って茎頂分裂組織に移動し花芽形成を促進する物質を( カ )という。
ア:光周性 イ:短日植物 ウ:長日植物 エ:限界暗期 オ:光中断 カ:フロリゲン(花成ホルモン)
光周性の基本用語を正確に覚えましょう。「短日植物=暗期が長いと咲く」「長日植物=暗期が短いと咲く」です。名前と実際の条件を混同しないようにしましょう。フロリゲンの実体はFTタンパク質(シロイヌナズナ)やHd3aタンパク質(イネ)です。
ある植物Xについて、温度を一定にした温室で、さまざまな日長条件(明期:暗期の時間)を与えて花芽形成の有無を調べたところ、次の結果が得られた。
| 条件 | 明期(時間) | 暗期(時間) | 花芽形成 |
|---|---|---|---|
| 1 | 16 | 8 | 形成しない |
| 2 | 14 | 10 | 形成しない |
| 3 | 12 | 12 | 形成する |
| 4 | 10 | 14 | 形成する |
| 5 | 8 | 16 | 形成する |
| 6 | 4 | 8+光中断+8 | 形成しない |
(1) 植物Xは長日植物、短日植物、中性植物のいずれか答えよ。
(2) 植物Xの限界暗期は何時間と考えられるか。
(3) 条件6で花芽形成が起こらなかった理由を、40字以内で述べよ。
(1) 短日植物
(2) 10時間以上12時間以下(10〜12時間)
(3) 光中断により連続した暗期が8時間ずつに分断され、限界暗期に達しなかったため。(38字)
(1) 暗期が長くなると花芽が形成されるので短日植物です。
(2) 条件2(暗期10時間)で形成せず、条件3(暗期12時間)で形成するので、限界暗期は10〜12時間の間にあります。
(3) 条件6では全暗期は16時間ありますが、途中で光中断が入り、連続暗期は最大でも8時間です。これは限界暗期(10〜12時間)より短いため、花芽形成が起こりません。この結果は「花芽形成に重要なのは明期ではなく連続した暗期の長さである」ことを示しています。
短日植物のオナモミを用いた次の実験A〜Dの結果について、それぞれ花芽が形成されるかどうかを答え、実験Dの結果からわかることを50字以内で述べよ。
実験A:すべての葉を短日処理する → 花芽は( )
実験B:すべての葉を長日条件に置く → 花芽は( )
実験C:1枚の葉だけを短日処理し、残りの葉は長日条件に置く → 花芽は( )
実験D:短日処理した枝と長日条件の枝を接ぎ木でつなぐ → 長日条件の枝の花芽は( )
A:形成される B:形成されない C:形成される D:形成される
実験Dからわかること:短日処理した葉で合成された花芽形成を促す物質が、接ぎ木を通じて師管を移動して他の枝にも作用する。(50字)
実験Cから「日長は葉で感知される」こと、実験Dから「花芽形成を促す物質(フロリゲン)が師管を通って長距離を移動する」ことがわかります。環状除皮(師管を含む外側の組織を除去)の実験では、除皮より先で花芽が形成されなくなることからも師管による移動が裏付けられます。
長日植物のシロイヌナズナでは、FTタンパク質がフロリゲンとしてはたらくことが知られている。以下の実験結果を読み、問いに答えよ。
【実験】野生型シロイヌナズナと、FT遺伝子を欠損した変異体(ft変異体)を用いて、以下の接ぎ木実験を行った。すべての個体を長日条件で栽培した。
| 組み合わせ | 地上部(葉) | 地下部(根) | 花芽形成 |
|---|---|---|---|
| I | 野生型 | 野生型 | 形成する |
| II | ft変異体 | ft変異体 | 形成しない |
| III | 野生型 | ft変異体 | 形成する |
| IV | ft変異体 | 野生型 | 形成しない |
(1) 組み合わせIIIで花芽が形成され、IVで形成されなかった理由を、FTタンパク質の合成部位と移動経路に着目して80字以内で述べよ。
(2) この実験結果から、FTタンパク質が根で合成される可能性を否定できるか。理由とともに50字以内で述べよ。
(1) FTタンパク質は葉で合成され師管を通り茎頂へ移動する。IIIでは野生型の葉が合成するが、IVでは葉がft変異体で合成できず花芽形成が起こらない。(70字)
(2) 否定できる。組み合わせIVで根が野生型でも花芽形成が起こらないことから、根はFTタンパク質の供給源ではない。(49字)
(1) フロリゲンの合成場所は葉であるという知識が前提です。IIIでは野生型の葉がFTタンパク質を合成し、根がft変異体であっても問題なく花芽形成が起こります。一方IVでは葉がft変異体のためFTタンパク質を合成できず、根が野生型でも茎頂にFTタンパク質が届きません。
(2) もし根でFTタンパク質が合成されて茎頂に供給されるなら、IVでも花芽形成が起こるはずです。IVで花芽形成が起こらないことは、根がFTタンパク質の主要な合成部位ではないことを示しています。