熱いものに触れたとき、考えるより先に手が引っ込む。ボールが飛んできたら体をかわす。こうした反応は、中枢神経系が情報を処理し、効果器(筋肉)が動くことで実現しています。
「司令塔」としての中枢神経系と、「実行部隊」としての筋肉のしくみを見ていきましょう。
中枢神経系からの指令を受けて実際に反応を起こす器官を効果器といいます。代表的な効果器は筋肉と腺(分泌腺)です。ここでは筋肉に注目します。
| 種類 | 別名 | 横紋 | 随意性 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 骨格筋 | 横紋筋 | あり | 随意筋 | 骨に付着。意思で動かせる。すばやく強い収縮 |
| 心筋 | (心臓の筋肉) | あり | 不随意筋 | 心臓を構成。自動的にリズミカルに拍動 |
| 平滑筋 | 内臓筋 | なし | 不随意筋 | 消化管・血管壁など。ゆっくり収縮 |
骨格筋と心筋は顕微鏡で見ると縞模様(横紋)が見えるため横紋筋と呼ばれます。平滑筋にはこの縞模様がありません。
筋肉はどうやって縮むのでしょうか。答えは「2種類のフィラメントが滑り合う」ことにあります。
骨格筋は、筋繊維(筋細胞)と呼ばれる多核の細長い細胞が束になったものです。筋繊維の中には多数の筋原繊維が詰まっています。
筋原繊維を顕微鏡で見ると、明るく見える明帯と暗く見える暗帯が交互に並んでいます。明帯の中央にはZ膜(Z線)と呼ばれる仕切りがあり、Z膜からZ膜までの1単位をサルコメア(筋節)といいます。サルコメアが筋収縮の基本単位です。
筋原繊維は2種類のタンパク質繊維からできています。
筋収縮は、ミオシンフィラメントの間にアクチンフィラメントが滑り込むことで起きます。これを滑り説といいます。フィラメント自体の長さは変わりません。サルコメアの長さが短くなることで筋肉全体が収縮します。
1本の運動ニューロンとそれが支配するすべての筋繊維を合わせて運動単位といいます。運動ニューロンの軸索末端は途中で分岐して複数の筋繊維に接続しており、この接続部位を終板(神経筋接合部)と呼びます。終板では、神経終末からアセチルコリンが放出され、筋繊維の興奮を引き起こします。
受容器が受け取った情報は、感覚神経を介して中枢神経系に送られます。中枢神経系は脳と脊髄からなり、情報を処理・統合して適切な指令を出す「司令塔」の役割を担っています。
ヒトの脳は、大きく大脳・間脳・中脳・小脳・延髄に分けられます。間脳・中脳・延髄をまとめて脳幹と呼び、生命維持に不可欠な機能を担っています。
| 部位 | 主な機能 |
|---|---|
| 大脳 | 感覚・随意運動・記憶・思考・言語などの高次機能の中枢 |
| 間脳(視床・視床下部) | 視床:感覚情報の中継。視床下部:自律神経系・内分泌系の調節中枢、体温調節 |
| 中脳 | 姿勢保持・瞳孔反射(瞳孔の大きさの調節)の中枢 |
| 小脳 | 体の平衡を保つ中枢。運動の調整・学習した運動の記憶 |
| 延髄 | 呼吸・心臓拍動・消化管運動・だ液分泌などの中枢(生命維持の要) |
脳死は脳幹を含む脳全体の機能が不可逆的に失われた状態で、人工呼吸器がなければ心停止に至ります。一方、植物状態は大脳の機能が大きく失われていても脳幹が機能しており、自発呼吸が維持されている状態です。日本では脳死は臓器移植法のもとで「人の死」として扱われることがあります。
脊髄は脊椎(背骨)の中を通る中枢神経で、脳と末梢をつなぐ「通信ケーブル」の役割と、反射の中枢としての役割を担っています。
脊髄の断面を見ると、中央部に神経細胞の細胞体が集まった灰白質(H字形)、その外側に軸索(神経繊維)が集まった白質があります。灰白質の背側(背根側)からは感覚神経が入り、腹側(腹根側)からは運動神経が出ていきます。
刺激に対して無意識に起こる反応を反射といいます。反射のときの興奮の伝達経路を反射弓と呼び、次のようになっています。
受容器 → 感覚神経 → 反射中枢 → 運動神経 → 効果器
反射は大脳を経由しないため、刺激から反応までの時間が短いのが特徴です。反射の中心となる部分を反射中枢と呼び、脊髄・延髄・中脳などにあります。
動物の神経系は、進化の過程で単純なものから複雑なものへと変化してきました。
| 神経系の種類 | 構造 | 代表的な動物 |
|---|---|---|
| 散在神経系 | 神経細胞が体全体に網目状に分散。中枢がない | クラゲ・イソギンチャク(刺胞動物) |
| はしご形神経系 | 体の腹側を2本の神経索が縦走し、各体節に神経節(小さな中枢)がある | プラナリア(扁形動物)、ミミズ(環形動物)、昆虫(節足動物) |
| 管状神経系 | 背側に中枢神経(脳・脊髄)が発達。脳への情報の集中処理が可能 | 脊椎動物(魚類・両生類・哺乳類など) |
散在神経系 → はしご形神経系 → 管状神経系の順に、神経の集中化(頭化)が進んでいます。頭化とは、体の前端に感覚器と神経細胞が集中し、脳が発達する傾向のことです。
筋収縮のエネルギー源はATPですが、筋肉中のATPの貯蔵量はごくわずかです。激しい運動時には、ATPがすぐに使い尽くされるため、クレアチンリン酸が即座にATPを再合成する役割を果たします。
クレアチンリン酸は、高エネルギーリン酸結合をもつ物質で、そのリン酸基をADPに転移させることでATPを速やかに再合成します。この反応はクレアチンキナーゼという酵素によって触媒され、細胞呼吸よりもはるかに速くATPを供給できます。
クレアチンリン酸 + ADP → クレアチン + ATP
クレアチンリン酸は「エネルギーの一時貯蔵庫」として、瞬発的な筋収縮を支えています。クレアチンリン酸が枯渇すると、解糖系や酸化的リン酸化によるATP供給に切り替わります。
動物の刺激に対する反応は、受容器で刺激を受け取り(9-4)、感覚神経で中枢に伝え(9-2, 9-3)、中枢神経系で処理・判断し、運動神経で効果器に指令を送り、筋肉が収縮するという一連の流れで完結します。この全体像をつかむことが、第9章の学習のゴールです。
この節で学んだ基本事項を確認しましょう。
骨格筋・心筋・平滑筋について、横紋の有無と随意筋か不随意筋かをそれぞれ答えよ。
骨格筋:横紋あり・随意筋。心筋:横紋あり・不随意筋。平滑筋:横紋なし・不随意筋。
「滑り説」とは何か。「アクチンフィラメント」「ミオシンフィラメント」の語を用いて説明せよ。
筋収縮は、ミオシンフィラメントの間にアクチンフィラメントが滑り込むことで起きるという説。フィラメント自体の長さは変わらず、サルコメアの長さが短くなることで筋肉全体が収縮する。
脳の5つの部位(大脳・間脳・中脳・小脳・延髄)のうち、呼吸や心臓拍動の中枢はどこにあるか。
延髄。
反射弓の経路を、受容器から効果器まで順に5つの要素で述べよ。
受容器 → 感覚神経 → 反射中枢 → 運動神経 → 効果器。
この節で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の文中の空欄( ア )〜( カ )に入る適切な語句を答えよ。
骨格筋の筋繊維の中には( ア )が詰まっており、その中に細い( イ )フィラメントと太い( ウ )フィラメントが配列している。筋収縮は( イ )フィラメントが( ウ )フィラメントの間に滑り込むことで起き、これを( エ )という。筋収縮の引き金となるのは( オ )から放出される( カ )イオンである。
ア:筋原繊維 イ:アクチン ウ:ミオシン エ:滑り説 オ:筋小胞体 カ:Ca2+(カルシウム)
骨格筋の収縮メカニズムに関する基本事項です。筋小胞体からCa2+が放出されるとトロポニンに結合し、トロポミオシンが移動してミオシンの結合部位が露出することで滑り込みが起きます。
(1) 大脳・間脳(視床下部)・中脳・小脳・延髄の機能を、それぞれ20字以内で述べよ。
(2) 膝蓋腱反射の反射弓が他の反射と比べて特殊な点を「介在神経」の語を用いて30字以内で述べよ。
(1) 大脳:感覚・随意運動・記憶・思考の中枢。間脳(視床下部):自律神経系と体温調節の中枢。中脳:姿勢保持と瞳孔反射の中枢。小脳:体の平衡を保つ中枢。延髄:呼吸・心臓拍動の中枢。
(2) 感覚神経が脊髄内で介在神経を経ずに直接運動神経とシナプスを形成する。(33字)
(1) 特に間脳の視床下部は自律神経系の最上位中枢であり、体温調節・ホルモン分泌調節の司令塔です。延髄は生命維持の要で、延髄が機能を失うと呼吸が止まります。
(2) 膝蓋腱反射はニューロン2個(感覚神経→運動神経)のみの最短の反射弓です。介在神経がないため反応が極めて速く、筋の急激な伸展から保護する役割があります。
サルコメアの構造について、以下の実験結果をもとに考察せよ。
骨格筋の筋原繊維を顕微鏡で観察しながら、筋肉を収縮させた。収縮前後で明帯の幅は狭くなり、暗帯の幅は変化しなかった。
(1) 暗帯の幅が変化しなかった理由を「ミオシンフィラメント」の語を用いて30字以内で述べよ。
(2) 明帯の幅が狭くなった理由を「アクチンフィラメント」「滑り込み」の語を用いて40字以内で述べよ。
(3) ATPの供給を完全に断った場合、筋肉の状態はどうなるか。理由とともに40字以内で述べよ。
(1) 暗帯はミオシンフィラメントの長さに対応し、その長さは変化しないため。(31字)
(2) アクチンフィラメントが暗帯方向に滑り込み、明帯の部分(アクチンのみの領域)が短くなったため。(43字)
(3) ミオシンがアクチンに結合したまま離れられなくなり、筋肉が硬直する。(32字)
(1)(2) 滑り説の核心は、フィラメントの長さが変わらずに滑り込みが起きる点です。暗帯=ミオシンフィラメントのある領域で幅は不変。明帯=アクチンのみの領域で、滑り込みにより幅が縮小します。
(3) ATPはミオシン頭部がアクチンから離れるためにも必要です。ATP枯渇状態ではミオシンがアクチンに結合したまま固定され、死後硬直と同じ状態になります。